第128話 脱線

「あら? 勘違いしないでね。カエデ……後ろにいる猫獣人の子ね。あの子よりは強いから下から2番目よ」

「いやいや、アヴィー先生。その、曾孫さんは……?」

「ああ、ハルは強いわよ。私なんて相手にならないわ」

「ばーちゃん、しょんなことねーじょ」

「そんな事あるわよ」

「しょっか?」

「そうよ、ハルちゃん」


 ここで、不満気にしているのが白い小さな奴だ。


「あたしは人数に入ってないんじゃない!?」


 なんて思っているのだろう。喋ってはいけないぞぅ。


「あら、シュシュはもっと強いじゃない」

「にゃぁ」

「アヴィー先生、猫がですか!?」

「ふふふ、今は子猫ちゃんみたいになっているけど、本当は白い虎の聖獣なのよ。虎の姿でいると、この国では騒ぎが起きちゃうでしょう? だから小さくなっているのよ」

「なんとッ!? 聖獣様は本当に存在するのですか!?」


 え? そこから? と、シュシュが思っていそうだ。この国では精霊や妖精どころか、聖獣だって伝説の生き物なのだ。


「存在するわよ、聖獣も妖精も精霊だっているわ」

「ここにはいねーけろな」


 ハル、茶々を入れるのはやめよう。

 精霊はこの基地にはいないらしい。


「この基地にお邪魔したのも、その精霊の話なのよ」

「せ、精霊ですか。それはなんとも興味深いです」


 眼鏡をクイッと上げながら、事務室長が言った。


「あら、興味あるのかしら?」

「はい。この国はエルフ族の方々に救って頂きました。その事実に私は感銘を受けたのです。そのエルフ族の方々が、何を大切にされているのか。色々文献を読みました」


 事務室長はエルフ族について勉強したらしい。そして、エルフ族が何を大切にしているのか。何を守っているのか。知ったそうだ。


「私達は他の種族の事を詳しく教わる機会はないのです。ですが、エルフ族の方々はとんでもなくお強い。私共ヒューマン族とは格が違う。それで深く興味を持ったのです」


 ほうほう、この国ではエルフ族だけでなく、ヒューマン以外の種族の事を教わらないらしい。エルヒューレ皇国ではどうなのだろう?


「俺達は教わるぞ。ヒューマン族だけでなく、竜族もドワーフ族も、魚族にもだ」

「魚族も実在すると仰いますか?」

「当然だ。実際に俺達は海底にある魚族の国に行った事がある」

「協定も結んでいるわよ」

「な、なんとッ!?」


 2人顔を見合わせている。鳩が豆鉄砲を食ったようとはこの事だ。

 協定の事でアヴィー先生は今この国に滞在している。なのに、その事を騎士団でも知られていないのか?


「協定を結んでいないのは、この国だけなのよ。だから私がこの国に来ているのよ」

「それは……協定の事は存知ませんでした。私共は無知すぎる」

「上が公にしていないのね。そんな保守的過ぎるところもどうかと思うわ」

「アヴィー、それはこの国の政策でワシ等がとやかく言う事ではない」

「だって、長老」


 長老は一歩引いて見ている。アヴィー先生はど真ん中で関わっている。この夫婦の性格が見える様だ。

 それで、やっと本題だ。


「実はね、この基地の中に精霊樹という樹があるの」

「せ、精霊樹ですか?」

「そうなのよ、信じられないかも知れないけど本当なの」


 アヴィー先生が、精霊樹について説明した。その精霊樹がこの国の瘴気を浄化していると。そして、今は弱っているのだと。それを元気にさせたいので各地に点在する精霊樹を回っているのだと説明した。


「しかし、仰る建物の裏には木はありませんぞ」

「ヒューマン族には、そう見えるでしょうね」

「私共にはですか? では、アヴィー先生には見えていると?」

「ええ、そうね。私の曾孫の方がよく見えるの」


 ハルちゃん、君の事を言われているぞ。


「こりぇ、うめーじょ」


 出された菓子を食べていた。ハルの横に、ピトッと寄り添う様にお座りしているシュシュに食べさせたりしている。


「にゃ」

「まら食べりゅか?」

「にゃん」


 食べるらしい。


「りゅしか、こりぇうめー」

「ナッツのフロランタンですね」

「りゅしかも、ちゅくりぇんのか?」

「はい。作りましょうか?」

「ん、ちゅくって」

「はいはい」

「ハルちゃん、甘いん?」

「かえれ、あまいしうめーじょ」


 そう言いながら、カエデにハイと菓子を手渡す。


「ん、食べてみ」

「有難う」


 なんだか、菓子をご馳走になりに来たみたいじゃないか。


「ルシカ兄さん、見て」

「はい、今度一緒に作ってみましょうか?」

「うん、作ってみたいわ」

「カエデ、頂きなさい」

「うん。ミーレ姐さん、半分コしよか?」

「ふふふ、いいからカエデが食べなさい」

「みーりぇ、あい」

「あら、ハル。有難う」

「りゅしかと、いおしゅも」

「おやおや、頂きますね」

「おう、有難う」


 まるで、ハルがご馳走しているみたいに皆に配っている。


「ルシカ兄さん、この甘いのは何なん?」

「ああ、これはバターと砂糖、はちみつ、生クリームを火にかけて作るのですよ」

「へぇ〜、美味しいな」

「な、んめーな」


 おやつの時間の様になってしまっている。おやつを食べてやって来た筈なのに。

 ハルちゃん、精霊樹の話をしに来たのだよ。覚えているかな? 本当によく脱線するな。


「ハル、夕飯食べられなくなるぞ」


 長老に一言言われてしまった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る