第110話 公爵夫人
ハルの中で、カヌレは洒落てるオヤツらしい。そのカヌレを見つめる花屋の店員さん。色味的にね、味の想像がつかないのかも知れない。
「初めて見るお菓子です」
「あら、そう? ルシカが作ったのよ。外がカリカリで、中はしっとりと弾力があって美味しいわよ」
「んめーじょ」
「どうぞ、食べて見て下さい」
「あ、有難うございます。では、いただきます」
一口食べた、花屋の店員さんの目が大きくなった。周りに小花がポンポンと咲いているように見える。
「ね、美味しいでしょう?」
「はい、とっても! 初めて食べました!」
「りゅしかのおやちゅはうめーんら」
ハルはまたカヌレに手を伸ばす。ハルちゃん何個食べるつもりなんだ?
店の前で別れてから、花屋の店員さんはアヴィー先生達の事を大奥様に話す為に直ぐに邸に走っていた。
この機会を逃したら、もう2度とアヴィー先生には会えないぞという気迫さえもあった。
そして、その話を聞いた大奥様。
「あのアヴィー先生にお会いできるなんて! 直ぐに来ていただいてちょうだい! 宿など取らなくても、うちにお泊まり頂けたら!」
アヴィー先生、本当に有名人らしいぞ。しかも、人気者だ。どこに行っても、アヴィー先生を悪く言う人がいない。人徳だね。
その大奥様に会うために、一行は花屋の店員さんと一緒に2層の貴族街へと向かう。
なんと宿の前には、お迎えの豪華な馬車が待っていた。
「おぉー」
「あら、助かるわね。ハルちゃん乗りましょう」
「長老、俺達は馬で付いて行く」
「おう、リヒト」
アヴィー先生と長老、そしてハルが馬車に乗り、リヒト達は馬でその後を付いて行く。
馬車といっても、流石お貴族様の馬車だ。真っ黒に塗られた馬車には、紋章がついている。大奥様の家の紋章なのだろう。
馬2頭で引く馬車が、ゆっくりと優雅に走る。3層から2層に入る門でも、馬車の紋章があるから素通りだ。
いちいち、止まって確認されたりしない。
「椅子はふかふからな」
馬車に乗っているハルの感想だ。
「けろ、揺れはエルヒューレの馬車の方がねーな」
「エルヒューレの馬車は車輪やバネが違うからな」
「じーちゃん、しょうなのか?」
「ああ。フィーリス殿下が一時馬車作りに凝ってな。その時にかなり改良されたんだ」
「おー、ふぃーれんかか」
「あの皇子は天才だからな」
「ふふふ、ハルの良いお友達ね」
「ん、ふぃーれんかは、おともらちら」
2層に入ると街の雰囲気が変わる。街中の道は、白い鉱石か何かで舗装されていた。馬車が余裕で行き違いできる広さもある。
両脇には花が植えられ、街路樹もあり歩道と車道を分けてある。
その歩道をお仕着せを着た人がチラホラと歩いている。屋敷に納品する為なのか、商人の馬車が行き交う。
「きりぇーになったな」
「瓦礫だらけだった街がな」
「な〜、あの時はたいへんらったな」
あの魔物騒動の後、ハルや長老も2層に入っている。瓦礫を撤去するのに、ハルと長老が亜空間収納を使って頑張ったんだ。
だが、フィーリス殿下が書いた、街の設計図しか見ていない。
修復された後の街を見るのは初めてだ。
どの屋敷も敷地が広い。門扉には守衛が立っている。
馬車に揺られ、貴族街を行く。その中でも一際広い1つのお屋敷に馬車は入って行く。
大きな立派な門構えがあり、屋敷のエントランスまで小道が続いている。その両側には、綺麗に見えるように計算され植えられたバラなどの大輪の花が咲いている。
この花も大奥様の趣味なのだろうか。
馬車がエントランス前で止まった。
馬車の外側から扉が開けられる。
――ようこそいらっしゃいました。
この屋敷に働いている人達だろう。
中央を空け、両側に整列して皆同じ角度で頭を下げて出迎えている。よく教育されている。
「うわ……」
「ほう」
「あら、こんにちは〜。お邪魔するわね」
アヴィー先生、マイペースだ。気後れなんて言葉は、アヴィー先生の頭にはないらしい。
リヒト達の馬にも、使用人が一斉に駆け寄り馬を預かっている。
「スゲーな」
「りひとの家より、しゅげーな」
「うちは使用人ともフレンドリーだからな」
「しょんないみじゃねー」
ハルが言っているのは、使用人達の所作の事だろう。
エルヒューレ皇国では、使用人だからといって差別する事はない。
それなりの教育はあるのだろうが、何より国に他国の人間が客人としてやってくる事がない。こんな風に出迎える事事態がないんだ。
なにしろ、ヘーネの大森林の最奥にある国だ。普通では辿り着けない。
「ようこそお越しくださいましたわ!」
1番奥の中央から、仕立ての良い上品なドレスを着た年配のご婦人が現れた。
身体中で、歓迎を表している。
「お初にお目に掛かりますわ。私、アウッティ公爵の妻でラウラと申します。お会いできて光栄ですわ」
「まあ、ご丁寧に。アヴィー・エタンルフレです。夫でエルヒューレ皇国の長老の、ラスター・エタンルフレ。曽孫の、ハル・エタンルフレです」
「俺はリヒト・シュテラリールです。ガーディアンの管理者をしてます」
「まあまあ! 皆様、よくお越し下さいましたわ! さあ、どうぞ。お入り下さいませ」
屋敷の中に入ると、また花の良い香りがする。大きな花瓶に生けられた花が、彼方此方に飾ってある。
この花も、庭に植えられていた花なのだろう。
何処もかしこも、磨き上げられてピカピカだ。
◇◇◇
お読みいただき有難うございます。
『ロロのオヤツにカヌレは?』とコメント頂いたのですが、ハルに頂きました。
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