第104話 でろ~ん

 店も落ち着き、ルシカの昼食も出来上がってきた。


「いい匂いがしてきたじょ」

「ハルちゃん、お昼にしましょう」

「おー、腹ペコら」


 店の奥にある、休憩所の方へと移動する。奥はこの人数だと、少し手狭だがリビングの様になっている。

 そこで、元の大きさに戻った白い奴が場所をとって寝そべっていた。デローンと体を伸ばして、すっかり寛いでいる。デカイな、邪魔になるぞぅ。


「シュシュ、狭いんだから小さくなってくれない?」

「あら、アヴィー先生。酷い言い方だわ」

「だってシュシュは大きいんだもの」

「もう、仕方がないわねぇ」


 また小さくなるシュシュ。何がしたかったのか?


「やっぱね、元の大きさの方が寛げるのよ」


 うん、意味が分からない。


「しゅしゅ、こっちおいれ」


 おや、珍しくハルが呼んでいるぞ。


「ハルちゃ〜ん」


 長い尻尾をフリフリしながら、ハルのそばへと移動するシュシュ。


「しゅしゅはデケーかりゃな。仕方ねーんら。この国れはがまんらじょ」


 そう言い聞かせながら、シュシュを膝に乗せてプクプクとした手で撫でる。


「ハルちゃん、分かっているわよぅ〜」


 まるで猫ちゃんのように、ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてきそうだ。


「さあ、お昼にしましょう」


 おや、ミーレがお皿を運んできたぞ。


「え? ミーレが作ったのか?」

「リヒト様、そんな訳ないじゃないですか」


 なんだ、運んでいるだけらしい。良かった。


「あ、リヒト様。今、ホッとしましたね?」

「そりゃそうだろう」

「酷いですね」

「だって、ミーレは料理できないだろう」

「まあ、できませんけど」


 自他共に認めている。ミーレは料理だけでなく、掃除も苦手だ。

 決して、不器用な訳ではない筈だ。だって、ハルの前髪やリヒトがベースにいる時の編み込みはミーレがしている。

 器用に上手に編み込んでいる。プロ級だ。

 要はやる気がないのだろう。練習や鍛練が嫌いなミーレだから。


「ハルちゃ〜ん、できたで〜」


 カエデも手に皿を持ってやってきた。


「ん、腹へった」

「お待たせしましたね、食べましょう」

「今日はな、さっき貰ってきた馬刺しがあるねん」

「カエデ、いつの間に貰ったんだ?」


 おや、長老は知らなかったらしい。


「旦那さんが、お礼に持って帰ってって言うてくれてん」

「とても新鮮で美味しそうですよ」

「ばしゃし」

「ハル、食べた事があるのか?」

「ねーな」

「ハルちゃん、このタレを付けて食べるんやって」

「ほぉ~」


 みんな揃っての昼食だ。

 何かのモモ肉だろうか? こんがりと良い感じにソテーしてある。

 掛かっているソースは、ルシカ特製のハニーマスタードソースだ。それに、頂いた馬刺しだ。

 ハルが先ず最初に馬刺しをフォークに刺した。


「うわ、うましょー」

「ハル、美味いぞ」


 リヒトはもうモグモグと食べている。

 ハルも薄く切った馬刺しを、大きなお口を開けてパクッと頬張った。


「ん~、めっちゃやわりゃかくてうまいじょ」

「それは良かったですよ」

「本当、ルシカ美味しいわ」

「ほっぺが落ちちゃうわよぅ〜」


 小さくなっている白い奴もハムハムと食べている。まるでニャンコだね。


「このタレが超うまいじょ」


 ハルちゃん、お口の周りがカピカピだ。

 タレが付いてしまうんだね。早く拭かないと、痒くなるぞ。


「ハル、ほっぺ拭きましょう」


 ハルの横を陣取っているミーレが拭いている。珍しい。いつもは、ルシカなのに。


「ん、またちゅくけろな」

「ふふふ、そうね」

「今日の温サラダはカエデが作ったんですよ」

「おぉー、かえれが」

「えへへ。ドレッシングも作ったんやで」


 カットした色々な野菜とゆで卵、バランスよく盛り付けてある。


「ゴマら」

「ハルちゃん、そうやで。ゴマドレッシングやねん」

「ん、風味がいいじょ」

「ありがと〜」

「カエデ、美味しいわ」

「ミーレ姉さん、ありがと〜」


 食事をしながら、アヴィー先生がニークに申し送りをしている。どこの誰が薬を取りに来た。あの人の薬は少し変更した等だ。


「ニークも立派にやっている。安心したぞ」

「長老、有難うございます。でも、まだまだですよ。迷う事も多くて」

「あら、ニーク。そんなの当然よぅ。私だって未だに迷う事があるわ」

「そうですか? アヴィー先生はいつも堂々としているのに」

「そりゃそうよ〜」

「アハハハ、ニーク。薬を出す者が不安気にしていたら、患者さんも不安になるだろう」

「そうか……長老、そうですね」

「そうなのよ。だから、不安そうにしていたら駄目よ」

「はい、分かりました」

「らいじょぶら」


 ハルが口を出した。


「ハル、大丈夫か?」

「ん、ニークしゃんなららいじょぶら」

「ハルくん、有難う」

「ふふん」


 フォークを持ちながら、自慢気なハルちゃんだ。

 お昼を食べたら、ハルはお昼寝だ。今日は昼食が遅かったから、食べ終わると直ぐにコテンと寝てしまった。


「可愛いわね~」

「シュシュ、だから元の大きさになったら邪魔だって」

「ミーレ、酷いわね」


 デロ~ンと、ハルに添い寝をしていたシュシュ。懲りずにまた元の大きさに戻っていたらしい。


「だって、元の大きさの方が落ち着くのよ」

「はいはい」


 アヴィー先生とルシカやニークはまた店で忙しそうだ。

 皆、アヴィー先生が来ているのを知っていた。アヴィー先生、人気者だ。それだけ、信頼されているんだ。

 これからは、ニークが継いでいく。大丈夫だ。アヴィー先生の一番弟子なのだから。

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