第112話 オヤツを食べてからね

 大奥様に、是非ともお泊まりくださいませ。と言われた。


「ごめんなさいね、もう宿を取ってしまったのよ」

「残念ですわ」


 だが、しっかり超豪華な夕食を頂いた。


「んめーな」


 と、ハルちゃんも満足してご馳走になった。


「まだ小さいのに、上手に食べられるのですね。沢山ありますのよ、おかわりしてちょうだいね」

「ありがとごじゃましゅ」

「まあ! なんて可愛らしいんでしょう!」


 と、大奥様も一緒に和やかな夕食となった。

 その後一行は、また馬車で宿まで送ってもらい、部屋に着いた時にはもうハルは半分眠っていた。


「長老、重いでしょう。俺が変わりますよ」

「イオス、大丈夫だ。ベッドに寝かせてこよう」


 ハルを抱っこした長老の後を、シュシュが行く。一緒に寝るのだろう。

 ベッドの殆どをシュシュが占領してしまっている。そのシュシュのお腹のところに器用にくっついて丸くなって眠るハル。

 まるでハルがシュシュの子供のようだ。

 リビングでは、ミーレとカエデが皆にお茶を入れていた。


「自分、あんな豪邸初めてやわ。緊張してしもた」

「あら、カエデ。どうして?」

「だってミーレ姐さん。リヒト様の実家とはまた違う豪華さやん」

「そうね」

「ピッカピカやしや」

「カエデ、人は家じゃないのよ」

「ミーレ姐さん、ええ事言うたな」


 とは言うものの、ミーレだってカエデと同じ様に大人しかった。


「うちはフレンドリーだからな」


 リヒト、そんな意味ではないと思うが?

 翌日、お昼過ぎには大奥様の使いの者がやって来た。

 無事に学園に入る許可が出たらしい。

 だが……


「すまんな。曾孫が今昼寝をしているんだ。起きてオヤツを食べてからになるな」

「はい、構いません。学園の方も授業がありますので、夕方以降の方が人が少なくて良いかと思います」

「そうか、ではその頃に向かおう」

「では、そうお伝えしておきます。下のロビーに人を残しますので、向かわれる時はその者にお伝えくださいませ。ご案内致します」

「助かる。ありがとう」


 そうなのだ。お昼を食べたら、ハルはお昼寝だ。

 その後は、ルシカのオヤツだ。それは、外せない。


「ちゅぎは、りゅしかのおやちゅら」


 と、言って起きてくる。可愛い曾孫のハルは最優先だ。

 

「りゅしか、今日のおやちゅは何ら?」


 ほら、起きてくるなりオヤツは何かを聞いている。


「ハル、起きましたか。今日はプリンタルトですよ。カエデも一緒に作りました」

「おぉー、ぷりんたりゅと! うましょうら」


 部屋の中だというのに、シュシュに乗っている。ドアを開けたら皆がいるリビングなのに。

 そのままシュシュに乗って部屋の中をウロウロしている。


「ハルちゃん、久しぶりだわ」

「なにがら?」

「あたしがハルちゃんを乗せるのがよぅ」

「しょっか?」

「そうよぅ」


 それはいいから、下りて座ろう。オヤツが食べられないぞ。


「しゅしゅ、おやちゅら」

「そうね〜」


 やっと下りて椅子に座る……座れない。まだちびっ子だから、届かない。それでも座ろうと、片足を上げているハル。

 まったく届いていない。


「アハハハ。ハル、座らせてやろう」


 イオスがヒョイとハルを持ち上げ椅子に座らせた。


「いおしゅ、ありがちょ」


 いつもなら、ハル専用の座面が高くなった椅子があるのだが、宿にそんな物はない。

 クッションを敷いているが、それでもちびっ子のハルにはテーブルが高い。


「ハル、ソファーの方で食べますか?」

「りゅしか、らいじょぶら」


 ハルはクッションの上に正座をして座っていた。まあ、その高さなら食べられるだろう。


「ぷりんたりゅとか。ぷりんはあったけろ、ぷりんたりゅとは初めてじゃねーか?」

「ハルちゃん、そうだったかしら?」

「しょうら」


 シュシュはハルの足元で、もうプリンタルトに齧り付いている。


「いたらき」

「ハルちゃん、どうやろ? プリンのとこを自分が作ってん」

「おー、んまいじょ」

「そっか! 良かったわ」

「ん、うまうまら」


 ハルちゃんから合格点を貰ったらしい。

 長老はプリンタルトを食べないでお茶だけ飲んでいる。


「長老、プリン嫌いやった?」

「そんな事はないぞ。今日はまだ腹がいっぱいなんだ」

「あら、長老。おやつは別腹よ」

「アヴィーはそうだな」

「私だけじゃないわ。シュシュだってそうよ」


 シュシュはもう食べ終わって毛繕いをしている。まるで猫ちゃんだ。

 それよりも、学園に行くのではないのかな? みんなのんびりと、寛いでいるがいいのか?


「さて、行くとするか?」

「そうね」

「長老、原因は分かっているのか?」

「どうだろうなぁ……と、言った感じか。見てみないとな」

「おう」


 長老は、思い当たる事があるらしい。だが、半信半疑といったところだろうか。

 さて皆さん、お出かけしますよ。


「ハル、お口の周りを拭きましょう」

「りゅしか、ありがちょ」


 ん……と、顔を出して大人しくルシカに拭かれるハル。


「ハル、大奥様のお宅でご馳走になった時は、付いていなかったじゃない」

「みーりぇ、頑張ったんら」

「何を頑張ったの?」

「ちゅかないように食べりゅのをら」

「ふふふ」


 ハルなりにお行儀良くと考えたのだろうか?

 いつも、大きなお口をア〜ンと開けて食べているのに、何故か口の周りに付いている。

 頑張れば、お口の周りに付けずに食べられるらしいぞ。新発見だ。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます。

お待たせしてしまいました。

なんとか、投稿再開です。

宜しくお願いします!

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