第94話 怖くない

 カエデがコハルの絵を皆に見せている。


「見てや! こんなん分かる訳ないやん!」

「アハハハ!」

「な、リヒト様も分かれへんやろ?」

「確かになぁ。コハル、それは何を描いたんだ?」

「これは、神なのれす!」


 堂々と言った。もう1度言おう。紙に描かれているのは幾つもの円だ。

 ハルは何故かうんうんと納得した表情でパチパチと手を叩いている。拍手のつもりだろう。拍手をする程、神に似ているのか? ハルに『くそじじい』扱いをされているあの神に。


「ブハハハ!」


 リヒトが爆笑しているぞ。どう見ても円にしか見えない。しかも歪んでいる。


「ハルの狐も見せてくれよ」

「おう」


 ハルも堂々とリヒトに見せた。ババン! と、これも自慢気に見せた。どうだ! と、言わんばかりだ。


「ブハハハッ!」


 これもまたどう見ても狐には見えない。辛うじて、尻尾が分かる程度だ。

 だって、体でリズムを取りながら描いていたのだから線がブレブレだ。


「さて、そろそろ夕飯を食べて精霊樹を探しに行くか?」

「おう! じーちゃん」


 ハルが何故が張り切っている。と、いうよりも力が有り余っているのだろう。

 今日はのんびりとしていたから。でも、ちびっ子は急に電池が切れたかの様に眠りだす。ハルは要注意だ。

 長老が言った通り、皆で少し早い夕飯を食べた。それから街へと出た。

 今度の精霊樹は街中にあるらしい。


「ハル、分かるか?」

「じーちゃん、おりぇは今歩いていりゅかりゃな。わーりゅろまっぷはちゅかえねー」


 どうしてだ!? またあのポーズが出来ないからとでも言うのだろうか?


「ハル、ワールドマップと精霊眼をリンクさせておるか?」

「してりゅじょ」

「何故、使えないんだ?」

「らって目をちゅむったりゃ歩けねーらろ? いおしゅとお手々ちゅないでりゅしな」

「アハハハ」

「りひと、マジらじょ」

「そうかよ」


 やはりあのポーズだ。両手を胸に当て、目を閉じる。あのポーズを歩いていたら出来ないと言っているのだろう。


「ハル、じーちゃんが抱っこしてやろう」

「しょっか?」

「ああ。ワールドマップの練習だ」

「ん、分かっちゃ」


 長老に抱っこされ、例のポーズをするハル。プクプクとした小さな両手を揃えて胸に当て目を閉じる。それをしないとワールドマップが使えない事はない筈だが。

 だって長老は何もせず、サラッと使っているぞ。


「じーちゃん、もうちょっと進んだとこか?」

「そうだな」

「え? 長老、マジで街中だな」

「少し外れているが……」


 長老はもう何処にあるのか分かっているらしい。


「長老、どうしたの?」

「アヴィー、この道を進んだところにあるんだ」

「あら、もしかして墓地なのかしら?」

「そうらしい」


 ほう、今度の精霊樹は墓地にあるらしい。


「あそこは確か……隣領との共同墓地じゃないかしら? 大きな公園の様な墓地だったと思うけど?」

「その通りだ」

「夜に墓地となると前回のアンデッドを思い出すな」

「あんれっちょか?」


 ハルはまだ言えてない。『あんれっちょ』ではなく『アンデッド』だ。

 以前、アンスティノス大公国の5層と6層にアンデッドが出現した。あの時はハイヒューマンの最後の生き残りである、スヴェルト・ロヴェークの仕業だったのだが。

 リヒト達エルフが出動して、魔法を使わない倒し方を教えたり状態異常になっている人達を治療したりした。

 今回はアンデッドが出る事はないだろうが。


「夜の墓地だもの、気持ちの良いものじゃないわよね」

「アヴィー先生、そうやんな。ちょっと気持ち悪いやんな」

「あら、カエデ。怖いの?」

「怖いて言うてへんやん。気持ち悪いって言うてるんやん」

「ふふふ、まだまだお子ちゃまね」

「シュシュは外で喋ったらあかんねんでぇ」

「あら、なによぅ。分かっているわよぅ」


 シュシュはこの国では自由がきかない。小さくなっていなければならないし、喋る事もできない。と、いいつつ獣人の領地では堂々と元の大きさになっていたが。

 夜といってもまだまだ早い時間だ。この領地は工場が多い。紡績工場や工房が多いのだ。そこで働いていた人達が、まだ街に出て食事をしたり呑んだりしている時間だ。


「夜中じゃねーんだから、カエデ」

「イオス兄さん、分かってるって」


 と、言いながらイオスのそばにピッタリと付いて歩いている。心なしか少し腰も引けている。やはり、怖いのだろう。カエデはしっかりしているが、まだまだ子供だ。


「カエデ、どうせ見えねーんだから宿で待っていてもいいんだぞ」

「なんでやねん! ハルちゃんが行くならカエデちゃんも行くねん!」


 はいはい。カエデの気持ちなのだろう。ハルは精霊樹にヒールをしたり、ヒポポに話して精霊獣を呼び出したりしなければならない。

 でも、カエデは精霊樹も精霊獣も見る事ができないんだ。


「まあ、俺もあんまり見えないし役に立てないからな。怖いならそばにいるといいぞ」

「イオス兄さん、ありがと」


 そうだった。同じエルフでもリヒトは見える様になったが、ルシカとイオスはまだ見る事が出来ない。それに、ハイダークエルフだ。ヒールやピュリフィケーション等の聖属性魔法が使えないんだ。


「それでも、光っているのは分かりますからね。良い経験になりますよ」


 とは、真面目なルシカらしい。カエデはその光さえ見えない事もあるんだ。獣人族の魔力量はエルフに比べてかなり少ない。


「いいねん、ハルちゃんが大事な事をしてるのは分かるからな。だからそばで見ていたいねん」


 カエデ、良い子だぁ。



◇◇◇



すみません、昨日投稿するのを忘れていました!

申し訳ありません!

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