第107話 教育事情

 アヴィー先生とハルが花束を購入し、ミーレとルシカを待っていた。

 色々買い込んでいるのか、屋台と違って料理に時間が掛かっているのか。まだ2人は戻って来ない。


「長老、次の精霊樹はどこにあるんだ?」

「それだがな、ワシも3層からはあまり知らないのだが、どうやら学園の中らしい」

「え? 長老、学園の中なの?」

「ああ、位置を見るとどうやらそうらしい」

「あら、関係者以外は入れないわよ?」

「そうだろうなぁ」

「どうするんだ?」

「がくえん……がっこうか?」

「ん? ハルがいた世界では学校というのか?」

「しょうら。勉強しゅりゅとこ」

「そうだな。同じ年齢の子供達が勉強する場所だ。この3層にあるのは貴族達だけの学園だがな」

「え、しょうなのか?」

「ハルちゃん、この国ではそうなのよ。貴族以外は各層に無料で通える小さな学舎があるの。そこに通うのよ」

「じゃあ、もっと勉強したくなったらろーしゅんら?」

「3層にある学園のお隣りに高等学園があるのよ。そこは貴族だけじゃなくて、庶民も入学できるわ。でも学費が高いから、裕福な商人の子供か、授業料免除の試験を受けて特待生の資格を得た子供くらいね」

「えぇ〜、らめらなぁ」

「ハル、駄目か?」

「ん、知識は力になりゅじょ。国を支える力にもなりゅ」


 ハルは時々難しい事を言う。だって前世は大学生だったから。


「ハルちゃんの言う通りだわ」

「ばーちゃん、エルヒューレはどうなんら?」

「そうね、この国ほど大きくないでしょう。だからね……」


 エルフ族の国、エルヒューレ皇国。大森林の最深部にある国だ。

 規模も人口も、ヒューマン族と獣人族の国アンスティノス大公国よりずっと小規模だ。エルフ族以外の多種族は1割もいないだろう。

 そんなお国の教育事情、いや小国家だからこそ出来た事なのだろう。

 エルヒューレ皇国では、小さな頃から教育を受ける為の費用は全て無料なんだ。

 エルフ族は長命種だ。ヒューマン族と比べて成長速度が違う。それが学費が無料になっている理由の1つでもある。何故なら……


「子供が少ないのよ」


 ちびっ子が少ない……それだけ出生率が低いという事だ。

 だからこそ、エルフ族は子供を可愛がる。大事にする。国の宝だと皆で育てる。

 そんな考えから自然に出来上がった教育制度らしい。

 ハルの前世にあった幼稚園の様なものからあるのだそうだ。


「そこに同じ様な年代の子供達が通うの。専用の送迎馬車もあるのよ」


 まるで、幼稚園の送迎バスだ。


「年代毎に分けられて、色んな事を教わるわ」


 エルヒューレには貴族制度がない。あるのは、ハイエルフかそうでないかだ。

 だが、ハイエルフは数が少ない。


「身分に関係なくみんなでお勉強するのよ」

「ばーちゃんも、しぇんしぇいなんらろ?」

「昔の事よ。リヒト達の親の年代の子達から魔法を教えていたわ」


 アヴィー先生が魔法を教えていたのは、ハルの前世で例えると大学のような機関だ。

 エルヒューレでは、アカデミーと呼ばれている。誰もがそこに進むんだ。

 アカデミーでは、専門的な分野を選択したりする。

 それまで小さい頃は、一般教養を基本に教わる。が、森人とも呼ばれるエルフ族だ。その一般教養にもカラーがある。


「大森林を守りましょう。世界樹を守りましょう。て、お勉強もあるわ」

「なりゅほろ〜」

「大きくなって、ある程度の年齢になったら色々専門的な事も選択して学べるようになるの」

「ばーちゃん、しょりぇも無料なのか?」

「そうよ。教育に掛かる費用はすべて無料なの。国民みんなで育てるって意味があるのよ」

「しゅげーんらな」


 そこにミーレとルシカが戻って来た。ミーレは片手に袋に入った飲み物を持っている。ルシカは両手いっぱいに紙袋を持っていた。沢山、買ったようだ。


「ハル、フルーツジュースを買ってきたわよ」

「おー、のむじょ」

「ミーレ、ハルだけかよ」

「みんなにもあるわよ。フルーツジュースだけど」

「ジュースかよぉ」

「リヒト様、飲まないですか?」

「いや、飲むけど」


 はいはい。と、皆に配るミーレ。テイクアウトのジュースなのに、陶器のようなコップに入っている。しかも、模様入りだ。


「ミーレ姐さん、なんか高級そうなジュースやな」

「でしょう? 目の前で絞ってくれるのよ」

「へー」

「んめーじょ」


 ハルちゃんは早速飲んだらしい。

 しかし、さっきから花屋の店先で何をしているやら。店が迷惑じゃないか?

 ほら、店員さんが出て来たぞ。


「あのぉ……」

「あら、ごめんなさい。邪魔よね?」

「いえ、そんな事ないです。そうじゃなくて、ご相談したい事があって……」

「あら、何かしら?」


 花屋の近くにある、ベンチへと移動した。ハルがちょこんと座り、両手でコップをもってフルーツジュースを飲んでいる。


「んめーな、このじゅーしゅ」

「ほんまに美味しいなぁ」

「カエデ、いいから座りなさい」

「ミーレ姐さん、自分はいいねん」

「座ってゆっくり飲めば良いわよ、ほら」


 ミーレが、自分とハルの間を手でトントンとした。なんだ、ミーレはしっかりハルの横に座っていた。



 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます。

このお話から、『ミーレ姉さん』を『ミーレ姐さん』にしています。

宜しくお願いします。

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