第141話 ヤキモチ?

 ヒューマン族には魔力操作なんて知る由もない。根本的な対処法を知らないのだ。

 魔力操作を覚え、自分で魔力をコントロールできるようにならなければいけない。それをヒューマン族に、指導できるかと言えばできないだろう。

 リヒト達に魔法学を教えていた、アヴィー先生はこれ以上ない適任だっただろう。

 メイドさんが皆にお茶を出してくれ、ハルにはりんごジュースをくれた。


「ありがとごじゃましゅ」


 と、言うハルにメイドさんはキュンキュンしていたらしい。

 そこに、部屋のドアをノックする音が聞こえた。と、同時にドアが開いた。


「アヴィー先生、ご無沙汰しております!」


 入って来たのは、今話していたご子息だ。

 ヒューマン族にしては、薄っすらとブルー色に見える金髪の髪を一つに結んでいる。瞳はアイスブルーだ。

 言われてみれば、エルフ族の色味に近い。もしかして、魔力量が髪色や瞳の色に影響があるのだろうか?


「まあ、ティノ。大きくなったわね」

「アヴィー先生、もう私は20歳です。もうあの頃の様な子供ではありませんよ」

「ふふふ。何を言っているのよ。まだ20歳じゃない」


 そりゃそうだ。アヴィー先生は軽くその10倍は生きている。


「ああ、お会い出来るなんて。嬉しいです! 」


 アヴィー先生に、ティノと呼ばれた宰相のご子息。余程嬉しいのだろう。アヴィー先生の手を両手で握り締めた。


「ふふふ。相変わらずね」

「アヴィー先生も変わらずお綺麗です!」


 アヴィー先生も見た目は美魔女。エルフ族らしく見目麗しい。


「アヴィー、紹介してくれんか?」

「あら、そうね。ご子息のマルティノ・クエンスキー君よ。あの頃、半年位だったかしら。お預りしたのよ」

「あの時は、アヴィー先生に命を助けて頂きました。それだけではありません。私にとっては、掛け替えのない素晴らしい日々でした」

「ティノったら大袈裟だわ。長老、ティノって呼んでいるの。ティノ、エルヒューレ皇国の長老で私の夫よ」

「アヴィー先生の!?」

「ラスター・エタンルフレだ。こっちは曾孫のハルという」

「ひ、曾孫ですか!?」

「おう、ハルら」


 ずっとアヴィー先生の手を握っていたマルティノの手を、ハルが小さな手でパチンと叩いた。


「あ、すみません。失礼しました」

「いいのよ。ティノは子供みたいなものですもの」

「ばーちゃん、ちげー」

「あらやだ、ハルちゃんったらヤキモチなの?」

「ちげー」


 おやおや、こんなハルは初めてではないか?


「アハハハ、ハルでもそんな事を思うか?」

「らから。じーちゃん、ちげー」


 プイッと顔を背けるハル。プクプクのほっぺをより一層膨らませている。ちょっぴり拗ねちゃったか? 大事なアヴィー先生を、取られちゃうとでも思ったのかな?

 大丈夫だ、心配いらない。何しろアヴィー先生は、筋金入りのハルのファンクラブ会員だ。


「ふふふ。元気そうで良かったわ」

「はい。あれからアヴィー先生に教わった魔力操作は欠かしていませんよ」

「そう、なら大丈夫だわ」


 『魔力過多症』を発症した者は、魔力操作が重要になる。どれだけ自分で自分の魔力を制御できるかだ。

 その為に、魔力操作の訓練は必須になるんだ。


「おりぇもおしょわったじょ」

「そうね。リュミにでしょう?」

「しょうら」

「ハル君と呼んでも良いかな?」

「おー」

「ハル君も魔力が多いのかな?」

「ふちゅーら」

「アハハハ。ハルが普通なら俺達はどうなんだよ」


 確かに。ちびっ子のハルと大して魔力量の変わらないリヒト。

 以前、ツヴェルカーン王国の遺跡調査の時に発覚した事だ。大きなプールの様に敷き詰められた魔石を浄化した事があった。その時に皆の魔力量が大体分かった。

 一概に魔力量だけではない。長老は魔力操作に長けている。その為に浄化能力も一番高かった。

 あの時、倒れたのはアヴィー先生とハルだった。ハルは魔力量は多いが、まだまだ魔力操作は長老やリヒトには敵わない。


「りひとの方が多いじょ」

「まあ、今はな」

「紹介するわね。ベースの管理者のリヒトよ」

「リヒト・シュテラリールという。よろしく」

「あ、あの! エルフ族最強の5戦士ですか!?」

「おう、知ってんのか?」

「はい! アヴィー先生に聞きました。お会いできて光栄です!」


 其々が自己紹介して、ミーレの順になった時だ。


「ミーレ・アマリエラです。リヒト様の侍女です」

「よろしくお願いします……え……?」

「何か?」

「あ……いえ、あの……」


 ミーレに見惚れている訳ではない。決してない。

 マルティノがシュシュをガン見しているんだ。信じられないと言った表情だ。


「分かるのかしら?」

「アヴィー先生、では……」

「シュシュ、元の大きさに戻ってもいいわよ」

「あら、そうなの?」


 と、言ったかと思ったら、ミーレの腕の中からシュタッと降りグググッと大きくなった。堂々たる白虎の姿だ。


「ああ! 聖獣様!!」

「あら、分かるのね?」

「当然です! 私も虎獣人の端くれですから!」


 そうだ、このマルティノ君。虎獣人だった。頭には可愛らしい少し丸い耳があり、虎柄の長い尻尾がある。それにしては珍しい毛色ではないか?


「多分、魔力が多いからでしょうね」

「そうだろうな。この国では珍しい色だろう」

「そうなんです。家族でも私だけなのです」


 やはり、髪色に影響があるらしい。

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