第100話 番外編 お正月 2

「リヒト〜! あけおめ〜!」


 そこに賑やかにやって来た。

 南東にあるベースの管理者で、キュートなのに最強のソニル・メリーディだ。

 その後ろには各ベースの管理者がいた。

 北にあるベースの管理者で、兄貴肌のノルテ・テントーリオ。

 北西にあるベースの管理者で、豪快なリレイ・グリーエン。

 南西にあるベースの管理者で、1番ガタイのいいシアル・カピターノ。

 そして、北東にあるベースの管理者が、リヒト・シュテラリールだ。

 新年早々、エルフ族の最強の5人が勢揃いした。


「リヒト! ハルちゃぁ~ん! ソニル様だよ~!」


 相変わらず賑やかだ。まさか、最強の5戦士の中でも1番最強とは思えないキャラだ。

 キャラ設定を間違えたか?


「おう、お前達も帰ってたのか」

「長老、もう呑んでんのか?」

「アハハハ、正月くらい良いだろう。お前達も呑め」


 5戦士の其々の従者も一緒に来ているので一気に人数が増えた四阿。

 ルシカが5人に、お雑煮とおつまみを出している。


「おや、ルシカ。これは何だ?」

「シアルさま、お雑煮といいます。中に入っているお餅は、筋肉を発達させるのに良いそうですよ」

「お、そうなのか」


 シアルは5人の中で、1番ガタイがいいだけあって筋トレも大好物だ。

 ストイックに毎日筋トレしているらしい。


「リレイ、その食べ方は豪快過ぎるだろう」

「ノルテ、美味いぞ。この薄く切った肉」

「それはローストビーフといいます」 

 

 どうやら、リレイは薄く切ってあるローストビーフを何枚もまとめて食べているらしい。


「ねえねえ、長老。ハルちゃんとリヒトは何やってるの?」

「あれか、あれは羽子板という遊びだそうだ。2人が持っている板で、羽根を打つんだ」

「あれ、遊びなの?」


 ソニルが言うのも無理はない。ハルとリヒトは身体強化を使って、ビシバシと打っては拾い時々一回転したりしている。

 どう見ても、遊びには見えない。

 うふふ、アハハという遊びではなく、とぉ! おらッ! と、超マジだ。


「おらおら! ハル、遊んでんじゃねーぞ!」


 いや、リヒト。遊びだから。


「しちゅれいらな、大マジら!」


 こらこら、遊びだ。


「最後ら……とぉッ!」


 ハルが、高くジャンプしたと思ったら、弾丸の様に羽根を打ち返した。

 リヒトが拾いに走るが、一歩及ばず羽根はドギュン! と地面に落ちた。

 羽根が落ちる音ではない音がしている。しかも、地面が少し抉れている。


「あー、クソー!」

「へへん」


 ハルの勝ちだ。短いぷっくりとした指を2本立てている。2人に勝ったと言いたいのだろう。


「ちょっとちょっと、ハルちゃん凄いじゃない!?」

「面白そうだな。地面に落としたら駄目なのだな」


 ふむふむと見て分析しているノルテ。

 隣に座っていたシアルが立ち上がる。


「リヒト、次は俺と勝負だ」

「おう! シアルには負けねーぞ」


 ベースの管理者……いや、最強の5人は皆脳筋なのか?

 羽子板の勝ち抜き戦が始まってしまった。

 対戦している2人の距離が、羽子板をしている距離ではない。まるで、テニスでもするかの様だ。

 リヒト対シアル。リレイ対ノルテ。ソニルは不戦勝らしい。


「なんれ、しょにりゅしゃんは対戦しねーんら?」

「ハルちゃん、僕は最強だからだよぅ」


 横ピースをしながら、バチコーンとウインクをしている。


「しょうなのか?」

「そうなんだよ〜」


 ハルにほっぺをスリスリしている。


「ああ、可愛いなぁ〜」


 これで、エルフ族最強の男だ。キャラ崩壊だ。

 結局、リヒトが勝ち残った。伊達にカッコいい枠ではないらしい。

 最終対決は、リヒト対ソニルだ。


「りひと、意外とつえーんらな」

「当たり前だろ。意外って何だよ」

「らって、おりぇには負けたらろ」

「偶々だ! 偶々!」

「ふふん」


 ハルちゃん、聞いてない。とっても自慢気だ。

 しかし、このトーナメント戦。どう見ても羽子板遊びには見えなかった。

 5人共、身体能力が高い。どんなに左右に振られても、どんなに高く飛ばされても軽く取ってしまう。

 それを見ていた長老の疑問だ。


「ハルの前世では、こんなにハードな遊びをするのか?」

「じーちゃん、ちげー」

「違うのか?」

「ん、じぇんじぇんちげー。子供や女の子でもできりゅ遊びら」

「そうか、それは違うだろうな」

「ん」


 目の前では、リヒト対ソニルの激しい羽子板遊びが繰り広げられていた。

 身体強化は勿論の事、羽根に風属性魔法まで付与して打っている。

 元々この羽根は、フェニックスの羽根だ。火属性がある。なので、時折り炎が尾を引いている。

 羽子板の羽根が、炎を帯びるなど聞いた事がない。

 到底、ハルが言う様な子供や女の子でも出来るような遊びではない。


「ちげー、じぇんじぇんちげー」


 と、ハルはお雑煮の餅を食べながら言う。


「アハハハ! そりゃそうだろうなぁ」

「じょうに、んめーな」


 ルシカが苦心した、白味噌仕立てのお雑煮に満足しているようだ。

 長老の、そのお酒は何杯目だ?

 しばらく、リヒトとソニルの攻防が続いていたが……


「リヒトもまだまだだね! それッ!」


 ――カーン!


「うぉッ!」


 ソニルの渾身の一撃が決まった。地面に穴が空いている。

 この勝負は、最強の戦士ソニルの勝ちだ。


「あー、やっぱ強いなー」

「リヒトも、なかなかだったよ」


 2人仲良く握手をしている。


「ちげー」


 ハルちゃんの物言いがつきそうだ。


「餅うめーな」

「いっぱいあるから、おかわりしてや〜」

「かえれ、ありがちょ」

「ハルちゃ〜ん!」


 カエデがハルに抱きつく。やっぱカエデも立派なハルのファンクラブ会員だ。


「やだわ、カエデ。あたしだってハルちゃんにくっつきたいのよぅ」


 と、言いながらカエデも一緒にハルに抱きつくシュシュ。


「しゅしゅ、おもいんら」

「やだハルちゃん、レディーに対して重いなんて禁句よぅ」

「しょっか?」

「そうよう」

「しゃーねー」


 誰がレディーだ。

 ハルの周りは新年から騒々しい。


「しゃーねー」


 ビヨーンと伸びるお餅を食べるハル。

 平和だね。

 今年も宜しくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る