第129話 見えるもの、見えざるもの

「すみませんな、脱線してしまった」

「いえ、なんとも可愛らしい曾孫さんで。エルフ族の方々は、皆様見目麗しいと聞いておりましたが、これ程とは」

「ん? なんら?」

「ハルちゃんが可愛いって言って下さっているのよ」

「ありがちょ。けろ、ちげー」


 ハルが短い人差し指を立てて、フリフリと横に振っている。物申したいらしいぞ。


「あら、何が違うの?」

「らって、ばーちゃん。おりぇは男ら。らから、可愛いじゃなくてかっけーがいいじょ」

「あらあら。ふふふ」

「アハハハ、本当に何もかも可愛らしいですな」

「らから、ちげー」

「ハルはまだちびっ子だからな」

「りひと、かんけーねーじょ」

「あるだろうよ」

「しょっか?」

「おう。りひとはかっけーのか?」

「いや、俺に聞くなよ」

「アハハハ、ハル。本人に聞いてもな」


 リヒトは一応、カッコいいポジなのだよ。何度も言っているけどね。

 なのに、長老の方がカッコよく見えるのは気の所為だろうか? ハルがそう尋ねるという事は、ハルには『りひと、超かっけー』とは、思われていないのだろうね。


「それで、精霊樹なのですが」


 長老が無理矢理話を戻した。何度戻しても、脱線する。ハルの所為か? みんなか?


「ああ、そうでしたな。私共には到底信じられませんが」

「そこね」


 アヴィー先生が、口を挟む。


「見えるもの、見えざるもの。見る事が出来ないから信じられないのだったら、エルフ族の事は理解できないでしょうね」


 その通りだ。エルフ族は、精霊を見る事が出来ない。偶々、ハルがいるから今のメンバーはコハルの裏技で、精霊樹や精霊獣は見える様になったが。普通は見る事ができないのだ。

 それでもエルフ族は、何千年と精霊を信じてきた。世界樹と共に、精霊を守ってきたんだ。悠久の昔からずっとだ。

 その事を精霊達も知っている。精霊王や精霊女王だって知っていて、一目を置いて信頼しているのだ。だからこそ、精霊王は今回の件をハルやリヒト達に頼んできたんだ。

 見えないから信じられない。なら、人の気持ちはどうなのだろう?

 気持ちを実際に見る事はできない。それでも、信じようとしたり、信じたりする。それは、ヒューマン族だって同じ事だろう。

 騎士団だと、体と共に精神を鍛える。その鍛えている精神は見えるのか? 本当に、鍛えられているのか? 見えなくても、それを信じて毎日鍛練を欠かさない。それが、騎士団なのだろう?


「精霊という日常とかけ離れている話なので、そう思われるかも知れませんな」

「なるほど、確かに。我々も同じ様な事をしているのだな」

「騎士としての心得等もおありでしょう」

「もちろんです。騎士道精神に反する事をするなと、日々言い聞かせております」

「大きな意味で言うと、それも同じですな」


 さすが長老。ちゃんと話を戻した。このまま、菓子談義になるのかと思ったぞ。


「それでね、私達が裏にいる間は近寄ったり見たりしないで欲しいの」

「アヴィー先生、それは何か害があると言う事でしょうか?」

「そうじゃないわ。害なんてないわよ。ただね、ヒューマン族には見えない事をするし、見ても何をしているのか分からないの。聖獣だけじゃなくて精霊獣もいるわ。それに驚かれたり、騒ぎになったりして中断したくないのね。そんなに時間は取らせないわ」

「なるほど、分かりました」

「では、団員が表の鍛練場で鍛練をしている最中が宜しいのではないでしょうか?」

「そうね、その方が目立たないわね」


 皆が鍛練に集中している間に、さっさと済ませてしまおうと言う事らしい。


「ばーちゃん、おりぇたいしぇんしゅりゅじょ」


 またハルが余計な事を言い出した。脱線の原因はハルだね。


「ハル、またお前は……」

「え、じーちゃん。らめか?」

「ハルが勝つに決まっているだろう?」

「しょっか?」

「そうだな、楽勝だろう」

「えぇ~、おりぇ3歳らじょ」

「それでもだ。手加減できるか?」

「れきるじょ」


 話を聞いていた基地長が思わず口を出す。


「いやいや、お待ちください。いくらなんでも3歳の幼児に、負ける様な騎士はおりませんぞ」


 それがそうとも言えない。ハルはまだ3歳のちびっ子だが、鬼強い。

 もしも、ハルが本気で騎士に向かって『ちゅどーん!』なんてしてしまったら、どうなる事か分からないぞ。

 なにしろ、大森林の超大型の魔物を倒す威力だ。ヒューマン族は一溜まりもない。


「確かにハルは3歳ですが、大森林の超大型の魔物を倒します。それも一発で」

「な……まさか、そんな事が!?」


 あるのですよ。ハルちゃんは、可愛いだけではないのだ。


「ちびっ子でもエルフ族ですからな。ワハハハ」


 おや、長老が自慢気だ。自慢の曾孫だからね。


「しかし、こんな機会は滅多にありません。是非、お手合わせ願いたいものです」

「リヒト、どうだ?」

「俺より、イオスの方が適任だろう?」

「え? 俺っスか?」


 確かに、適任と言えば適任だ。毎日、カエデの鍛練に付き合っている師匠だ。人を教える事にも慣れているだろう。手加減の頃合いも分かるだろう。


「今の時間から昼まで、皆表の鍛練場におります。今の内に如何でしょう?」

「そうね、良いかしら?」

「勿論です。ご案内させましょう」

「いえ、いいわ。許可してもらえるなら、私達だけで行くわ」

「それは構いませんが」

「なら、そうさせてもらおう」


 話がいろんなところで脱線してしまったが、良い具合に落ち着いた。

 この後、直ぐに一行は建物の裏側へと移動した。



 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

ココちゃんが完結して、ハルちゃん1本になると少し寂しい気がします。^^;

暫く、リリとハルの書籍化作業に集中しますので、少しの間はハル1本でいきたいと思います。

まだこれからSSを考えるのです。(>_<)

宜しくお願いします!

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