第114話 ああ〜、奴等か

「不便なのれす。見えるようにするなのれす」


 そう言って、カエデの額にムニッと手を当てた。


「これで見えるなのれす」

「え? そうなん?」


 半信半疑のカエデ。それでも、皆が見えると言っていた木立を見る。


「うわ……マジかぁ」

「見えたのか?」

「うん、イオス兄さん。エルフの兄さん達はこんな景色を見てたんや」

「いっぱいいるだろ?」

「ホンマや。小さいのがいるわ。あれ、何なん?」

「カエデ、あれは妖精だ」


 妖精だと。長老の様子だと予想していたらしい。

 妖精族という括りになっている。それは小さな人型をしていて、頭に触覚の様なものがあり、白目のない、少し吊り目のグリーンや碧色の目だ。

 背中に半透明の羽が2対あり、男女の違いもある。因みに精霊には性別がない。

 精霊とは違って、何かを守ったり加護を与えたりする訳ではない。勝手気ままにフラフラと群れて飛んでいる。

 しかも、自分勝手で悪戯好きときた。

 だから、時々迷惑になるような事も仕出かす。善悪という感情がないんだ。

 何の為に存在しているのか? 不思議な存在だ。

 現在のエルフ族は精霊を見る力を失っている。唯一見る事が出来るハルの影響で、最近では長老達も少しずつ見える様になってきた。

 精霊樹を探して旅をする様になってからだ。

 それに反して、妖精族は見えるんだ。


「それにしても、アンスティノスに妖精族が住んでいるとはな」

「そうよね、聞いた事ないわ」

「しょうなのか?」

「ハルちゃん、そうなのよ。精霊とは全く違う存在だけど、同じ様に自然を好むのよ」


 学園とアカデミーの間にある木立。そこはエルフ族が見ると、陽の光で羽をキラキラさせながら小さな妖精族が集まっている。そんな場所だったんだ。


「なあなあ、ハルちゃん。精霊もあんな感じで見えんの?」

「しょうらな。けろ、しぇいれいの方が自分れ光ってりゅな」

「へぇ〜」


 ハルはよく見ている。精霊はそれ自身が光を帯びているが、妖精族はそうではない。キラキラとして見えるのも、羽が光を反射する所為だ。

 精霊とは存在自体が別物なんだ。


「あれだけ集まっていると、悪戯もされるだろうな」

「そうよね。放っておけば、どんどんエスカレートしちゃうわね」

「ばーちゃん、しょうなのか?」

「ハルちゃん、妖精族って質が悪いのよぅ」


 シュシュが言った。また何かされたのか?


「昔ね、あたしがまだ聖獣になる前だわ。偶々、妖精族が集まっている場所を通り抜けようとしたのよ。その時に上から木の実を落とされるわ、髭を引っ張られるわで散々だった事があるのよぅ」

「ありゃりゃ」


 やはり、悪戯されたらしい。


「奴等、飛べるじゃない。それが質悪いのよぅ。あたしは早くは走れるけど、飛べないもの〜」


 なるほど、飛んで逃げてしまうという事だろう。

 今回の不思議な現象も妖精族の仕業らしい。

 近くなると、妖精族の声も聞こえてきた。


「え……めちゃ笑てるやん」


 カエデが言うように、キャッキャ、ウフフ、アハハと楽しそうに笑っている。

 そのうち、ハル達を見つけたのだろう。1人2人とヒラヒラと飛んでやって来た。

 妖精の数え方は何人でいいのか?


 ――エルフ族だー

 ――本当、エルフだわー

 ――珍しいなー


 と、口々に言っている。まとまっている感じはなく、連帯感もない。

 バラバラと好きな様に飛んで、好きな事を言っている。


 ――悪戯しちゃえー

 ――風を起こしてやろうー


 妖精族も魔法が使えるのか?


「風属性魔法だけ使えるんだ。それで態と木の実を落としたりするんだよ。大森林でも遭遇したらウザイんだ」


 リヒトが『ウザイ』と言った。妖精族とはそんな存在らしい。


「りひと、大森林にいりゅのか?」

「ああ、時々いるぞ」

「ほぉ〜」


 ハルが興味津々だ。


「なあ、おりぇはハルら」

 ――あー、なんか喋ったー

 ――ハルだってー


 妖精族に話しかけている。ハルちゃん、何にでもフレンドリーだな。アヴィー先生に似たか?


「あなた達に聞きたい事があるのよ。いいかしら?」


 アヴィー先生も妖精族に話しかける。やはり、アヴィー先生の血筋らしいぞ。


 ――また喋ったー

 ――なに? なにー?

 ――エルフが何か言ってるー


 ワラワラと飛び去って行く。


「もう、聞きたい事があると言ってるのにぃ」

「アハハハ、アヴィー。妖精だ、仕方あるまい」

「そうだけどぉ」


 本当、最近アヴィー先生とシュシュの喋り方が似てないか? 区別がつかないぞ。

 木立の中に入って行く一行。すると、皆の頭上に妖精族が集まってきた。


 ――えーい

 ――葉っぱ攻撃だー

 ――木の実だー


 悪戯のつもりなのだろう。葉っぱを降らせ、木の実を落としたりしている。


「ああ、もう! うざったいわね」


 アヴィー先生が、腕を振ると風が起こり葉っぱや木の実を吹き飛ばした。


 ――うわー

 ――やっぱエルフ族は怖いぞー

 ――逃げろー


 ワラワラと飛び距離をとる。


「だからね! 話があるの!」


 アヴィー先生、切れ気味だ。

 そこにポンッとコハルが出て来た。


「おとなしくするなのれす!」


 コハルが両手を広げて威圧した。すると、妖精族はコハルの目の前に大人しく整列したんだ。


「こはりゅ、しゅげーな」

「あたちは神使なのれす! 妖精族なんかチョチョイのチョイなのれす!」

「ぶも」


 コハルが自慢気に胸を張っている横に顔だけ出しているヒポポ。


「ぶふっ」


 ああ、リヒトが反応しているぞ。


「リヒト様、笑ってはいけません」

「いや、だってルシカ。ヒポポがさ」

「ぶも?」


 本人は無自覚らしい。

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