第121話 3層の2箇所目

 3層と言えば、貴族街のある2層に繋がっているだけあって、どの建物も豪華で華美だった。

 復旧する時にも、そう要望があったのでこの街にはお金が掛かっている。

 そんな3層にありながら、頑丈そうで無骨な塀が続いている。少し高さもある。

 そこからは、雄たけびの様な声が聞こえてくる。それもそうだ。騎士団の基地なのだから。


「さて、ここからどうするかだ」

「長老、強硬手段しかないわね」

「そうか?」

「ええ、ちょっと行って来ましょう」

「そうだな……イオス、近くに宿はあるか?」

「はい、ありますよ。取りましょうか?」

「ああ、そこで少し待っていてくれ」

「分かりました。直ぐに取ってきますから少しお待ちください」

「イオス兄さん、自分も付いて行くで」

「おう」


 イオスがカエデを乗せたまま、馬を何処かに走らせて行った。


「長老、どうすんだ?」

「少しアヴィーと出掛けてくる。待っていてくれるか」

「そう時間は掛からないと思うわよ」

「アヴィー、そうか?」

「そうよ」


 なんだか、この夫婦のやる事は怪しいぞ。時々、とんでもない事をする。

 アヴィー先生が無鉄砲なのはみんな知っているが、長老も時々負けていない行動力を発揮する。

 それにしても、周りは豪華な建物ばかりだというのに、騎士団の基地とはいえ雰囲気が周りと違い過ぎる。


「ここは、魔物にやられなかったのか?」

「リヒト様、そう見えますね。建物が古いです」

「だよな」


 リヒトとルシカが良い所に気が付いている。


「この辺りは無事な建物が多かったんだ」

「長老、そうなのか?」

「ああ。特に騎士団の基地はな、この塀に守られた」

「ああ、なるほどな」


 3層の中だというのに、頑丈そうな塀が続いている。高さもある。この塀が魔物を阻んだらしい。確かに、貴族の邸宅の塀とは規模が違う。もしかして、材質も違うのか?

 直ぐにイオスが戻って来た。


「宿が取れましたよ。行きましょう」

「おう、イオスは何処でも知っているんだな」

「リヒト様、これでも執事見習いですから」

「そうだった。ハルのお守役じゃないんだったな」


 こらこら、確かに今はハルに付いているが。イオスは本当は、シュテラリール家の執事見習いだ。父である現執事のロムス・ドレーキスから英才教育を受けている。


「ロムスさんは厳しいものね」

「ミーレ、それはお前が訓練をサボるからだよ」

「あら、リヒト様。サボってませんよ」

「そうそう、ミーレは最初から嫌いだと言って受けないんだ」

「やだ、イオス。酷いわね。私だって、ロムスさんの訓練には出てるわよ」

「ロムスさんは優しいで」


 おや、カエデには優しいらしいぞ。やはりミーレに厳しいだけじゃないのか?


「カエデ、まだまだだわ」

「え、そうなんか?」

「そうよ」


 取り留めもない話をしながら、パッパカと馬を進める。到着したのは、この辺りには1軒しかない貴族ご用達の高級宿だ。よく取れたものだ。

 趣がちがう。いかにも高級そうな建物だ。


「俺、馬を預けてきます。カエデ」

「はいな、自分2頭連れて行くわ」

「おう、頼んだ」


 イオスとカエデのコンビも、いい感じで板についている。

 ちゃんと、カエデはイオスの補佐をしているぞ。ミーレ、頑張ろう。


「だってシュシュがいるもの」

「あら、あたしの所為にしないでよ」

「本当だもの。抱っこしていなきゃいけないでしょう?」

「まあ、そうね。抱っこはミーレがいいわ」


 こっちのコンビも良い感じらしい。

 部屋に入ったら直ぐに長老とアヴィー先生は何処かに転移して行った。一体何処に行くのだろう?


「りゅしか、りゅしか」

「ハル、どうしました? じーちゃんとばーちゃんは昼飯まれに帰ってくりゅかな?」

「大丈夫でしょう。直ぐだと言ってましたから」

「しょっか。おりぇ、ちょっとらけクッキー食べようかな」

「ハル、朝ご飯をちゃんと沢山食べたでしょう?」

「ん、けろ食べたいじょ」

「少しだけですよ」

「ん、ありがちょ」


 ハルちゃん、食い気なのだね。ルシカのクッキーは美味しいからね。

 ルシカもハルには甘い。


「ハル、お腹が出ているのに」

「みーりぇ、らからこりぇは幼児体形なんら」

「あら、そう」

「ハルちゃんは可愛いからいいのよぅ」


 白い奴が元の大きさに戻っている。そして、ハルにスリスリしている。


「しゅしゅ、やめれ」

「えぇー、ハルちゃん冷たいぃ~」

「しゅしゅ、のしぇて」

「もちろん、いいわよ~」


 おやおや、また一緒に部屋を見て回るのかな?

 宿を取る度に恒例になっている。ハルとシュシュの部屋の探検だ。全部の部屋を見て歩く。

 そして、あーだこーだと2人で言っている。

 ハルは風呂場に注目だ。お風呂があるかないかで、その宿の評価が変わる。

 シュシュはベッドの大きさだ。だって体が大きいから。ハルと添い寝するのにベッドは大きい方が良い。


「ぶも」

「一緒に行くなのれす」


 おやおや、コハルとヒポポも出てきた。賑やかしグループのメンバーが勢ぞろいだ。いや、違った。カエデが不参加だ。

 そのカエデは、ルシカを手伝って皆のお茶を用意していた。ミーレがそれを待っている。


「カエデも上手に淹れる様になったわよね」

「ロムスさんに毎日チェックしてもらってたからな」


 カエデが淹れたお茶をミーレが出す。ルシカのクッキー付きだ。

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