第118話 報告だ
さて、学園の問題も解決し、精霊樹も確認した一行。
「戻って報告しないとな」
「そうね、長老」
「アヴィーがするんだぞ」
「分かってるわよぅ」
ほら、またシュシュみたいな言い方をしている。最近本当に区別がつかないぞ。
「なあなあ、りゅしか」
「ハル、どうしました?」
「今日の晩ごはんは何しゅんら?」
「そうですね、何にしましょうか?」
「うしゃぎのトマトシチューらな」
「アハハハ、ハルは本当に兎肉が好きですね」
「ん、しゅき。らって超うまうまら」
「はいはい」
ハルはもう晩御飯の事を考えているぞ。
まだ、これから報告しないといけない。
校舎へ戻ると、先生方が皆待っていた。
「あら、お待たせしちゃったわね」
「いえ、とんでもありません。アヴィー先生、もう終わったのでしょうか?」
「ええ、終わったわよ。報告しなきゃね」
「お願いします。どうぞ、中へ。お茶もご用意しておりますので」
「あら、有難う」
校舎の中へ案内された。そこは応接室なのだろう。
学園の中とは思えない応接セットだ。
革張りの重厚なソファーに、大きなテーブル。お高そうな壺に飾られた豪華な花。
「うわぁ……流石、お貴族様が通う学園やなぁ」
カエデが小さく呟いた。
カエデはリヒト達に保護される以前は、この国で奴隷として暮らしていた。その時の事と、比べているのだろう。
皆にお茶が出される。
「フルーツジュースですけど」
「ありがとごじゃましゅ」
「いいえ」
ハルにはフルーツジュースらしい。
「アヴィー先生、それに皆様、本日は本当に有難うございました」
最初に出迎えてくれた、年配の女性だ。学園長だと言う。
「まあ、この国で女性の学園長なんて驚きですわね」
「そうなのですよ。私が女性初の学園長なのです」
「それはそれは、大変ですな」
「頑張って欲しいわね」
「有難うございます」
そしてアヴィー先生が、謎だと言われていた見えない存在の報告をした。
「よ……妖精と仰いましたか?」
「ええ、妖精達の仕業だったわ。ああ、でももう大丈夫よ」
待て待て、アヴィー先生。学園長が固まっているぞ。
「あら、どうしました?」
「アヴィー、この国では妖精も精霊も信じられていないだろう」
「そうだったわ。いるのですよ、妖精も精霊も」
「それは……直ぐには信じられない事です」
「あら、そうかしら?」
実際に学生達が被害に遭っていたのだろう。しかも、姿の見えない何かに。それが、何よりの証拠なのだが。
いきなり、妖精と言われても『あら、そうでしたか』などとは言えないのだろう。
「その……この国では、妖精や精霊などは御伽噺の世界の存在だと思われておりまして……」
「そうね、知っているわ。でも、実際にいるのよ。私達は妖精が見えるわ。それに、私の曾孫は精霊を見る事ができるのよ」
「はあ……その……妖精と精霊の違いも分かりませんし」
この世界の精霊とは……今ハルが探している、精霊樹から精霊が生まれると言われている。精霊王と精霊女王が統べる種族だ。
その寿命は、不老不死とも言われているがそうではない。定かではないが、ハイエルフより長い事は確かだ。各国にある遺跡を守っていたりする。
瘴気を浄化する為の、魔石を設置した大昔にはそれに協力もしていた。太古からこの世界を守っている存在だ。
それに比べて妖精族は、長はいない。国もない。好きな場所に好きな者がフラフラと集っている。悪戯好きで、勝手気ままな種族だ。善悪という意識がないのだ。
「な、なるほど。そうなのですね。その妖精族が集まっている場所だったと」
「そうね、沢山いたわ。そこを通る学生に悪戯をしていたのね」
「そんな事があるのですね」
「この街を作り直しただろう」
「はい、先の魔物が出現した後ですね」
「そうだ」
長老が説明をする。以前よりも、環境が良くなったので妖精も寄ってきたのだろうと。
「いままれいなかった、しぇいりぇいもちょびっといりゅじょ」
「え……? 申し訳ありません、何と仰っているのかしら?」
あらあら、ハルちゃんの辿々しい言葉が通じないらしいぞ。
「今のエルフ族は、精霊族を見る力を失っているのよ。でも、この子だけは見る事ができるの。それで、以前はこの国には精霊族は居なかったらしいんだけど、今は少しだけ居るそうよ。それはとっても良い事なの」
「なるほど、そうなのですね」
精霊族も妖精族も自然を好む。木や花の少ない場所には寄ってこないんだ。しかもこの国は、他の国より瘴気が濃かった。
其れ等を嫌う、精霊族や妖精族は寄り付かなかったんだ。
「では、あの場所にいる、その……妖精ですか。どこかへ行ったという事でしょうか?」
「いえ、あの場所にいるわよ。でも、もう悪戯はしないと約束したの」
今、妖精族を追い払ったとしても、アヴィー先生達がいなくなったらまだ戻ってくるだろう。
それなら、どこに行っても悪戯をしては駄目、悪戯はしないと約束させる方がずっと建設的なのだ。
「では、もう怪我をしたりする事はないのですね」
「ええ、もう大丈夫よ」
とは、言っても学園長はまだ不安そうだ。何しろ、今までは存在自体を信じられていなかった妖精族が出て来たんだ。
もう大丈夫と言われても、不安なのだろう。
「私は協定の件で、よくこの国に居るのよ。もしまた悪戯をするようなら『エルフに言うわよ!』て、言ってやればいいわ。私を呼んでくれてもいいわよ」
「本当ですか!? それは心強いです。有難うございます」
アヴィー先生、お人よしだ。面倒見が良いとも言う。
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