第148話 子猫ちゃん

 それだけではない。温室に植えられていた花や木が見るからに生き生きとしている。蕾だったものが花を咲かせていたりする。

 これは、もう長老は抑える気がないだろう。


「長老……やり過ぎだ」

「アハハハ、まあいいじゃないか」


 笑っている。明らかに今回も確信犯だ。


「もう……何がなにやら」

「父上! しかし素晴らしいです! なんて凄い魔力なんだ!」


 宰相の息子、マルティノ君は魔力量が多いだけあって少しは分かるらしい。

 長老は確かに凄い。凄いと言う言葉以にない位だ。エルフ族の中では随一の魔法の使い手だ。


「じーちゃんはしゅげーんら」

「あうー」


 アルセーニくんは分かっているのか? 目をキラキラと輝かせているが。


「ありゅ、大きくなってまほーに興味をもったりゃ、おりぇのとこにくりゅんらじょ」

「あうー?」

「おぼえとくんらじょ」

「あー」

「はりゅら」

「あーうー」

「しょうら、はりゅら。おともらちらからな」

「あうあー」


 会話になっていない。いや、意思疎通は出来ているのだろうか?

 ハルがアルセーニくんの小さくてプクプクとした手を握る。そのハルの手だって小さい。

 ヒューマン族の割には魔力量が多いだろうアルセーニくん。もしも将来魔法に興味を持ったら、自分を訪ねるのだとハルが言い聞かせる。

 訪ねようにも、ヒューマン族はエルヒューレ皇国を見つける事さえできないというのに。


「ハルくん、ありがとう」

「気にしゅんな」


 相変わらず、言う事は一人前だ。


「ハルくん、アルセーニが頼ったらよろしく頼むよ」

「おー、まかしぇとけ」


 そう言いながら、ハルはアルセーニくんの手を撫でる。2人共、小さな手だ。プクプクだ。まだ、手の甲にエクボができている。この小さな手の二人が未来を担うようになるのだ。

 二人の未来が平和であるように、その為にエルフ族は今出来る事をするだけだ。


「ハル、精霊獣を呼び出してもらわんと」

「じーちゃん、しょうらった。ひぽ」

「ぶも」


 忘れていたのか? と、少し納得がいかないような目でハルを見るヒポポ。


「わりー」

「ぶも」

「ん、らいじょぶら」


 少しお小言を言われちゃったか?


「ひぽ、呼び出してくりぇ」

「ぶもッ」


 よし、とヒポポが頷いている。そして、また一鳴きした。


「ぶもぉッ!」


 すると、コハルが植えた精霊樹からワラワラと、そして可愛らしい泣き声を上げながら出て来た。小さな子猫ちゃんの精霊獣だ。みんな背中に葉っぱの羽があり、尻尾には3枚の葉っぱが付いている。

 が、最初に出て来た精霊獣の子猫ちゃんの様に、尻尾の先が二股には分かれていない。

 そして、色だ。どの子もミルキーカラーなのだが、ブルーだけでなくピンクにイエロー、グリーン。色とりどりの子猫ちゃん達だ。


「な~」

「みゃ~」


 口々に鳴きながら、ハルを目掛けて飛んでくる……と言うよりも、フワリフワリと浮いて移動してくる。


「にゃー、にゃー、かぁわいいなぁー!」

「猫ちゃんやん、仲間にゃん!」

「カエデ、どうしてよ。精霊獣とカエデが仲間の筈ないじゃないの」

「シュシュ、拗ねてんの?」

「ば、馬鹿じゃないの!? あたしが拗ねたりする訳ないじゃない!」

「仲間にゃー!」

「だぁーかぁーらぁー!」

「シュシュ、いいじゃない。大きな意味では仲間じゃないの?」

「違うわよ! 仲間はあたしよ! あ・た・し! 精霊獣なら聖獣の方が近いわよ!」

「はいはい。拗ねちゃって」

「だから、拗ねてないわよ!」


 はいはい、賑やかしチームは本当に煩い、そして若干面倒だ。

 

「かえれ、しゅしゅ、かわいいじょー」

「ハルちゃんの方が可愛いわよぅー」


 はいはい、シュシュはハルちゃんのファンクラブ会員だものな。


「ふふふ、リヒト様。カエデまで喜んでますね」

「ああ、ルシカ。猫だからな」

「そうですね」


 精霊獣とハル達がじゃれついている。それをポカーンと口を開けて見ている宰相親子。


「あうー! ああー!」


 アルセーニくんが自分も行きたいと、宰相の腕の中から身体を乗り出している。


「これは……なんと……!?」

「素晴らしい……!」

「あうあーッ!」


 ヒューマン族が本当は見る事が出来ない光景だ。

 精霊獣どころか、精霊樹を見る事ができない。精霊はおとぎ話の世界の存在なのだ。


「私達はなんという貴重な経験をさせて頂いているのだ」

「父上、父上、凄く可愛いですよ!」

「あうー!」


 確かに、すっごく可愛らしい。パステルカラーの小さな子猫ちゃん達がフワリフワリと浮いているんだ。

 そして、ハルはというと。


「ぶふふ……前が見えねー」


 また子猫ちゃんの精霊獣に囲まれていた。嬉しがって、猫ちゃーん! と呼ぶからだ。


「ハル、毎度の事だな」

「りひと、みえねー」

「おう、ハルが呼ぶからだろう?」

「らって、かわいいじょ。ぶふッ」


 ハルの顔面にくっついている子がいるぞ。それは流石に取ってあげよう。


「ほら、ハル。まだ聞く事があるだろう?」


 長老が手を出し、ハルの顔面にしがみ付いている子猫ちゃんを引っ剥がした。


「ふゅ~ッ、びびったじょ。ひぽ、しぇいりぇいじょーおーがきたか聞いてくりぇ」

「ぶもぶも」


 ヒポポが、最初に出て来た精霊獣と話しをしている。

 大きな頭をヒョコヒョコと動かしながらだ。

 さて、この精霊樹には精霊女王はやって来たのか?

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