第125話 ズコット

 ハルは、祖母がハイエルフ、祖父がハイヒューマンのクォーターだ。ハルの母親は人間で、この世界でいうとヒューマン族だ。そして、父親はハイエルフとハイヒューマンのハーフの筈だ。

 だが、祖父母の能力はハルに受け継がれたらしい。そして、この世界に渡って来る時にヒューマンの要素は取り除かれ、ハルの中にはハイエルフとハイヒューマンの要素だけが残った。

 その影響で、とんでもなく能力の高いちびっ子になっている。

 前世では、体が辛かったので大人しくしていた。今世はその分、弾けているのかも知れない。弾けすぎ? かも知れない。


 長老達は、のんびりとハルが起きるのを待っている。

 カエデがお茶を入れて、ミーレが優雅に飲んでいる。何故に?


「本当、カエデは上達したわ」

「ミーレ姐さん、有難う!」


 嬉しそうだ。ミーレに褒めてもらうのは、カエデにとってはとても嬉しい事らしい。


「最初に教わったのがミーレ姐さんやからな。自分はミーレ姐さんの弟子でもあるんや」


 おやおや、カエデは本当に素直な良い子だ。


「ミーレ、聞いたか?」

「なんですか、リヒト様」

「カエデは健気だぞ」

「あら、それはどういう意味ですか?」

「いや、深い意味はないけどな」

「ミーレだってお茶を入れるのは凄く練習しましたよね」

「そうよ、ロムスさんが厳しいのだもの」

「アハハハ、親父か」

「イオス、笑い事じゃないわよ。ロムスさんからは逃げられないのよ」

「そりゃそうだ。親父から逃げられる奴なんていねーよ」

「本当、そうだわ」


 ミーレも扱かれたらしい。珍しい。練習嫌いのミーレなのに、ロムスには敵わないそうだ。


「ロムスだけじゃないだろう? 母上にだって敵わないじゃないか」

「リヒト様のご家族は別ですよ」

「俺はそこに入ってねーじゃん」

「リヒト様も別です」


 どう別なのか、意味が分からない。リヒト以外の、シュテラリール家の人間には敵わないという事だろう。

 そろそろハルが起きる様だ。


「ふわぁ〜」


 ハルが欠伸をしながら、体を伸ばしている。ポヨンポヨンのお腹だね。キュッと抱きしめたら、フニフニしていそうだ。


「ハルちゃん、起きたの?」

「ん、よく寝たじょ。ちゅぎは、りゅしかのおやちゅら」

「そうね、みんな待ってるわ。行きましょう」

「おう」


 何も言わなくても、シュシュはハルが乗り易い様に伏せている。そこに、ヨイショとハルが乗る。宿の中くらいは、自分で歩こうよ。


「りゅしか、おやちゅら」

「はい。ハル、起きましたか」

「ハルちゃん、用意してあるでー」

「かえれ、ありがちょ」


 シュシュが歩く後ろを、大きな精霊獣のヒポポが行く。頭にはコハルが乗っている。ハルちゃんチームのお通りだ。


「今日はなんら?」

「今日はズコットや。ルシカ兄さんに教わって、カエデちゃんが作ったんやで」

「じゅこっと?」

「そうやでー」


 カエデが、ワゴンに乗せて持ってきた。

 丸いドーム型したケーキだ。ドームの表面に、綺麗にカットした果物が並んでいる。


「うぉ、しゅげーな。最近、しゃれてんらな」


 ハルちゃん、カヌレがおやつに出た時も『洒落ている』と言っていた。その基準は何なのだろう。


「これなぁ、半解凍状態やねん。丸い型にスポンジとかフルーツとか並べて詰めていくんや」

「カエデ、切り分けて下さい」

「はいな、ルシカ兄さんも食べてや」

「はい、頂きますよ」


 ドーム型の中はどうなっているのかと、ハルが身を乗り出して見ている。


「ハル、興味津々だな」

「りひと、知ってたか? じゅこっと」

「いや、知らん」

「リヒト様、お邸で食べた事がありますよ」

「ミーレ、そうだったか?」

「そうですよ。ねえ、ルシカ」

「そうですね。何度も作りましたね」


 ハルは興味津々だが、リヒトは興味がないらしいぞ。


「じゅこっと、はやく食べたいじょ」

「よし、切れた。ハルちゃん1番にあげるな〜」

「ありがちょ」


 ハルはもうフォークを手に、いつでもOKの状態だ。カエデがやっと一切れを皿に載せた。

 中にも色んなフルーツが入っている。生クリームは勿論だ。


「今日のは、ヨーグルトチーズも入ってるねん」

「いたらき!」


 ハルちゃん、カエデが説明しているぞ。分かっているのか?


「んまッ!」

「せやろ、せやろ! カエデちゃんが作ったのは美味しいやろ〜」


 まあ、カエデが喜んでいるから良いか。


「カエデ、美味しいわ。シペさんが作ったのと変わらないわよ」

「ほんま? ミーレ姐さん、ありがとー」


 シペさんとは、シュテラリール家のシェフだ。


「ああ、そういえばこれ食べたな」


 リヒトはきっと分かっていない。


「奥様がお好きなので、よく作りますよ」

「なんだ、母上が好きなやつか」

「はい、そうですよ」

「それなら覚えてるぞ」


 本当だろうか?


「カエデ、ワシは小さめで頼む」

「はいな、長老」

「長老はあんまり食べないのか?」

「ワシは、もっと酒を効かせてナッツ類を入れたのがあるだろう? あっちの方が好きだな」

「旦那様バージョンですね」

「ルシカ、そうなのか?」

「はい、旦那様がそっちの方がお好きなのですよ。ハル、お口の周りを拭きましょうね」

「りゅしか、ありがちょ」


 おや、今日は大人しく拭かれるのだな。


「またちゅくけろな」


 やはり、それは言うんだ。

 アヴィー先生が大人しいぞ。


「私はこれ好きよ。カエデ、とっても美味しいわ」

「アヴィー先生、ありがとう!」

「おいしいなのれす」

「ぶも」

「あたし、ヨーグルトチーズが気に入ったわ」


 ハルちゃんチームも気に入ったらしい。

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