第122話 ハルちゃんチーム
「ハルちゃ~ん、クッキーやでー!」
「おう~!」
どこからか声が聞こえてきた。どの部屋にいるんだ? 直ぐにシュシュに乗ってハルがリビングに入って来た。
「かえれ、風呂がちっせーの」
「そらしゃーないで。この国やとお風呂があるだけでもラッキーやで」
「しょうらな」
やはり、お風呂のチェックに行っていたらしい。
「ベッドは大きかったわ」
「はいはい、シュシュが一緒に寝るとどんなベッドでも狭くなるけどな」
「カエデ、酷いわね」
「ハルちゃん、長老とアヴィー先生とは寝えへんの?」
「ん、いちゅもシュシュが横にいりゅかりゃな」
「なんや、シュシュお邪魔やん」
「違うわよー! あたしは添い寝してんの!」
「はいはい」
姦しい。どうでもいいじゃないか。と、リヒトは思っていそうだ。
「リヒト様、クッキー食べますか?」
「いや、俺はお茶だけでいいよ」
「ハル、座りなさい」
「あ~い」
ルシカが引率の先生みたいになっている。大変だね。姦しいのが何人もいて。
「あたちも食べるなのれす」
「ぶもも」
「コハルとヒポポの分も用意してますよ」
「ありがとなのれす」
「ぶも」
ハルちゃんチームは食べるらしい。
「カエデも座って食べなさい」
「うん、ルシカ兄さん。ありがとう」
「ルシカ、私も食べるわ」
「え、ミーレもですか?」
「何? 駄目なの?」
「いえ、待って下さい」
ハルちゃんチームにミーレも参加だ。ハルはソファーに座って、足をプランプランさせながらクッキーを手に持っている。
「こりぇ、ナッツが入ってりゅじょ」
「ハルちゃん、ナッツだけと違うで」
「なんら?」
「味やで。いつもと違うやろ?」
「ああ、めーぷるら」
「そうそう。美味しいやろ?」
「ん、んめーじょ」
メープル風味のナッツ入りクッキーらしい。凝っている。
普段は何かと姦しいハルちゃんチームも、ルシカのクッキーを食べている時は大人しい。
「ルシカ、長老とアヴィー先生だけどさ」
「はい、どうしました?」
「嫌な予感がするよな?」
「そうですか? 私はもう慣れましたよ」
慣れたらしい。ルシカ、意外にも肝が据わっている。
「前回、いきなり大公の執務室へ転移したでしょう。あの時以上の事はそうないかと思うのですよ」
「なるほど、それもそうだ」
いやいや、それが基準なのか?
きっと、今長老とアヴィー先生はよく似た事をしているんじゃないか?
「流石に、また城へは行ってないだろう」
「ふふふ、どうでしょうね」
リヒトよ、それはフラグを立てると言うのだよ。
「りひと、んめーじょ」
「おう、良かったな」
「なんら、食べねーのか?」
「さっき朝飯食ったばかりだろう」
「しょっか?」
「そうだよ」
ふぅ~ん、と足をプラプラさせながらクッキーを手に持っているハル。
コハルなんて、ほっぺがパンパンに膨れているぞ。
「ナッツが美味しいなのれす」
「ぶも」
最近、コハルとヒポポが良いコンビになっている。2頭でずっとハルの亜空間にいたのだから、その内に仲良くなったのだろう。一体、亜空間の中で何をしているのだろう。
「こはりゅは、まらちびっ子らからな。ほとんど、寝てんら」
「ハルもちびっ子だろうよ」
「おりぇは起きてりゅじょ」
お昼寝するだろうに。ハルもまだまだちびっ子だ。それでも、鬼強いから安心感はあるよね。
「次の精霊樹にはまだ行かないなのれすか?」
「入れねーとこにあんら。じーちゃんとばーちゃんが、なんとかしゅるっていってたじょ」
「そうなのれすか」
コハルが気にしているぞ。ヒポポはクッキーに夢中だ。
今回の宿屋も、なかなかに豪華だ。なにしろ、貴族ご用達の宿屋だ。
華美な装飾がされている。部屋も中央にリビングとダイニング、ちゃんとしたキッチンが付いていて寝室も数部屋ある。
いつも、豪華な宿に泊まっているが今回もなかなかだ。
「平民は食べていくのに必死なんやで」
「カエデ……」
「この国の貴族って、めちゃ偉そうにする奴もいるんや」
「そうなのか?」
「そうやで。リヒト様なんか、この国で言うたらトップクラスのお貴族様や。せやのに、気さくやん? 偉そうになんかせーへんやん。リヒト様の、爪の垢でも飲ませてやりたいわ」
「国によって違うからな。エルヒューレには貴族とかないからな」
「そうですね。流石に皇帝には、皆頭を下げますが」
「それだけよね。私達だってリヒト様に仕えているけど、身分差別って訳じゃないもの」
「一緒に育ちましたからね」
エルフの国では、10歳や20歳程度の差なら同年代だと見なされる。なんせ寿命が長いからだ。
そして、リヒト達の様な皇族も、ハイエルフもダークエルフやエルフも、皆一緒に学ぶんだ。
どの子も皆大切な子供として育てられる。そこには、アンスティノス大公国にある様な身分差別がない。大人になって上司や部下としての上下は出るのだろうが。
カエデは、奴隷だった。身分差別の1番底辺にいたんだ。嫌な思いもした事だろう。
「でも、身分の差がある国もありますよ」
「ルシカ兄さん、アンスティノスみたいになんか?」
「ここまでではありません。例えば、ドラゴシオン王国なら、種族で差がありますよ。種族の中でも強い者は特別だそうですね」
「そうだな。あそこは強い者が1番だ」
「おばばしゃまか」
「ハル、おばば様が1番ではありませんよ」
「ん、りゅうおーしゃまらろ?」
「そうですね。5人の龍王様です。その中で順に、国のトップである竜王になるのですね」
「けろ、おばばしゃまはとくべちゅら」
「龍王様達のお祖母様ですからね」
「ばーちゃんか」
「そうですよ」
産まれた家の家格で、人生が決まってしまうアンスティノス大公国。
強さで変わるドラゴシオン王国。
皇帝以外は、身分の差がないエルヒューレ皇国。
その国によって違いがある。
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