第109話 一緒におやつ

 少しの時間、黙祷をしていた一行。長老とアヴィー先生、そしてハルは思う事もあるだろう。


「こはりゅが言ってた」

「ハル、何をだ?」

「争いはらめらって。じーちゃんもしょう言ってた」

「そうだな、覚えていたか」

「ん、わしゅれねー」

「良い子だ」


 コハルが以前話していた。『神は争いを嫌う』と。

 『次元の裂け目』が発生する原因は、瘴気が大量に増えた時だ。争いは、その瘴気が増える原因の1つにもなっていると話していた。


「おりぇは、しあわしぇら」

「そうか、それは良かった」

「ん、みんながいりゅからら」

「ハル、最初は尖ったちびっ子だったからなぁ」

「りひと、いうな」

「アハハハ」


 ハルはこの世界に突然やって来た。でも今は幸せだという。

 その言葉は、皆にとってとても嬉しい事だろう。


「宿でユックリするとしよう」

「そうね」

「じーちゃん、はりゃへったじょ」

「おう、そうだな。昼飯を食べて、ハルはお昼寝だ」

「ん」


 宿に入り、カエデとハルがいつもの様に部屋の中を見て回っている。


「しゅげーな、ぴっかぴから」

「な、めちゃ綺麗やろ?」

「ん、ここまれしゅるか? 風呂もきれーらな」

「あら、ハルちゃん。3層だもの」

「意味わかんねー」

「お貴族様の好みやってことや」

「ほぉ~」


 そして、ミーレとルシカが買ってきた昼食を食べる。


「まあまあらな」

「な、そうやんな」

「まあまあなのれす」

「ぶも」

「見掛け倒しね」


 賑やかしチームの感想だ。いつも通りだ。


「やっぱ、りゅしかの飯がいちばんらな」

「そうやな」

「1番なのれす」

「ぶも」

「ルシカのご飯は美味しいもの~」


 等と言いながら、ちゃんと綺麗に平らげている。

 コハルとヒポポ、シュシュもだ。シュシュは焼いた大きな肉を食べていた。

 誰が焼いても同じではないか?


「火の入れ方が違うのよ~」

「ほ~」


 そして、ハルちゃんはお昼寝だ。シュシュが添い寝をする……いや、ベッドを占領している。

 そのシュシュにくっついて、丸くなってスヤスヤと眠るハル。


「ハルちゃんが寝ちゃうと静かだわね」

「ハハハハ、ハルは居るだけで賑やかだからな」

「ちょっと寝顔を見てこようかしら」

「アヴィー先生、静かに寝かせてあげましょう」


 ルシカがお茶を出している。ミーレはどうした?


「アヴィー先生、甘いものを買ってくるの忘れちゃいました」

「あら、それは残念だわ」

「おやつなら持ってますよ」

「ルシカ、違うのよ。食後のデザートよ」


 ハルが起きたら直ぐに『りゅしかのおやちゅら』と言うぞ。

 

「別腹なのよ」

「ミーレ、太りますよ」

「ルシカ、酷いわね」


 いやいや、ミーレもハルに同じ事を言っていたじゃないか。

 ハルがフカフカのベッドから起きてきて、しっかりいつも通りルシカのおやつを食べていた時だ。

 部屋をノックする音がした。


「あら、お花屋さんかしら?」


 イオスが確認をする為に席を立った。

 この宿、とにかく豪華だ。一部屋といっても、広いリビングがあってちゃんとしたキッチンも付いている。

 そこを中心に4つの寝室があり、ハルが綺麗だと話していた風呂もある。何人か一緒に入っても余裕な大きさの風呂だ。

 部屋の入り口までは廊下がある。

 ここに住んでも生活できそうな宿だ。


「アヴィー先生」

「イオス、構わないわよ。入って頂いてちょうだい」

「はい」


 アヴィー先生の予想通り、花屋の店員さんだった。

 恐縮して頭を下げている。


「あら、どうしたの?」

「いえ、この宿の中に入るのは初めてで……その、豪華なのでちょっと驚いてしまって……」

「あら、そうなの?」


 おや? アヴィー先生、3層はこんなものだと言っていなかったか?


「この宿は新しいですし、特別だと聞きました」

「あら、そうなの?」


 また、同じ事を言っている。


「確か、貴賓の方々に泊まっていただけるように建てたそうですよ」

「あら、そうなの」


 さっきからアヴィー先生は「あら、そうなの」しか言っていないぞ。

 どうでもいいらしい。

 で、大奥様に連絡を取ったのだろうか?


「直ぐにお目に掛かりたいそうです。よろしければ、夕食をご一緒にと申しておりますが如何でしょう?」

「ほう、それは申し訳ないな」

「いえ、こちらがお願いするのですから」

「ねえ、あなたもこっちに来て食べない?」

「え?」

「うめーじょ」

「美味しいわよ」

「で、でも、アヴィー先生。大きな白い虎が……」


 ああ、そうだった。シュシュがいた。

 ヒポポは見えていないらしい。コハルはどうだろう?


「リスも食べるのですね」


 コハルは見えているようだ。


「大丈夫よ。虎だけど聖獣なの。美味しいわよ、食べなさいな」

「さ、どうぞ」


 ルシカが招き入れる。

 それでも恐々シュシュから遠い場所に座った。


「あらやだ、あたしヒューマンなんか食べないわよ」

「え……!? しゃ、喋りましたよ!」

「聖獣だから話せるのよ。気にしないで」


 いやいや、気にするだろう。大きな白い虎が鋭い犬歯を見せてスィーツに齧り付いているんだ。

 今日のおやつは何かな? ハルちゃん。


「カヌレら。しゃれてんら」


 ほう。ルシカお手製のカヌレらしい。

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