第93話 お絵描き

 復興にはエルヒューレだけでなく、ドラゴンの国ドラゴシオン王国や、ドワーフの国ツヴェルカーン王国も関わっている。

 街並みを設計したのは、あのハルのお友達でもあるフィーリス殿下だ。

 エルフが設計したのだ。当然、街並みに緑が増えた。

 上下水道を引き直し、街中に水路を通した。そして、花を植え木を植樹した。少しでも精霊が好む街並みへと設計し直したんだ。

 その為、4層までとは今まで以上に違いが出てしまった。

 大公はそれを少しでも無くそうとしている。4層から6層も整備仕直そうとしているんだ。だが、もう既に人が生活をしている街だ。それはなかなか難しい。

 それでも、街中に植樹したり花を植えたりと出来る事から手をつけている。

 そして、今アヴィー先生が取り組んでいる協定だ。

 アンスティノス大公国以外の全ての国が参加している。その上、各国は復興作業も協力した。なのに、未だにアンスティノス大公国は協定に参加しようとしない。

 この国の一部の貴族が反対しているからだという。それを説得しているのが、現大公とアヴィー先生だ。何度も同じような話し合いをしている様だ。

 アヴィー先生が思い出したのか、ふう~ッとため息を吐いた。


「アヴィー先生、どうしました? お口に合いませんか?」

「ルシカ、そうじゃないのよ。協定の事を考えてしまったの。ごめんなさいね」

「アヴィー、気になるならそっちを優先しても構わないぞ」

「長老、そんな事を言わないでよ。ハルと一緒にいられるのは私の癒しなんだから」


 そうは言っても、協定の方も大事な仕事なのだろう。国から依頼された大事な仕事だ。


「少しは私も癒されたいの!」

「ばーちゃん、おりぇで癒しになりゅのか?」

「なるわよぅ! ハルちゃんは私の大事な曾孫なんですもの!」

「ふふん」


 ハルも満更ではない様だ。これだけストレートに愛情を示されると、ハルも疑う余地がない。

 前世の嫌な記憶も薄くなっているのだろう。

 ハルの前世で、ストレートに愛情を掛けてくれたのは祖父母だけだった。

 両親だって、きっと愛情はあったのだろう。それが、歪んだ表現になってしまっていただけなのかも知れない。しかし前世のハルはそれだけではなかった。

 ハルの見た目の良さに、周りの女性が放っておかなかったんだ。

 下心が見え見えで近付いてくる。それが、ハルにとってはとても不快で迷惑な事だった。

 この世界に来てちびっ子にはなってしまったが、周りから与えられる下心のないストレートな愛情。ハルはそれに少しずつ癒されていたんだ。


「おりぇもばーちゃんがらいじらじょ」

「ハルちゃん!」


 ヒシッとハルを抱き締めるアヴィー先生。もう何度目だろう?

 そして、ハルのムチムチしたほっぺにスリスリしている。


「あはは、ばーちゃん」

「ハルは可愛い私の曾孫よ」

「おりぇもばーちゃんがしゅきら」


 キリがない。それよりも、この後はどうするのかな?


「昼食を食べたらハルはお昼寝だろう。その後はルシカのオヤツだろう?」

「りひと、りゅしかのおやちゅははじゅせねー」

「おう、分かってるぞ」

「アハハハ、今日は久しぶりにゆっくりするか。夜まで動けんしな」


 昼食の後は、ハルがぐっすりとお昼寝をしルシカのオヤツも食べた。

 外には出られないが、宿の部屋でカエデやシュシュ、コハルと一緒に遊んでいた。何をしていたのかというと、単純なお絵描きだ。


「ハルちゃん、それ何描いてるんや?」

「きちゅねしゃんら」

「ああ、あの時のきつねさんなんか?」

「しょうら。真っ白れちっしゃくて、ふわッふわな尻尾がいくちゅもありゅきちゅねしゃんら」


 旅先だ。当然、色鉛筆やクレヨンなどはない。この世界にあるのかどうかも知らないが。

 少し歪なえんぴつの様なもので、紙に描いている。紙といっても前世にあった様な、直線的に切り揃えられた真っ白な紙ではない。指を切ってしまいそうな薄さでもない。まるで、和紙の様な物だ。少し厚みのある、真っ白ではないが温かみのある白さの紙。それに小さなプクプクとした手でえんぴつを握り締めて描いている。

 ハル本人は真剣なのだろう。いつの間にか、お口もふんわりと開いている。


「ハルちゃん、それ狐なの?」

「しょうら」


 シュシュが覗き込んで見ている。どうやら、狐には見えない様だ。


「こぎちゅねこんこんやまのなかぁ~、やまのなかぁ~♪」


 ちょっぴり、体を上下に揺らしてリズムを取りながら描いている。

 そんな事をしているのだから、当然手元は狂いまくる。線がユラユラと揺れている。


「こぎちゅねこんこんやまのなかぁ~、やまのなかぁ~♪」

「ハルちゃん、その先も歌ってや」

「え、かえれ……しりゃねー」

「なんや! 知らんのんか? めちゃちょっとやん!」

「カエデ、ハルちゃんは可愛いからいいのよ」


 相変わらず白い奴は、ハルちゃん贔屓だ。ブレない。

 コハルは何をしているのかというと……


「あたちも描いたなのれす!」


 と、堂々と見せている。小さな両手でえんぴつを握り、描いたと自慢気に見せたものは……


「おおー!」

「え? ハルちゃん、何か分かるんか?」

「かえれ、わかりゃんのか?」

「いやいや、これでどう分かれって言うねん」


 カエデが見せた、コハルが描いたもの。白い紙いっぱいに円が幾つも描かれている。

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