第119話 デリカシーがない

 学園の問題も解決、精霊樹も確認した。

 さて、次はどこなのかな?

 宿に戻ってきた一行。


「りゅしか、ご飯はろうしゅんら?」

「ハルの言ってたシチューを作りましょうか」

「やっちゃ。うしゃぎか?」

「そうですね」

「ルシカ兄さん、手伝うわ」

「はい、お願いしますよ」

「トマトシチューがいいじょ」

「ハルちゃんはトマト味が好きやなぁ」

「うん、しゅき。ちーじゅをのっけて食べりゅんら」

「はいはい」


 キッチンが部屋に付いていて良かった。

 部屋の中なのに、またシュシュに乗っているハル。そして、ウロウロとしている。

 ルシカの側にいって料理を見てみたり、別の部屋を見に行ったり。


「ハル、次の精霊樹だ」

「じーちゃん、ちゅぎらな」

「分かるか? 見てみなさい」

「ん、わーりゅろまっぷらな」


 それしかないだろう。ハル、いい加減に慣れよう。

 シュシュに乗ったまま、目を瞑り両手を胸にやるハル。お決まりのポーズだ。


「じーちゃん、こりぇろこら?」

「分からんか?」

「ありゅのは分かりゅけろ、場所は分かんねー」


 なんだそれは?


「マップが真っ白なのか?」

「しょうら」

「ハルが行った事のない場所だからだろう」

「なりゅほろ~」


 何度も長老は同じ事を言っている。

 いくら万能な『ワールドマップ』でも、実際に行った事がない場所は白く表示されるらしい。

 それで、ハルは分からないとずっと言っているのだろう。


「この宿からだと、半日はかかるぞ」

「しょうなのか? 離りぇてりゅんらな」

「長老、ここから半日って事は反対側なのね?」

「そうなるな」

「なら、あそこかしら?」

「アヴィー、分かるのか?」

「どんな施設があるのかって程度よ」


 アヴィー先生、長年アンスティノス大公国に住んでいただけの事はある。


「確か、あの辺りって……」


 アヴィー先生の記憶通りだった。

 次の精霊樹のある場所、それはこの国の騎士団の基地がある場所だった。

 この国にも兵達はいる。大公を守っているのが近衛兵と言われる精鋭だ。

 街を守っているのが衛兵。

 この国の騎士団は、要人や城を警備している。勿論、有事の際は剣をとる。

 衛兵と騎士団の大きな違いが、貴族か平民なのかだ。

 この国では、そんなところでも差別がある。

 騎士団は貴族の子息しか入団できないのだ。平民は衛兵にしかなれない。

 だが、年に1度だけ、衛兵が騎士団と対戦する催しがある。

 そこで、優勝した者は平民でも騎士団に入団できるのだ。

 だが、貴族で騎士団に入団する者は、幼い頃から指導を受けている。現役の騎士や、元騎士団長等にだ。平民はそんな機会等ない。

 当然、実力には差がでる。現実、平民が騎士団に入団出来る事はないのだ。


「ほぉ~」

「エルヒューレには、守備隊とガーディアンしかないな」

「そうね、皇帝の警護なんて必要あるのかしら? て、感じですものね」


 ん? それは、どういう事なのだろう?


「だって、皇帝はお強いもの」

「そうだな、それこそドラゴンでも来ない限りはな。いや、抑える程度なら可能だな」


 なんと……! エルヒューレ皇国のあの皇帝は強いらしい。

 ハルのお友達である、あのフィーリス殿下の製造元だ。


「しょにりゅしゃんと、ろっちがちゅよいんら?」

「そりゃあ、ハル。ソニルだろう。あいつは最強だ」

「スゲー気に入らないけど、ソニルは強いからな」


 リヒトは気に入らないらしい。強いのだから仕方がない。そうは思えないキャラだが。

 どちらかと言うと、キュートなソニルだ。


「ソニルに勝てるやつなんて、エルフにいないだろう」

「ひょ~、しょんなに!?」

「そりゃそうだ。最強の5戦士の中で1番なんだからな」

「じーちゃんは、どりぇくりゃいなんら?」

「ワシは大したことないぞ」

「何言ってんだよ。魔法だけで言うと長老の右に出る者はいないだろう?」

「そうでもないぞ」

「そうでもあるよ」


 リヒトは悔しそうだ。剣でも魔法でも1番ではないからだろうか? あの、おとぼけソニルに勝てないからだろうか?

 それでも、リヒトだって最強の5戦士の1人だ。充分強い。ヒューマン族は相手にもならない強さだ。


「りひと、まらまららな」

「そうかよ」


 だから、リヒトも強いのだよ。ハルは分かっていないらしい。

 それよりも、騎士団の基地の中なんて入る事が可能なのだろうか?


「学園より無理があるわよ。そんなの入れる気がしないわ」


 あらら、アヴィー先生が難色を示した。


「アヴィーは入った事があるのか?」

「あるわよ、対戦した事があるもの」


 対戦だと? アヴィー先生は、一体何をしているのだろう。薬師として入ったのではないのか?


「依頼されてお薬を納品に行ったのよ。そしたら、訓練を見ちゃって、つい……ね」


 あらら、気に食わなかったのか? それとも、訓練を見ていて血が騒いだのか?


「だって、弱いんですものぉ」

「だからと言って、アヴィー」

「1度だけよ、1度だけ」


 1度だろうと何だろうと、対戦した事には変わりない。

 まさか、騎士団をコテンパンにしてしまったのではないだろうな? 不安だから触れるのは止めておこう。


「アハハハ、アヴィー先生はお転婆って年でもないだろう」

「あら、リヒト。どういう意味なのよ」

「本当よ、リヒトったらデリカシーがないわね」


 リヒトは一言多い。シュシュにまで反感を買っているぞ。

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