第126話 入門

 アヴィー先生が大人しく食べている。


「私はこれ好きよ。カエデ、とっても美味しいわ」

「アヴィー先生、ありがとう!」

「おいしいなのれす」

「ぶも」

「あたし、ヨーグルトチーズが気に入ったわ」


 ハルちゃんチームも気に入ったらしい。


「食べたら行くぞ」

「おう、長老」

「そうね」

「じーちゃん、ろこにいくんら?」


 ハルはもう忘れたのか? 何の為に此処に来たのだ?


「ハル、精霊樹だ」

「しょっか。入りぇんのか?」


 覚えていたらしい。


「許可書を貰って来たからな」

「しょっか」


 さっき拭いて貰ったのに、もうお口の周りに生クリームがついている。

 美味しくカエデ作のズコットを食べて、さあ次の精霊樹へ行こう。


「イオス、歩いて行けるか?」

「すぐそこですよ。先導しますね」

「イオス兄さん、自分も」

「おう」


 もう、お決まりの師弟コンビだ。カエデもよく動く。動く度に長い尻尾がヒョロッと動く。


「かえれのしっぽ、かぁいいなぁ~」


 ハルは長老に抱っこされている。歩くのが遅いからね、仕方がない。


「ハルは触りたいと言っていたな」

「ん、さわりてー」

「アハハハ」

「ハルちゃん、駄目よ。ネコ科の尻尾はデリケートなのよ」

「ん、さわらねーよ」


 そう言えば、カエデと初めて会った時に、ハルは言っていた。

 お耳と尻尾を触りたいと。それは駄目だ。耳と尻尾は敏感らしいよ。


「ハル、ワールドマップは見たか?」

「じーちゃん、見てねー」


 おいおい、見ていないのか?


「らって、まっしろしろなんら」

「アハハハ。ワシも騎士団の基地は入った事がないぞ。だから真っ白だ」

「しょうなのか?」

「ああ。だが、大体の場所は分かるだろう?」

「しょう?」

「そうだな。ハルは慣れないといかんな」

「ん、じぇんじぇんなれてねーな」


 自分で言うんじゃないよ。ハルは、ワールドマップが苦手なのかな?


「どこみても、まっしろしろらからな」

「今回の旅で、変わるだろう」

「しょうか?」

「色んな場所に行ったからな」

「しょうらな」


 そんな話をしながら、テクテクと歩く。イオスが言う様に、宿から直ぐだった。10分も歩いていない。

 頑丈そうな高い壁が直ぐに見えてきた。その壁に門が設けられている。大型の馬車が余裕で通れそうな大きな両開きの扉の横に、人が通る様な扉がある。その前に詰所があった。

 

「ちょっと行ってくるわね」


 アヴィー先生が、その詰所の窓をコンコンと叩いて声を掛ける。


「ちょっとごめんなさいな」


 まるで、知り合いの家にでも行く様な感じだ。そんなので良いのか?


「はい、何か御用ですか?」


 詰所の中にいた騎士団らしき隊服を来た若い男性が答えてくれた。意外にも丁寧だ。もっと脳筋気味に答えるのかと思っていたぞ。


「中に入りたいんだけど」

「許可書をお持ちでないと入れません」

「持っているわよ」


 長老が後ろから許可書を手渡す。


「拝見します」


 詰所の中の男性がそれを確認する。すると顔色が変わり、慌てて出て来てビシッと片手を胸に当てた。この国での敬礼だ。おや、もう1人がダッシュで中に走って行ったぞ。


「お目に掛かれて光栄です! アヴィー先生!」

「あら、私を知っているの?」

「勿論です! アヴィー先生の傷薬に何度お世話になった事か分かりません!」


 おやおや、アヴィー先生はこんな場所でも有名人だった。対戦してコテンパンにやっつけてしまったのに。


「アヴィー先生はとてもお強いと有名です!」


 ほら、やはり対戦した所為だ。


「嫌だわ、やめてちょうだい。私なんてエルフの中では普通なのよ」

「どこがだよ」


 こんな時でも、つい突っ込んでしまうリヒト。


「だってリヒトに敵わないじゃない。ベースの管理者のあなたには全然敵わないわよ」

「なんとッ!? あのベースの管理者をされているのですか!?」

「お? おう。俺はベースの管理者だけど?」

「エルフ族の中でも、最強でないとその地位につけないと聞いております!」

「まあ、そうだな」

「お目に掛かれて感動ですッ!」


 ピシっと背筋を伸ばしながら、目をキラキラと輝かせている。騎士団だけに、力なのか? やはり最強が良いのだろうか?


「ご案内致しますので、もう少々お待ちください!」

「いやいや、中に入らせてもらったらワシ等で勝手に動くんだがな」

「そうは参りません。何しろ騎士団の基地ですので」


 それはそうだろう。いくら許可書を持っていると言っても、中でご自由にどうぞとはいかないだろう。

 そんな話をしていると、中からまた人が出て来た。慌てて走って来たらしく、息を切らしている。


「お待たせしました。ご案内致します!」


 おう、こっちまで背筋が伸びるぞ。キビキビとしていて騎士団らしい。


「じーちゃん、ろこら?」


 ハルはマイペースだ。ポヤ~ッとしている。全く緊張感がない。


「この中だ。アヴィー、分かるか?」

「ええ。あの1番奥の建物の裏側じゃないかしら?」

「あそこか……」


 長老がワールドマップで確認しているのだろう。


「確かに、あの方向だな」


 長老のワールドマップでも、この辺りは真っ白だと言う。騎士団の基地に、入る事なんて普通はない。

 隊員に先導され、中を移動する。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

ハルの書籍化、順調に進んでます。

乞うご期待を!

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