第134話 そこで鍛練?

「いやぁ、良い経験をさせて頂きました」


 と、騎士団の基地長さんに言われ、一行は基地を後にした。

 取っていた宿に戻り、今日はもう一泊して明日次の2層へと向かう。


「はりゃへったな」

「ハルちゃん動いたしな」

「何よ、あんなの動いたうちに入るの?」

「ん、がんばった」

「アハハハ! ハル、そうか? 楽勝だっただろう?」

「けろ、じーちゃん。手加減も、むじゅかしいんら」

「そっちかよ!?」


 手加減するのに頑張ったそうだ。なるほど。


「自分も、自分もやでー! 手加減したもん」

「いや、カエデはまだまだだな」

「イオス兄さん!」

「夕飯まで軽く鍛練するか?」

「はいな!」


 カエデは元気っ子だ。ぴょんぴょんと弾む様にイオスの後を付いて行く。尻尾もユラユラと楽しそうに揺れている。


「おりぇも見てこよっかなぁ〜」

「にやぁー」

「らな。しゅしゅ、一緒にいくか?」

「にゃー」


 行くらしい。


「はいはい、仕方ないわね」


 ミーレに抱っこされて、ハルと一緒にイオスとカエデの後を追う。

 トコトコとハルが歩いている。可愛いぞぅ。


「ハル、お手々繋ぎましょう」

「ん」


 ミーレに手を繋がれる。こうしていると、とてもちゅどーんなんて必殺技をするとは見えない。可愛いちびっ子だ。


「じゃあ私は夕飯の用意でもしましょう」

「ルシカ、私お茶が飲みたいわ」

「はい、アヴィー先生」

「アヴィー、基地で飲んでいただろう?」

「だって、ルシカが淹れてくれるお茶の方が美味しいんですもの。クッキーもあるかしら?」

「はい、ありますよ」


 ハルみたいな事を言っている。血は争えない。ハルが食いしん坊なのは、アヴィー先生に似たのではないか?


「まるで、ハルみたいだな」

「あら、そうかしら?」


 長老も同じ事を思ったらしい。


「よく似た事を言っているぞ」

「あら、嬉しいわ」

「アヴィー先生、褒められてねーよ」

「リヒト、何言ってんのよ。ハルちゃんは可愛いからいいのよ」


 また言い返された。リヒトはカッコいい枠なのに、いつも決まらない。アヴィー先生に敵うわけない。

 長老やアヴィー先生が、ルシカの淹れたお茶でまったりとしている頃。

 宿の前に人集りが出来ていた。


「たぁーッ!」

「アハハハ! ハル、はえーな!」

「まらまらー! とぉッ!」


 ――カン! カーン!


 ハルとイオスが宿の真ん前で打ち合いをしていた。何もそんなに目立つ場所でしなくても。


「ハルちゃーん! 頑張れー!」

「にゃー」

「裏が使えないからって、何もこんな場所でしなくても良いのに」

「ミーレ姐さん、だって場所がないねんもん。仕方ないやん」

「しなきゃいいのよ」

「ミーレ姐さん、あり得へんわ」


 どうやら、鍛練する場所が無かったらしい。それにしても、どんどん人が集まってきているぞ。


 ――ちびっ子、頑張れー!


 なんて声が掛かっている。

 珍しく、ハルvsイオスだ。どちらが強いかというと、単純な剣の腕前ならイオスに軍配が上がる。

 ハルがいくら身体強化を使っても、剣の腕前はイオスの方が強い。

 大人だし。長年、剣の鍛練をしている。

 だが、魔法が加わるとハルの方が強くなる。でも、こんな街中ではつかえない。しかも、ヒューマン族の街だ。魔法に慣れていない。

 そんな事もあり、ハルは身体強化のみでイオスにチャレンジしている。

 いつも、シュシュやヒポポに乗っているから、偶には体を動かすのも良いだろう。


「とおッ!」

「甘いな」


 ――カーン!


 イオスに木剣を叩き落とされてしまった。


「あー、いおしゅちゅえーな」

「アハハハ、ハルも強いぞ」

「次は自分! イオス兄さん、お願いしますッ!」

「おう、こい!」


 今度はカエデがチャレンジだ。


「ハル、よく動けていたわよ」


 宿の入り口横にある階段に座ってミーレは見ていた。高みの見物だ。

 ハルがやって来てちょこんと横に座る。


「みーりぇ、しょっか? けろ負けたじょ」

「何言ってんのよ。まだちびっ子なのに上出来よ」

「しょっか」

「にゃー」

「シュシュ、かわいいなぁ〜」


 ミーレの膝の上に寝そべっていたシュシュを撫でている。

 まだエクボのあるプクプクとした手だ。

 そんな小さな手で、よく短剣を持っていたものだ。


「まだ手も小さいじゃない」

「ちびっ子らからな」

「ふふふ、体型もね」

「ようじたいけいら」

「可愛いじゃない」

「しゃーねー」


 ――おおー!!


 と、見物人から声が上がった。

 カエデが空中で一回転して、シュタッと着地を決めたからだ。

 猫獣人らしく、とっても身軽だ。少し身体強化もできる様になった事もあり、より身軽になっている。


「おらおら! 左が甘いぞ!」

「分かってるって!」


 イオスが煽っている。ハルの時とは違って、カエデには手厳しい。それだけハルが強いという事もある。


「こらこら、こんな場所で何をしているんだ」


 長老が中から出て来た。見物人が多くなっている。何があったのかと、見に来る人達までいる。


「じーちゃん、たんれんら」

「長老、裏が使えなかったんですよ」

「そうか。だが、そろそろ終わりにせんか? 人が多く集まってしまっているだろう」

「そうですね。どんどん多くなってしまって」


 ――カーン!


「ああ! また負けたー!」

「アハハハ! 俺に勝つなんて100年はえーぞ!」


 どうやら、決着が付いたらしい。


 ――よくやった!

 ――兄さん、強いな!


 人集りから声が掛かる。拍手まで起こる。まるで、発表会みたいになってしまっている。

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