第113話 学園へ
一行が宿のロビーに下りて行くと、静かに近寄って来た大奥様宅の使用人。
「ご案内致します」
と、頭を下げている。おぉー、なんか身のこなしが違うぞ。スッと静かに近寄ってきて、スマートに頭を下げた。一体何時間待っていたのだろう。
「お待たせしちゃったわね、ごめんなさいね」
「いえ、アヴィー先生。とんでもございません。直ぐに馬車をご用意致します」
「あー、じゃあ俺達は自分の馬で行くよ」
ハル、アヴィー先生、長老は用意された馬車に。リヒト達は馬で馬車の後を付いて行く。
馬車の窓から、ハルが外を見ている。
「木も花もふえたなぁ」
「そうね。以前はほとんど無かったものね」
「ちょびっとらけど、しぇいりぇいしゃんもいりゅじょ」
「ハル、見えるのか?」
「ん、じーちゃん。見えりゅじょ。前来た時はじぇんじぇんいなかったけろな」
「そうか、それは良くなったな」
「けろ、まらまらら。しゅんでりゅ人がしぇいりぇいを信じてねーかりゃな」
「この国では、精霊なんて御伽話だと思われているもの」
「しょうらな。いりゅのにな」
「見えないものは信じられないんだ。見えなくても信じ、守り伝えるエルフとは違うな」
「エルフの凄いとこなのれす」
おや、ポンッと久しぶりにコハルが出て来たぞ。
「ぶも」
ヒポポも顔だけ出している。だから何もない空間に、顔だけ出すのはホラーだから止めよう。
「コハル、学園の裏庭にある木立に何かがいるそうだ。見えないらしいんだが」
「はいなのれす。ヒューマン族には見えないなのれす」
「ほう、ならやはりあれか?」
「長老が思っている通りなのれす。エルフには見えるなのれす」
「あら、そうなの? なら決まりだわ」
「しかしなぁ、奴等は気まぐれで悪戯好きだからなぁ。あぁ、だから悪戯しているのか」
「ふふふ、そうね」
長老やアヴィー先生は、もう分かっているらしい。ハルさんは、キョトンとしているから分かってないね。
「じーちゃん、何ら?」
「まぁ、行ってみれば分かる。ハルは初めてだな」
「そうね、ハルちゃんは精霊が見えるのですもの。楽勝だわ」
「しょうか?」
「そうだな」
馬車が止まると、コハルとヒポポもハルの亜空間に戻って行った。
シュシュと違って、お利口さんだ。聞き分けの良い子達だ。
外から馬車の扉が開けられると、人が何人も集まっているのが見えた。
どうやら、学園の教員達が皆集まっているようだ。
「ハル、抱っこしよう」
「ん、じーちゃん。ここは、ろこら?」
長老に抱っこされながら、馬車から降りるハル。綺麗に舗装された地面。同じ様な建物が幾つも並んでいる。
「ハルちゃん、学園の中よ」
「ほぉ〜」
集まっている人達の中から、年配の女性が前に出た。1番偉い人なのだろう。
「アヴィー先生、皆様、お目に掛かれて光栄ですわ」
おやおや、光栄とまで言われてしまったぞ。
「あら、有難う」
アヴィー先生は通常運転だ。
「どうぞ中へ、お茶をご用意しております」
「いや、先に済ませてしまおう。その為に来たのだからな」
「エルフ族の長老様でいらっしゃいますね? この度はお手数をお掛けしてしまって、大変申し訳ございません」
「いやなに、大した事ではない。その場所はまだ奥ですかな?」
「はい、校舎の裏側になります。ご案内致しますわ」
「いや、ワシ等だけで行こう。誰も見に来ない様にして頂けますかな?」
「はい、アウッティ公爵夫人から聞いております。皆に申し付けておりますわ」
「この裏を通れば良いのかしら?」
「はい」
アヴィー先生はもう行くつもりだ。
「じゃあ、終わったら声をかけるわね」
「は、はい。どうか、宜しくお願い致します」
お茶を用意してくれているらしいが、挨拶もそこそこに現場へと向かう一行。
ハル達が馬車を降りた校舎の前から、グルッとまわり込み裏庭へと移動する。進行方向の奥に、木立が見える。
「あー、じーちゃん。分かったじょ」
「ハル、そうか?」
「ん、しぇいりぇいも困ってるって」
「そうなのか?」
「ハル、何が分かったんだ?」
「りひとはまら見えねーか? あの奥ら。いっぱいいりゅじょ」
「どこだよ」
リヒトだけでなく、付いて来た皆がハルの指差す方を見る。
ハルが指差した方には木立が見えていて、その間に細い小道がある。反対側に抜けられるらしい。抜けた先にはアカデミーの校舎が建ち並んでいる。
木立の間にある小道には、小さなベンチも置かれている。
「あしょこれ、さんろいっち食べたりゃうまいじょ」
「アハハハ、サンドイッチかよ」
「ん、昼飯食べりゅのに、いい場所ら」
「そうね。木立の中で食べられるのね」
「いい感じですね」
ミーレやルシカもハルの意見に賛成らしい。エルフはやはり木が多い場所が好きらしい。
「りひと、見えたか?」
「おう、あの木立に棲みついているのだろう」
「え、何なん? イオス兄さん、見えてんの?」
「おう、いっぱいいるぞ」
「本当だわ、珍しいわね」
「えぇー、自分なんも見えへんでー」
カエデだけ見えないらしい。獣人はエルフ程の魔力量を持っていない。
その時、コハルがポンッと出て来た。
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