第95話 認識阻害のシールド

 街外れ近くにある墓地までやって来た一行。

 工場や工房も少なくなり、民家が建ち並ぶ。大きな通りを隔てて墓地があり、その入口には小さな門がある。墓地を囲んである柵の、此処が入口だと示す程度の門だ。

 その入口から入って直ぐ両側に木が植えてある。その並びには水場があり、中央には奥へと小道が伸びていてその両脇に墓石が並んでいる。

 柵に沿って花壇があり小花が咲いている。入口、左右、奥の4箇所にだけ木が植えてあり、その木の下にはベンチも置いてある。木陰にあるベンチで休めるようになっているのだろう。どちらかというと明るいイメージの墓地だ。

 利用する人達が、手入れをしているらしくゴミも落ちていないし花壇も整備されている。所々の墓石の前には、真新しい花束が置かれている。

 そんな墓地の中央にある小道を一行は奥へと進む。


「じーちゃん、1番奥の木の近くらな」

「そうだな。ハルも少し分かる様になったか?」

「ふふん。おりぇも進歩してんら」

「ハルちゃん、それは日進月歩って言うんやで」

「にっしんげっぽ」

「そうやで。日に日に、絶えず進歩することやな。カエデちゃんの事やな」


 そう言えば、カエデはよく四文字熟語やことわざを言っていた。奴隷だった頃に商業ギルドで読んだ本の影響だと話していた。奴隷で文字が読める事は珍しい事なんだ。カエデの努力が窺える。


「あ、ありぇら」


 長老に抱っこされているハルが、小さくてプクプクした指で指す。ルシカとイオスは光さえも見えていない様だ。


「ああ、ここも元気がないな」

「けろ、まらマシら。ちゃんと立ってりゅかりゃな」


 確かに。木の根っこが半分見えている精霊樹もあった。半分倒れかけている精霊樹もあった。それに比べればまだ元気な方なのだが、それでも光は弱い。


「この国で元気な精霊樹はないのかも知れんな」

「長老、浄化の魔石がなかったからか?」

「もちろんそれもあるだろうが、この国は自然を大事にする気持ちが薄いように思える」

「それはそうよね。私もそう思うわ」

「エルフは森人と言われるだけあって、自然と共に生きている種族だからな」

「長老、そうだな」

「ばーちゃん、ひぽを出しゅじょ」

「そうね、じゃあ認識阻害のシールドを張りましょうね」


 アヴィー先生が魔法杖を出す。何かを唱え杖で大きく半円を描く。それだけで目には見えないが、認識阻害のシールドが張られているらしい。

 認識阻害のシールド、エルヒューレ皇国全体に常時展開されているシールドと原理は同じだ。

 魔力量の少ないヒューマンだと、そこにある事さえも分からない。そこで何が起きているのかも、認識できないというシールドだ。

 ただ、国に張られているシールドとは規模が違う。それを可能にしたのは、フィーリス第2皇子の研究成果だ。言うまでもなく、ハルのお友達だ。


「ハルちゃん、いいわよ」

「よし。ひぽ、こはりゅ」

「はいなのれす!」

「ぶもッ!」


 張り切って、ポポポーンと出てきた2頭の聖獣。この国では、基本的にハルの亜空間から出る事はできない。なので、久しぶりの出番で少し張り切っている。


「まだマシなのれす。でもピュリフィケーションとヒールなのれす」

「よし、まかしぇりょ。ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」


 ハルがそう詠唱すると、白く輝く光が精霊樹を包み込む。ゆっくりと光が消えていくと、精霊樹が輝きだした。


「お、光の強さが違うぞ」

「そうですね、光が見えるようになりましたね」

「イオス兄さんも見えるんか?」

「おう、今は光っているのがハッキリと分かるぞ」

「ええなぁ~」


 カエデは魔力量が少ないから仕方ないと、分かっているもののやはり見たいのだろう。


「ひぽ、しぇいりぇいじゅうはいりゅか?」

「ぶも!」


 ヒポポが任せとけと一鳴きする。すると、出てきた。ヒョコッと小さな小さなブタさんだ。


「あー、ぶーぶー」


 ハルが手を出すと、その手を目掛けてフラフラと寄ってきた。

 小さくて弱々しいブタさん。淡いベージュピンクの体色だ。どうやら最初に出てくるブタさんはこの色らしい。


「ぶッ」


 か弱い泣き声だ。特徴的なお鼻にムッチムチの体。その割には短めの脚。背中には葉っぱでできた翼があり、パタパタと小刻みに動かしながら飛んで……いや、フワリフワリと浮いている。

 尻尾はクルリンと丸まっていて、先端には小さな葉っぱが2枚。それも力無げにピョコピョコと動いている。


「ぶたしゃん、ぶたしゃん、ぶーぶー」


 意味の分からない事を言いながら、小さな手で子猫ほどしかないブタさんを撫でている。


「げんきねーな」

「ぶひ」

「ぶもぶも」

「ぶ」


 何かを話している様だ。


「ひぽ、なんて言ってんら?」

「ぶもも」

「しょうなのか。かわいしょーにな」

「ハル、何と言っているんだ?」

「じーちゃん、このしぇいりぇいじゅの近くにもう1本あったんらって。けろ、枯れちゃったって」

「そうなの、かわいそうに」

「ね、ほんとよね」


 シュシュはアヴィー先生と紛らわしいから黙っていて欲しい。


「こはりゅ、植えりゅか」

「はいなのれす」


 コハルも張り切ってピョンとヒポポの上に乗った。

 両手を広げ、次から次へと精霊樹の実を取り出す。クリスタルのりんごの形をした精霊樹の実は、フワリと浮いて地面へと吸い込まれて行く。

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