第98話 あら大変
「パッパカ? 何だそれ?」
「お歌ら。りひと、知りゃねーのか? まらまららな」
リヒトが知らないのは当然だ。だってハルの前世にあった歌なのだから。
「ハルちゃん、歌ってー。聞きたいわ」
「いいじょ〜」
まるで幼稚園の遠足だ。
「おんまはみぃんな、ぱっぱぁかはっしりゅ。ぱっぱかはしりゅ、ぱっぱぁかはっしりゅ♪」
リヒトの馬に乗っているハル。なのに、体を上下に動かしてリズムを取っている。
「アハハハ。ハル、ご機嫌だな」
「らって超たのしみら。馬の赤ちゃんらじょ」
「ハルは見た事がないか?」
「じーちゃん、ねーじょ」
「そうか。ワシはユニコーンのお産に立ち会った事があるぞ」
「じーちゃん、しゅげーな! ゆにこーんか!?」
「ハルちゃん、お歌の続きはぁ?」
「知りゃねー」
「またやん! またちょびっとやん!」
「アハハハ!」
ハルちゃん、本当にご機嫌だ。
そんなに馬の赤ちゃんが見たかったのか?
「動物はしゅき。けっこーしゅき」
だそうだ。そういえば、精霊獣が出て来た時もとっても喜んでいる。
シュシュやヒポポに乗るのも好きだ。カエデと初めて会った時は、ナデナデしたいとずっと言っていた。
「しぇいりぇいじゅうも、かわいーけろな。なんかちげー」
「どう違うんだ?」
「らってかわいしょうな時ありゅし」
確かに。この国の精霊獣は弱っている状態で出て来る事が多い。精霊樹自体が弱っているのだから仕方ない。
ニークが行った厩舎は、アヴィー先生が話していたように馬で直ぐの距離だった。そう大して時間は掛からずに、牧場らしきものが見えて来た。
「長老、あれじゃねーか?」
「そうだろう」
「あれ? あれ、走って来るのニークじゃないですか?」
「あ、ホンマや。ニークさんや」
イオスとカエデがニークを見つけた。
慌てて、走って来るらしい。
「ニーク! どうした!?」
「あ! リヒトさん、長老、ハルくん達も!」
パカパカとニークに近寄ると、本当にニークは慌てていたらしく息を切らしている。
「皆さん来ていたんですね! すみません、助けてください!」
ハアハアと息が上がっているのに、ニークは一気にそう言い頭を下げた。
「馬の赤ちゃんが産まれたと聞いて、ハルが見に行くと言い出したから来たんだ。何かあったのか?」
「それが……」
厩舎のオーナーの奥さんが産気付き、それにニークは立ち会っていた。
小さいが無事に男の子が産まれたそうなのだ。
だが、何故か奥さんの出血が止まらない。そして、もう産まれたと言うのにまだ痛みに苦しんでいるという。
そして、産まれた男の子も呼吸が安定しないのだそうだ。
奥さんも、出血が多いのでこのままだと命が危ない。ニークは薬湯を取りに、店に戻ろうとしていたところだった。
「イオス、ルシカに薬湯を頼みに走ってくれるか?」
「長老、分かりました。ニーク、どの薬湯を持ってくるんだ?」
「ああ、増血と……」
ニークが、奥さんの状態を考慮して薬湯の指示を出す。
「カエデはハルと一緒にいな」
「分かった」
カエデが、ヒョイと馬から降りる。と、イオスが馬で走るのかと思いきや、イオスも馬を降りた。
「カエデ、手綱を持って付いて行けるか?」
「うん、大丈夫や」
「よし、頼んだぞ」
と、言って小さな風が起こったかと思うとシュンッと消えた。
「あー、イオス兄さん瞬間移動や。ええなぁ。かっこええなぁ。羨ましいわ」
街中は人も多い。そんな街中を馬では走れない。なら、瞬間移動の方が早いのだろう。
「何よ、カエデ。反則技を覚えたいの?」
「瞬間移動なんか反則のうちに入れへんやん。エルフやと普通やん」
「まあ、そうね。でも、カエデはエルフじゃないでしょう? カエデが出来る事をすれば良いのよ」
「……シュシュ、びっくりやわ」
「何よぅ?」
「シュシュも偶には良い事言うんやな」
「偶にじゃないわよ! あたしの知能の高さを知らないの?」
「あー、はいはい」
こんな時でも、シュシュとカエデは姦しい。シュシュは喋ったら駄目なんだぞぅ。
「バカな事を言ってないで、ほらカエデ。ちゃんと手綱を持ちなさい」
「はーい」
ミーレに叱られてしまった。
「じーちゃん、診る?」
「そうだな。診てみるか。まだ痛みがあるというのに引っ掛かるな」
「らな」
ハルちゃん、君はお産を知っているのか?
「ハル、分かるのか?」
「分かんねー」
なんだよ! 分からないのか。
「ニーク、とにかく診せてもらえるか?」
「長老、お願いします!」
「長老、行ってくれ。馬は俺が見ておく」
「リヒト、頼んだ」
こっちです。と、ニークに案内されて厩舎の奥にある家へと入って行った。長老に抱っこされて、ハルも一緒だ。
奥に案内されると、お産婆さんらしい女性がいた。ニークを見て驚いている。
「ニーク、もう薬湯を持って来てくれたの!?」
そんな訳はない。ニークは瞬間移動も転移もできない、普通のヒューマンだ。
「アヴィー先生のご主人が偶々いらしたのです! 診てもらいましょう!」
「え!? アヴィー先生の? じゃあ、エルフ!?」
「ワシはエルフですぞ。ちょっとよく見える目を持っているので、診せてもらえますかな?」
よく見えるどころの騒ぎではない。本人でさえ知らない事まで見える。鑑定眼の、最上位スキル神眼だ。
エルフ族の中でもこの神眼を持っているのは長老だけだ。
「よ、宜しくお願いします! 妻を助けてください!」
お産婆さんの後ろで、旦那さんらしき男性が頭を下げている。
小さな布団の上に、産まれたばかりの赤ちゃんが寝ている。少し元気がないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます