第120話 団欒

 そろそろ、ルシカとカエデが作っているシチューが出来上がるようだ。


「めちゃいい匂いらな」


 ――キュルルル……


「アハハハ! ハル、腹が鳴っているぞ」

「らって、りひと。腹へった」

「ハルちゃ〜ん! お待たせやな〜! 腹減り仮面になってしもたな〜!」


 カエデが、ワゴンに料理を載せて賑やかに登場だ。

 ハルのリクエストした、兎肉のトマトシチューだ。とろけるチーズのトッピング付きだ。サラダもちゃんと食べるんだぞぅ。


「やっちゃ。いたらきぃ」

「これは美味そうだな」

「長老もいっぱい食べてや〜」

「カエデ、あたしは沢山食べるわよ」

「分かってるって。シュシュは超特盛や」


 シュシュだけお皿の大きさが違う。それは何だ? それは皿なのか? ボウルではないのか? と、言った大きさだ。


「んまいッ! やっぱ、りゅしかの飯はうめーな!」

「ハル、有難う。カエデも一緒に作りましたよ」

「かえれ、超うめー」

「ハルちゃん、いっぱい食べてやー」


 賑やかな、食事だ。ハルの両隣はしっかりミーレとアヴィー先生が陣取っている。

 コハルとヒポポも出てきた。

 ヒポポは食べなかったのに、最近では必ず一緒に食べるようになった。


「美味しいなのれす」

「ぶもぶも」


 ヒポポも美味しいらしいぞぅ。


「ミーレ、ハルの口の周りを拭いてください」

「だって、また直ぐに付いちゃうじゃない」


 ハルと同じ事を言っている。


「マメに拭けばいいでしょう?」

「はいはい。ハル、拭きましょう」

「ん、またちゅくけろな」


 ほら、同じ事を言った。付かない様に食べられるのだろう? ハルちゃん。


「らって、おいしく食べてー」


 美味しく食べたら口の周りに付くのか?

 気を付けて頑張らないと、口の周りに付いてしまうらしい。頑張って付かない様に食べると、美味しさが半減するらしいぞ。

 そんな事はないだろう。味は変わらない。


「らって、味が分かんねーんら」


 はいはい。好きに食べよう。


「カエデ、あたしお代わりが欲しいわ」

「シュシュ、もう食べたん?」

「なによう、あたしは体が大きいのよぅ」

「口も大きいもんな」

「あら、カエデまでデリカシーがないわ」

「はいはい」


「アヴィー先生、その騎士団の基地ってのは何があるんだ?」

「そうね、まだ若い子達の寮に詰所、それに訓練場ね」

「要するに、騎士団が揃っているのか」

「そうなるわね。寮に入っているのは若い子達や地方から来た子達だけど、詰所があるから指揮官もいるわよ。入るのには、許可が必要だわ」

「許可かぁ……」

「仕方あるまい。アヴィー」

「そうね」


 何だ? 何か考えがあるらしい。だがこの夫婦は、時々突拍子もない行動に出る時がある。

 普段は、アヴィー先生のお転婆が目立っているが、長老だってなかなか負けていない。

 以前にも、リヒトとルシカを連れて突然大公の前に転移した事がある。似たもの夫婦だ。


「まあ、何とかなるだろう」

「長老、本当かよ?」

「ああ。それでだ、ワシとアヴィーは明日朝から少し出掛けてくる。許可を貰わんとな」

「そうね、許可よ」


 ああ、嫌な予感がするのはリヒトだけではない。

 そんな賑やかな夕食が終わると、ハルはもうおネムだ。コクリコクリとし出した。


「ハル、ベッドに行くか?」

「ん、いおしゅ」


 イオスに抱き上げられる。


「おやしゅみー」


 イオスの肩に頭を乗せて、ヒラヒラと手を振っている。

 その後を奴が付いて行く。白い大きな奴だ。必ず添い寝する。ベッドを占領しながら。

 コハルとヒポポも後を付いて行く。ハルの周りには、必ずいるメンバーだ。

 翌日、一行は次の精霊樹の近くへと移動をするらしい。もちろん、長老の転移でだ。


「じーちゃんは、ろこれも行けりゅんらな」

「なんだ? ハル、どうした?」

「らって、おりぇじぇんじぇん真っ白ら」


 真っ白とは、きっとワールドマップの事を言っているのだろう。

 ハルはまだこの世界に来て1年経っていない。それは仕方のない事だ。

 だって、長老は2000歳オーバーなのだから。


「ハル、ワシを何歳だと思っておる?」

「え……しょっか。しょんらけ生きてりゅかりゃか」

「そうだな。まあ、仕事であちこち行ったという事もあるがな」

「そうね、ランが小さかった頃ってよく一緒に色んな所へ行ったわね」

「りゃんばーちゃんか」

「そうよ。3人で、色んな場所へ行ったわ。長老にくっついて行っていたの。楽しかったわ。フフフ」

「懐かしいな」

「本当よね。まさか曾孫のハルちゃんと、またこうして旅が出来るなんて夢にも思わなかったわ」

「本当だな。ワシ等にとっては褒美だな」

「じーちゃん、ご褒美か?」

「ああ、そうだ」

「なんれら、ご褒美なりゃおりぇの方ら」

「そうか? そう思うのか?」

「ん、思うじょ。楽しいし幸しぇらからな」


 曾孫と曽祖父が温かい話をしているぞ。

 こんな時には必ず空気をぶっ壊す奴がいる。


「いい話よね。本当、涙が出ちゃうわ」


 ほら、いつもの白い奴だ。いつもそう言うが、涙を流していた例が無い。今は小さくなってミーレに抱かれている。喋ったら駄目なのだぞぅ。


「皆、近くに集まってくれ。転移するぞ」

「おう」


 長老が魔法杖を出した。そして、皆が入る様に半円を描くと白い光に包まれていった。

 そして、転移してきた場所だが……


「お……3層とは思えねーな」

「な、ハル。そうだよな」

「おー」

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