第106話 花屋さん

 アヴィー先生とミーレを先頭に、商店が並ぶショッピングエリアへと馬を進める。


「みーりぇ、美味いもんありゅかな?」

「あるわよ、きっと」

「楽しみらなッ」

「ね、そうよね」


 ハルもちょっぴりウキウキしている。目的は食べ物らしいが。


「何か変わったものがあればいいわね」

「みーりぇ、ちげー」

「あら、違うの?」

「しょうら。変わってなくてもいいんら。美味かったら」

「あら、ハルは食い気なのね」

「みーりぇはちげーのか?」

「ハル、お花を買いに行くのよ」

「わかってりゅじょ」

「そう?」

「しょうら。けろ、うめーもんもあったりゃいいな」

「ふふふ、やっぱ食べ物なんじゃない」

「しょっちがメインじゃねーんら」

「あらそう」

「しょうら」


 なんだかんだ言っても、ミーレだって美味しいものには目がない。


「ねえ、ルシカ。お昼も買って行きましょうよ」


 ほら、やっぱり食べ物目当てだ。


「もうお昼の話ですか?」

「いいじゃない」

「はいはい」


 そこに、イオスとカエデが戻って来た。


「宿取れましたよ」

「めっちゃ綺麗な宿やったわ。びっくりしたわ」

「かえれ、しょうなのか?」

「そうやで、ハルちゃん。今までも綺麗な宿ばっかりやったけどな。今日のとこは特別や」

「とくべちゅ」

「ピカピカやったわ」

「ああ、建てて間もないからだろう」

「それにな、お風呂があるんやって」

「おぉー、ふりょ」

「な、ええやろ?」

「おー」


 3層のショッピングエリアは他とは違っていた。先ず、何処にでもあった屋台が1軒もない。


「ありぇ、ねーな」

「ハルちゃん、ここは3層だから他とは違うのよ」

「ばーちゃん、しょうなのか? なりゃ、どこで買うんら?」

「ほら、お店があるでしょう? テイクアウトにしてくれるのよ」

「ほぉ~」


 小綺麗な飲食店が並んでいる。そこで、テイクアウトにしてもらうらしい。

 どこの店でも、貴族相手を想定しているのだろう。

 だが、どの店も敷居が高い。ちょっとすみませ~ん、なんて言える雰囲気ではない。もしかして、ドレスコードがあるのか? と、思ってしまう高級レストランのような店ばかりだ。


「ルシカ、買いに行きましょう」

「ミーレ、私ですか?」

「何よ、嫌なの?」

「いえ、構いませんけど……」


 いつも買い出しに付き合わされるルシカ。構いませんとは言うものの、表情が消えているのはどうしてだ?

 そんな事はお構いなしに、どんどん店に入って行くミーレ。その後を渋々付いて行くルシカ。


「ミーレ、馬見てるから纏めて買ってきたらどうだ?」

「そう? イオス、ありがとう」


 張り切っている。ミーレはエルヒューレの街でもお買い物に張り切っていた。


「アヴィー先生、行きませんか?」

「私はいいわよ。ミーレ、適当に買ってきてちょうだい」


 おやおや、同じ女性でもアヴィー先生は興味がないらしい。


「あら、あっちにお花が売っているわ。ハルちゃん、行きましょう」

「うん、りひとあっちらって」

「おう」


 アヴィー先生に誘われて、リヒトが馬で付いて行く。

 大きなガラス張りで入口を開けっぱなしにしてある店。そこに、色とりどりの花が並んでいた。

 しかもだ。お高そうな大きな花をつけたバラが多い。

 貴族はバラが好きなのだろうか?


「すみませ~ん。花束が欲しいんだけど」


 気軽に入って行くアヴィー先生。


「リヒト、馬を見ているからハルと行って来るか?」

「長老は行かないのか?」

「アヴィーの買い物は長いんだ。ワシは外で待ってるぞ」

「アハハハ。花を買うのに長くも掛からないだろう?」

「だと良いんだがな」


 渋る長老に馬を任せて、ハルと一緒にリヒトがアヴィー先生を追った。

 長老が言った通り、案の定アヴィー先生は店員と話し込んでいる。


「ばーちゃん、決めたか?」

「ハルちゃん、この真っ白のお花が良くないかしら?」


 アヴィー先生が選んだのは、真っ白で5枚の花びらの1枚1枚が大きくて美しい大輪の花だ。


「いいな、きりぇーら」

「ね、いいわよね」

「ばーちゃん、こっちの黄色の花もかわいいじょ」

「あら、本当ね」


 ハルが選んだのは、淡い黄色の小さな花が手毬のように密集して咲いている可愛らしい花だ。


「花束にしてもらいましょう」

「ん」


 店員さんが手際よく花束にしていく。大輪の白い花と、手毬のような可愛らしい淡い黄色の花をバランス良く合わせていく。

 そして、花に合わせて黄色と白のリボンを結んでくれた。


「ありがとう、とっても素敵だわ」

「ん、いいな」


 アヴィー先生も、ハルも気に入ったらしい。


「あの……エルフの方ですか?」


 花束を作ってくれたお姉さんが話しかけてきた。


「ええ、そうよ」

「もしかして、アヴィー先生ですか?」

「あら、私を知っているの?」

「勿論ですよ、アヴィー先生を知らない者なんていませんよ! うちの祖母が先生のお薬の世話になったんです」

「そうなのね」

「はい! アヴィー先生、あの……握手してもらえませんか?」

「え? 私?」

「はい! 是非!」

「あら、構わないわよ〜」


 おやおや、アヴィー先生は本当に有名人だ。薬店を出しているのは4層なのに、3層でも利用している人がいるらしい。


「ばーちゃん、しゅげーな」

「ハルちゃん、そんな事ないわよ。長い間お店をしていたもの」

「もしかして、アヴィー先生のお孫さんですか?」

「曽孫なの」

「ひ、曽孫ですか!?」

「そうよ〜、可愛いでしょう」

「は、はい。とっても」


 可愛いどうこうよりも、曽孫という事に驚いているぞ。

 アヴィー先生はそんな歳に見えないから仕方ない。まさか、2000歳オーバーだとは誰も思わないだろう。

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