第115話 コハルが一喝

 さて、妖精族が大人しく整列しているうちにだ。


「あのね、どうしてこの場所に棲みついたの?」

 ――だって、木が増えたからー

 ――そうそうー

 ――瘴気も薄くなったしー

 ――そうだよねー


 瘴気を浄化する魔石を、設置したからこの国の瘴気も薄くなった。

 それに、エルフ族が主体となって街を復旧した事で木々や花が増えた。この裏庭や木立もそうだ。態々、作ったんだ。

 それで、妖精族が住み易い環境になったのだろう。


「でも、悪戯しちゃ駄目だわ」

 ――えーなんでー?

 ――ヒューマン族には見えていないから楽しいのにー

「あなた達だって、木の実をぶつけられたら痛いでしょう?」

 ――木の実に当たらないもーん

 ――そうそうー

 ――風で飛ばしちゃうー

 ――ヒューマン族はできないんだよねー

 ――キャハハ


 これは、言い聞かせるのは無理ではないか? その時、コハルが一喝した。


「ダメなのれす!」

 ――ひ、ひゃいー

 ――叱られたー

 ――ダメー、神使様を怒らせたらダメー


 おやおや? コハルの言う事は聞くらしいぞ。


「精霊や聖獣もそうだけど、妖精族だってコハル先輩は存在自体が格上だって分かるのよぅ」


 なるほど。だからシュシュもコハルには頭が上がらないのだな。


「いいれすか! 2度とイタズラしたらダメなのれす!」

 ――は、はいー!

 ――ひゃぁー!


 おう、怖がっているのか?


「ここに棲むのはかまわないなのれす! でも通る人にイタズラするのはダメなのれす! 分かったれすか!」

 ――はいー

 ――分かったのですー

 ――ごめんなさいー


 コハルは偉大だった。


「鶴の一声とはこの事やね」


 カエデは感心しているのか?


「コハル、この場所に棲んで構わないのか?」

「妖精族はどこにでもいるなのれす。どこに行っても変わらないなのれす」

「まあ、そうだろうが」

「イタズラを禁止するなのれす」

「そうだな、そう言い聞かせてくれるか?」


 妖精族は、どこに棲みついても悪戯をするらしい。移動させたらその先でまた悪戯するだろう。


「いいれすか! この国にいるならイタズラはダメなのれす!」

 ――ええー

 ――そんなー

「イヤなら大森林に帰るなのれす!」


 え? 元は大森林にいたのか?


 ――だって大森林は魔物がいるもんー!

 ――そうだよー

 ――魔物にやられちゃうー!


 妖精族は弱いみたいだぞ。魔物にやられてしまうから、魔物のいないこの国に来たらしい。


「なら、イタズラはやめるなのれす! それとも消されたいれすか!」

 ――キャー

 ――イヤー

 ――わかったー

 ――仕方ないねー

「約束なのれす!」

 ――はーい!

 ――やくそくー!

 ――神使様とやくそくー!

 ――スゴイー!


 あれ? コハルと約束する事を喜んでいないか? ヒラヒラと飛び回っているぞ。


「なんれら?」

「そりゃそうよ〜。普通ならコハル先輩みたいな神使と、出会う事だってないんだから〜」

「ほぉ〜。こはりゅ、えりゃいんら」

「あたちは神使なのれす!」

「ぶもッ」


 はいはい、それは分かったよ。とにかく、コハルがいて良かった。ヒポポまで自慢気だけど、関係ないよね。


「妖精族は言う事を聞かんからな」

「じーちゃん、しょうなのか?」

「そうなんだ。どうにもならなかったら、コハルが言う様に消滅させるしかないんだ」

 ――きゃー、こわいー!

 ――やっぱエルフ族はこわいー!

 ――エルフには敵わないー


 長老、何気に怖い事を言ったぞぅ。


「妖精族はそうなんだ。言う事は聞かないし、どんどん悪戯はエスカレートする。放っておけば命に関わる事だってあるんだ。とにかく、質が悪い」

「ひょ〜」


 それは酷い。一体どれだけ悪戯するんだ?


「それに精霊と違って、いなくても何ともないんだ」

「百害あって一利なしやな」

「カエデの言う通りだ。だから、妖精族が何かするなら、こっちは消滅させるしかない」

 ――やめてー

 ――もうしないー


 コハルのお陰で解決らしい。

 しかし、ハルは少し考え込んでいる。


「ハル、どうした?」

「じーちゃん……ん〜……なあ、ようしぇいしゃん」

 ――なぁにぃー?

 ――ちびっ子エルフが喋ってるー


 ハルの周りをヒラヒラと飛び回る妖精達。


「いたじゅらはらめら」

 ――うん、もうしないー

 ――ここではしないー


 『ここではしない』やはり、理解していない。ずっと格上のコハルに叱られたから、この場所ではしないと言っているだけだ。

 それは根本的に理解しているとは言えない。


「いたじゅらは、ろこでもしたららめら。しょんな事してたりゃ、どこにも住めなくなりゅじょ」

 ――ええー

 ――意味分かんないー

「らからな、ヒューマンにもエルフにも誰にもいたじゅらしたららめ」

 ――ええー?


 ヒラヒラと遊ぶ様に飛び回っていた妖精達が、ピタリと止まって空中に浮きながらハルをジッと見ている。

 このちびっ子エルフは何を言っているんだ? と、でも思っているのだろうか?


「みんなと仲良くしゅりゅんら」

 ――みんな仲良しだよー

 ――みんな一緒だもんねー

「ちがうじょ。他のしゅじょくとも仲良くしゅりゅんら。いたじゅらしゅりゅんじゃなくてな」

 ――他のー?

 ――エルフとかー?

 ――ヒューマンとかー?

「しょうら」


 ハルはどうやら、妖精族に分からせようとしているらしい。

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