第99話 番外編 お正月 1

「いっくじょー!」

「ハルちゃん、いいでー!」

「とぉッ!」


 ――カーン!


「それッ」


 ――カコーン!


「とぉッ!」


 ――カーン!


「おっと!」


 ――カコーン!


「アハハハ。ハル、上手だな!」

「あたりまえら! とぉッ!」


 ――カーン!


「カエデも頑張れー!」

「ミーレ姉さん、ありがとー!」


 ――カコーン!


 ここは大森林の最奥にあるエルフ族の国エルヒューレ皇国だ。

 お馴染みのハルちゃん御一行は、正月休みでリヒトの実家に帰って来ている。

 正月はベースの受付もお休みだ。隊員達も、皆実家に帰っている。


 そこで、ハルとカエデが何をしているのかというと、羽子板擬きで遊んでいた。

 この、羽子板擬き。ハルに強請まれて、長老が手ずから態々作った物だ。なんと世界樹の枝からできている。


「打つ板はこんな形れ、丸いのに羽根がちゅいてんら」


 と、なんともアバウトなハルの説明から試行錯誤して作った。


「じーちゃん、しゅげーな! しょうしょう、こんなんら! 大きしゃもちょうろいいじょ!」


 無事にハルのお墨付きも貰った。

 羽子板擬きには、ハルとカエデ、コハルが絵を描いた。だから、グダグダだ。

 何が描いてあるのか、さっぱり分からない。

 本人達は得心しているらしい。自慢気に、自分が絵を描いた羽子板擬きで遊んでいる。


「じーちゃん、羽根はおりぇがもってりゅじょ」

「羽根か?」

「ん……」


 そう言って、ハルがマジックバッグから取り出した真紅の羽根。キラキラと輝いている。

 おいおい、光っているぞ。それは、普通の羽根なのか?


「ハル、この羽根は……」

「ふぇにっくしゅの羽根ら」


 以前、ベースの裏でハルが保護したフェニックス。その羽根だという。

 いつの間に、羽根を取っていたのか。


「もらったんら。ありがとってな」

「ほう、ハルが保護したからか?」

「しょうら」

「ハル、これはとても貴重なものだぞ。使っても良いのか?」

「え? らめか? らって綺麗らろ?」

「ハルが良いなら良いがな」


 と、いう事で羽子板の羽根には、フェニックスの真っ赤な羽根が付いている。なんて豪華なんだ。

 それを、とぉッ! と、思い切り打っている。


「あー、ハルちゃんには勝たれへんわー」

「ふふん」


 どうやら、ハルが勝ったらしい。ハルが、より一層ポッテリとしたお腹……ではなく。腰に手をやり胸を張っている。


「よし! ハル、次は俺だ!」


 おや、リヒトが参戦するらしい。


「ふふん、かかってこいやー」


 ハルちゃん、超やる気だ。しかも、勝つ気満々だ。


「いっくじょー!」

「おう!」

「とぉッ!」


 ――カーン!


「おっと」


 ――カコーン!


「なんだ、早速遊んでいるのか?」

「ふふふ、ハルちゃんったら可愛いわ」


 長老とアヴィー先生が顔を出した。


「長老、ハルはなかなか強いですぞ」

「そうなのか?」


 ハル達が羽子板擬きで遊んでいるのを、優雅に四阿でお茶を楽しみながら見ていたのはリヒトの家族だ。


「酒を持って来たぞ」

「お、いいですなぁ」

「長老、朝からですか?」

「正月だ、良いだろう」


 長老とリヒトの父と兄は呑む気だ。

 ご挨拶が遅くなりました。

 皆様、明けましておめでとうございます。どうか、本年もハルちゃんをよろしくお願いします。

 今年も『ちゅどーん!』と頑張ります。

 

「あら、このお肉とっても美味しいわね」

「ふむ、酒に合うな」

「長老、アヴィー先生、それはローストビーフですわ」

「ローストビーフ?」

「ハルが食べたいと言い出したのよ」

「まあ、そうなのね。ルシカが作ったの?」

「私とシペさんで作りました」


 シペさんとは、シュテラリール家のシェフだ。


「アヴィー先生、このお雑煮というのも美味しいですわよ」

「それもハルかしら?」

「そうです。白味噌というものを使っているのですが、ハルの記憶が曖昧で作るのに苦労しました」

「ふふふ、ハルちゃんは色んな事を知っているのね」


 ハルが思うお雑煮は、白味噌仕立てらしい。味噌なんて、よく作ったものだ。

 ハルは前世、体が弱くてよく寝込んでいた。その時にできなかった事、食べられなかった物をどうやらこの世界で再現しているらしい。

 それにしても、羽子板とは。今時の子はテレビゲームではないのか?


「てれびれ見たんら。負けた人の顔に絵をかいてた」


 それをやりたかったのか?


「けろ、しねー。かえれは女の子らからかわいしょうら」


 対戦する前から勝つ気でいたらしい。実際、ハルちゃんが勝っている。


「あたしもやりたいわぁ〜」

「シュシュ、その肉球でどうやって持つのよ」

「ミーレったら夢がないわね。気分がダダ下がりになっちゃうわ」


 相変わらずの白い奴だ。塊肉に齧り付いている。


「シュシュ、お雑煮も食べますか?」

「ルシカ、ハルちゃんと作っていたのでしょう? もちろん、食べるわよぅ」

「熱いですから、気をつけてください」

「ありがと」


 大きなスープ皿に、たっぷりのお雑煮だ。お餅も沢山入っているぞ。


 ――カコーーン!


「あ! ハル、わりぃ!」


 リヒトが、思い切り高く羽根を飛ばしてしまっている。ハルの頭上ずっと高くにまで飛んでいるぞ。ホームランだ。


「へいきら! とぉッ!」


 ハルが高くジャンプした。身体強化を使っているのだろう。

 そして、空中で……


「たぁッ!」


 ――カーン!


 そのまま、羽根を叩き落としクルリと一回転してシュタッと着地した。


「おいおい、あれはさっきとは違った遊びになっているぞ」


 見ていた長老が驚いている。


「うおッ!」


 カコーン!


 ハルが思い切り、叩き落とした羽根をリヒトが地面ギリギリで拾う。

 リヒトも、そのまま一回転している。


「あらあら、ふふふ」

「アヴィー、ふふふじゃない。ハルは身体強化を使っているぞ」

「そうみたいね。ハルちゃんったら凄いわ」 


 いやいや、それは羽根突きなのか?

 そんなハードな遊びだったか? 日本にある羽根突きとは違ったものになってしまっている。


「ハル、甘いぞ!」

「まらまらら!」


 ――カーン!


 今度は横から鋭く打つ。弾丸の様に羽根が返っていく。


「おらッ!」


 ――カコーン!


「とぉッ!」


 ――カーン!


 まるでアクロバットだ。ハルも小さな体でよく動く。

 リヒトよりリーチが短い。なのに、左右に振られても高く上げられても平気で返している。


「これはもう遊びじゃないわね」

「リヒトも大人気ないわ」

「アハハハ、ムキになっているな」

「それにしても、ハルは俊敏だ」

「だってハルちゃんだもの〜!」

「幼児体型なのにね」


 ミーレは褒めていない。ディスっている。



 ◇◇◇


お読みいただきありがとうございます!

今日は番外編の投稿になります。

今年も宜しくお願いします。

今日のお話は、ノン様のアイデアを頂きました。有難うございます!

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