第143話 ちびっ子同士

「あうあー」

「アル、聖獣様だ。お目に掛かれるなんて光栄な事なのだ」


 まだ言葉も喋れない子にそんな事を言っても理解できないだろう。


「アヴィー先生、ご無沙汰しておりますな」

「あら、宰相。今日はお休みなの?」


 切れ者だと噂されている宰相。こうしてちびっ子を抱っこしていると、普通の優しそうなお爺さんだ。いや、お爺さんというにはまだ若い。


「これは長老殿。世話になっております」

「ご無沙汰しておりますな。おや、お孫さんですかな?」

「そうなのですよ。長老殿は曾孫さんでしたな」

「アハハハ、そうです。ハルといいます」


 宰相はアヴィー先生だけでなく、長老も面識があるらしい。いや、長老だけでない筈だ。リヒトとルシカもそうだろう。

 なにしろ、2人は長老と一緒にいきなり大公の執務室に転移したのだから。その時、宰相も一緒にいた。


「おや、リヒト殿とルシカくんも一緒なのだな」

「以前は突然失礼しました」


 リヒトとルシカが少し緊張しているか? 以前の事があるからか?


「ちびっ子ら」

「そうだな、ハルよりちびっ子だ」

「かぁわいいなぁ〜。お名前は何てんら?」

「アルセーニと言うのですよ。アルと呼んでやってくれるかな?」

「ありゅかぁ。おいれー」


 ハルが両手を広げると、宰相に抱っこされていたちびっ子アル君が、ハルのそばに行きたいと体を捩らせている。


「あー、あうー」

「分かった分かった。ハル君、隣にいいかな?」

「おう」


 ハルが自分の隣を、手でポンポンとした。ここにおいでと言っているんだ。

 ハルの隣にちょこんと座らせられた、宰相の孫のアル。ハル&アル。ユニットでも組んじゃうか?


「よしよし。かぁわいいなぁ。おりぇははりゅら。はーりゅ」

「あうー」

「しょうしょう。はるゅらじょ」


 ハルが小さな手で、まだ赤ちゃんと呼べるくらいのアルの頭をそっと撫でる。


「こりぇはしゅしゅら。しゅしゅ」

「あう」

「しょうら。もふもふら。いいやちゅらじょ」


 ちびっ子同士で通じるものがあるのか? 会話が成立しているらしい。

 どう聞いても、アルは『あうー』しか喋っていないと思うのだが。


「可愛いちびっ子じゃない〜」


 シュシュが前足を片方ソファーにトンと乗せた。そのシュシュの手が気になるのだろう。


「あうー、あう」


 シュシュの手を触ろうとしている。


「しゅしゅを触りてーのか? しゅしゅ、こっちしゅわれねー?」

「あら、いいの?」


 聖獣だが、一応虎さんだ。ソファーに乗ってもいいかと目で宰相に訴えている。

 シュシュったら、そんなところは弁えているのだね。宿だと、我が物顔でソファーで寝そべっているのに。


「構いませんぞ。聖獣様、アルが失礼をするかも知れませんが」

「何を言っているのよぅ。ちびっ子だもの、そんなの気にしないわぁ〜」

「おお! 流石、聖獣様!」


 いやいや、そんな大袈裟なものではないだろう。

 シュシュがヒョイとソファーに乗り、ハルとアルの後ろに伏せる。


「きゃっきゃ」

「おー、よりょこんれるじょ」


 ちびっ子アルくん、シュシュにパフンと抱きついた。丁度、シュシュのお腹辺りだ。


「ふふふ、可愛いわね。ちびっ子は可愛いわぁ。ハルちゃんは特別に可愛いわぁ」


 そんな事を言いながら、ハルのほっぺをベロリンベロリンと舐める。


「しゅしゅ、やめれ」

「いいじゃないー、ハルちゃ〜ん」


 ハルちゃんラブが全開だ。


「あうーあーふ」


 何か喋りながら、ハルより小さな手でシュシュを一生懸命撫でている。時々、ポフポフと叩きながら。


「かぁわいいなぁ。元気におっきくなりゅんらじょ。おっきくなったりゃ、一緒にあしょぼうな」

「あうあー」

「アハハハ、しょっか」


 何を話しているのか。大人には全く分からない。

 ハルとちびっ子アルくんの影響で、場の空気がなんともホンワカと優しいものになっている。

 ちびっ子なのに、ちびっ子の相手をしているハル。お兄ちゃんだ。

 自分より小さな子は珍しい。いつも、ハル1人がちびっ子だから。


「ハルちゃんが、お兄さんに見えるわね」

「ハルは自分より小さなものが好きだよな?」

「なにいってんら、りひと。かわいいらろ?」

「おう、ハルもな」

「おりぇはこんなにちびっ子じゃねー」

「アハハハ、そうかよ」


 リヒトから見れば、ハルも充分にちびっ子だ。


「アヴィー、話を進めてくれるか?」

「そうだったわ。ハルちゃんに見惚れちゃったわ」


 毎日見ているだろう。


「宰相、実は大切な話なの」

「はい、アヴィー先生」


 やっと本題に入った。毎回本題に入るまでが長い。

 アヴィー先生が説明をした。

 先ずはこの世界には精霊がいるという事。瘴気の事。それを浄化しているのが、先日設置した魔石だったり、精霊樹だったりすると。


「復興の際に、長老殿が設置しなければと仰ってましたな」

「そうだ、それですな」

「その、精霊や精霊樹と言うのは私達にとってはおとぎ話で。精霊樹などは初めて聞きました」

「この国ではそうでしょうね。でも、エルヒューレでは当然の事なのよ。私達エルフ族は、太古の昔から……それこそ創世期から精霊を守り続けてきた種族なのよ」

「この国にもしぇいりぇいはいりゅじょ。ちょっとらけらけろな」

「そうなのですか!?」

「しょうら。見えねーかりゃわしゅりぇりゅんら。けろ、ほんとにいりゅんらじょ」

「私達エルフ族も、精霊を見る力を失っているのだけど、ハルは見えるの。精霊と話す事もできるのよ」

「なんと……!?」

「アヴィー先生、では本当に精霊はいるのですね?」

「だからティノ、そう言っているじゃない。私達は実際にその王から頼まれてこの国に来たのよ」

「王!?」

「そうよ、精霊王よ」


 アヴィー先生はエルヒューレ皇国の城での一件を話して聞かせた。

 精霊王に直々に頼まれて、各国の精霊樹を探して回っているのだと。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

出来たてホヤホヤです。^^;

明日、リリの3巻発売記念SSをあちらに投稿します!

宜しければ読んで頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る