第127話 騎士団の基地

 先導してくれている隊員が申し訳なさそうに言った。


「大変お手数かとは思いますが、我々の上司がご挨拶をしたいと待っております」

「そう、それは仕方ないわね」

「今回は対戦なさらないのですか?」

「もう、嫌だわ。そう毎回はしないわよぅ」

「それは残念です。是非、見学したかったのですが」

「アハハハ。アヴィー、有名人だな」

「もう。長老、止めてよ」

「そちらのお方は?」

「私の夫よ。エルフの長老なの」

「長老殿ですか!? か、か、感激です! この3層を守って下さったと聞いております!」

「ああ、それはワシだけではない。今いる者全員だな」

「な、なんとッ!?」


 案内している隊員の目が泳いでいる。そりゃそうだ。全員と言っても、女子もいるし子供もいる。ちびっ子までいるのだ。

 キョトンとして長老に抱っこされているハル。少し首をヒョイと傾げている。


「おりぇ、たいしぇんしよっかな~」

「これ、ハル」

「ふふふ、ハルちゃんでも楽勝よ」

「ばーちゃん、しょっか?」

「そうよ。ハルちゃんの足元にも及ばないわ」


 おやおや、隊員の前で堂々とそんな事を言っても良いのか?


「アヴィー先生、失礼ですがそのお子様は?」

「私の曾孫よ。ハルっていうの。鬼強いわよ~」

「ひ、ひ、曾孫!?」


 ああ、やっぱそこに食いつくよね。なにしろ、アヴィー先生は美魔女だ。曾孫がいる様なお年には見えない。


「まだ3歳だけど、ヒューマン族では敵わないわね」

「さ、さ、3歳児にですか!? それはいくらなんでも言い過ぎでは? 私共は毎日鍛練しておりますし」

「あら、じゃあやってみる? 軽く負けちゃうわよ」

「それは、騎士団として黙っておれませんね」


 こらこら、アヴィー先生。煽るんじゃないよ。ハルがやる気になったらどうするんだ?


「よしッ! やりゅじょ!」


 ああ、やる気になってしまったじゃないか。ほら、いつもの様に拳を上げているぞ。


「アハハハ。ハル、マジかよ」

「りひと、まじら」

「これアヴィー、余計な事を言うんじゃない」


 ほら、長老に叱られた。長老はこんな時は大人だ。いや、それが当たり前なのだけれども。


「とにかく、挨拶しよう。それから一応事情を説明しようか」

「そうなの? だって、どうせ信じないわよ」

「それでもだ。敷地内に入らせてもらうのだからな」

「分かったわよぅ」


 本当、アヴィー先生はお転婆だ。


「じーちゃん、おりぇやりゅじょ」

「ハルも少し黙ってなさい」

「えぇー」


 珍しく、ハルが長老に叱られた。出来るだけ、さっさと精霊樹の事を済ませてしまいたいらしい。場所が場所だけに、長居もできないだろう。

 それに、あまり見られたくはない。いくらアヴィー先生が、認識阻害のシールドを張るとしてもだ。


「ハルちゃんがあかんのなら自分がやるで」


 なんて、カエデまで言い出したりもした。


「カエデも黙ってなさい」


 と、また長老に叱られていた。あっちもこっちも大変だ。

 そんな事を話しながら、門から少し入ったところにある建物の中に入って行った。その一室に案内された。応接室なのだろう。

 重厚な家具が並んでいる。ソファーも大きい。

 その部屋で、案内してくれた隊員とはまた隊服の色が違う男性2人が待っていた。

 ピシッと背筋を伸ばして敬礼をしている。


「ようこそお越し下さった。私はこの基地の基地長をしておりますフィン・ブラッドフォードと申します」

「私は事務室長のマック・アズールと申します。お目に掛かれて光栄にございます」


 基地長だと名乗った男性の方が少し若い。騎士らしくガタイも良く、サラサラの金髪を短く刈っている。深いブルーの瞳が精悍さを醸し出している。

 一方、事務室長だという年配の男性。どう見ても、騎士には見えない。騎士団の事務を担当しているのだろう。騎士達とは違う制服を着ている。そして、体の線も細い。

 栗色の髪を後ろで1つに結んでいて、眼鏡を掛けている。その奥の瞳は目尻がほんの少し下がっていて、冷たい感じではなく人が良さそうな印象を受ける。


「あら、ご丁寧にどうも。私はアヴィ・エタンルフレよ」

「ワシはラスター・エタンルフレ。この子は曾孫のハル・エタンルフレです」

「彼はエルフの国の長老で私の夫よ。そして、ベースの管理者のリヒト」

「初めまして、リヒト・シュテラリールです」


 この4人がソファーに座り、ルシカにイオス、ミーレとカエデはハル達の後ろに控えて立っている。


「これはこれは、長老殿にベースの管理者殿ですか! 皇族であらせられると聞いております。お目に掛かれて光栄です!」

「アヴィー先生といえば、この国で世話になっていない者はいないでしょう」

「あら、それは大袈裟よ。4層で細々とやっていたもの」

「いやいや、何を仰います。我々もアヴィー先生の店の傷薬は欠かせませんぞ」

「そうなの? それは嬉しいわ」


 やはり、ここでも有名人のアヴィー先生。長年、この国で店をしていただけの事はある。

 しかし、この基地で有名なのはそれだけではない。


「なにしろ、アヴィー先生はお強い」

「いやだわ。このメンバーの前ではそんな事は言わないで。恥ずかしいわ」

「また、ご謙遜を」

「本当なのよ。この中では……そうね、私は下から2番目かしら?」


 1番弱いのはカエデだ。その次に弱いとアヴィー先生は言っている。

 そこで、騎士団の2人の頭の上に『?』が沢山飛んでいる。

 誰が1番弱いのか? きっとハルだと確定しているのだろう。では、あの猫獣人の女の子はアヴィー先生より強いのか? と、悩んでいるのだろう。



 ◇◇◇


すみません、遅くなりました!

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