第135話 そこでは止めよう

「なんだ、こんな場所でやってたのか?」


 リヒトまで出て来た。


「リヒト様、裏が使われへんねん」

「だからって、宿の真ん前だぞ」


 そうなんだよ。宿の入口の真ん前だ。それは、みんな分かっている。


「仕方ないやん、場所ないねんもん」


 カエデちゃん、場所がないから鍛練は止めておこうという選択肢はないのだね。

 宿から出てきた、これまた綺麗なエルフのリヒトを見て見物していた女性陣から溜息が漏れた。

 思わず溜息が漏れてしまうくらいに、美しくてカッコいいらしい。


「りひと、やりゅか?」

「なんでだよ」

「らって閑なんらろ?」

「いや、そうじゃなくてだな。こんな場所でしなくても……」

「リヒト、もう遅いぞ。この見物人の多さだ」

「歓声が部屋にも聞こえてきたぞ」

「アハハハ! 仕方あるまい」


 宿の前が大騒ぎになってしまっている。これは、迷惑なのじゃないか?

 と、ふと見ると宿の従業員まで見に出て来ていた。女性陣は皆胸の前で手を握りしめお祈りポーズになってしまっている。目は当然ハートだ。そこら中からハートが飛び交っている。

 無理もない。突然現れた見目麗しいエルフ達。しかも、何故か宿の前で鍛練をし出した。

 幼児とは思えない身のこなしのちびっ子エルフ。まだ子供なのに、エルフに果敢に挑む身軽な猫獣人の女の子。落ち着きのある大人なイケオジエルフが出て来たかと思ったら、精悍でこれぞエルフという様な見目麗しい若いエルフ。

 もう、女性陣が喜ばない訳がない。


「仕方ねーな。ハル、やるか?」

「おりぇはやんねー」

「なんだよ! 今やるか? って言ってただろうが!?」

「聞いたらけら」


 ハルちゃん、相変わらずリヒトには塩対応。

 小さくなっているシュシュを膝に乗せて、ミーレと座って観戦を決め込んでいる。


「にゃー」

「しゅしゅ、かぁわいいじょ」

「にゃぁー」


 シュシュを小さな手でナデナデしている。

 小さくなって喋らないと可愛い子猫ちゃんみたいだ。静かで良い。


「皆、もう中に入りなさい。これ以上人が多くなると危険だ」


 流石に長老がそう言った。

 確かに、人が多く集まり過ぎている。


「おう、入ろうぜ」

「もうおしまいなんか?」

「カエデ、仕方ない」

「はいな」

「ハル、入りましょう」

「しゃーねー」


 と、ハルがよっこいしょと立ち上がったその時だ。

 集まっていた人混みが分かれ、その中から屈強な体型でお揃いの隊服を着た人達が現れた。

 ほら、こんな場所で鍛練なんてしているから、叱られるんだ。


「エルフの国の長老殿のご一行とお見受け致しました」

「ああ、そうだが。すまんな、こんな場所で騒いでしまって」

「いえ、そうではないのです」


 おや? 叱られる訳ではないらしい。


「我々とも、お手合わせ頂けないかと思いまして参上致しました」

「手合わせですか?」


 なんと、注意されるかと思いきや、手合わせしたいと言い出した。

 止めておく方が良いと思うぞ。

 その一団はこの3層に駐在している騎士団の一部なのだそうだ。

 国の機関や、騎士団の基地があるだけあって、騎士団が常駐しているらしい。

 その中で我こそはという5人がやって来た。


「以前、アヴィー先生にお手合わせ頂いた事があります」


 ああ、この人達だったのか。アヴィー先生にこっ酷くやられてしまった騎士団とは。


「ですので、お強い事は存じております。我々と1対1ではなく、我々全員と一度にお手合わせして頂けませんでしょうか?」


 エルフからは何人なのかは分からないが、対この場にやって来た騎士団全員とらしい。

 それなら勝てるのか? いや、どうだろう?


「おりぇ! おりぇ、やりゅじょ!」

「これ、ハル」

「らってじーちゃん、おもしりょしょうら」


 当然ハルは、こういう時張り切ってしまうよね。


「自分も! 自分もやるで!」


 と、手を挙げているカエデ。この二人はそう来るだろうと思った。


「なら、俺もだ。イオス、やるだろう?」

「え、リヒト様。俺もですか?」

「なんだよ?」

「だってリヒト様が出るなら、俺が出ると戦力過多になってしまいますよ」

「いやいや、イオス。最強の5戦士のリヒトが出ては駄目だろう」


 もう、長老までやる気になっている。決まりみたいだ。


「ここでは何です。中央の広場に移動しましょう」


 それでもだ。いいのか? 大衆の面前でやっつけられてしまうのだぞ。


「エルフの方々に勝てるとは思えませんが、我々にも意地があります」


 だそうだ。なら、余計に一般の人達が見ていない場所の方が良いと思うぞ。

 そんな事で、宿の前から少し離れた場所にある広場へとやって来た。

 広場といっても、そんな手合わせをする様な場所ではない。

 中央と周りに木が何本も植えてあり、ベンチも設置されている。所謂、憩いの場という感じの場所だ。そこに、突然やって来た騎士団5人とエルフの一行。

 広場にいた人達は何事かと見ている。

 それに、やはり見目麗しいエルフの一行だ。


 ――うわぁ~、超カッコいい。

 ――すげー美人!


 そう、ミーレの事だ。ミーレもシュシュを抱っこして付いて来ている。


「長老、私が出ますよ」

「ミーレ、そうか?」

「はい。リヒト様は駄目です。強すぎますから」

「そうだな」

「おりぇ! おりぇも!」

「自分も! 自分も!」

「ああ、分かった分かった」


 メンバーは決まったらしい。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

出来たてホヤホヤでっす。^^;

宜しくお願いします!

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