第92話 エルフの服は高性能

 リヒトの問いに答えて、アヴィー先生が説明する。


「ほんとに少しなのよ。それでこの値段取るの? て、思っちゃうくらいなのよ」

「へぇ〜」

「何よ、リヒト。聞いておいて反応が鈍いわね」

「だってアヴィー先生。俺達には必要ない物だと思ったんだ」


 確かに、リヒトは状態異常無効を持っていたりする。元々防御力の高いエルフには必要ないだろう。


「私達の服は国で作っているでしょう。その方が性能が良いのよ。だって糸から違うもの」

「そうだな」

「そうなのか?」

「リヒト、あなたそんな事も知らないの? まだまだね」


 またリヒトは、アヴィー先生に突っ込まれている。聞いておいて藪蛇だ。

 エルヒューレ皇国で織られている生地は、大森林に生息する魔物から取った糸で織られている。

 その用途に応じて、糸を使い分けているんだ。

 例えば、リヒト達ガーディアンの制服と、一般国民が着ている服とは性能が全く違う。

 ガーディアンの制服は、動きやすく防御力も高くなっている。空間魔法を付与してあるので、大き過ぎたり小さ過ぎたりしない。サイズが自動調整されるんだ。その上、防汚に防破だ。汚れないし、破れない。

 皇帝や皇后、皇子達が着ている服だと、状態異常完全無効だ。どんな毒も効かない。魅力であろうと撥ねつける。

 身体の周りに薄いシールドの様な膜が自動で展開される。それによって物理攻撃も通さない。超ハイスペックな服なのだ。それに比べては駄目だろう。


「ずっと前だけど、初めてニークの服をエルヒューレで揃えた時よ。ニークったら驚いていたわ」

「そうなのか?」

「ええ。まだ小さかった頃ね。転んだのに汚れないし傷が付かないのはどうして? て、聞いてきたわ」

「アハハハ、それはそうだろう」

「でね、説明したのよ」

「ちびっ子のニークにか?」

「そうなの。目をまん丸にして驚いていたわ」

「アハハハ」


 アヴィー先生は、孤児で行き倒れていたニークを引き取って育てた。

 ちびっ子だった頃のニークの、良い思い出なのだろう。


「長老、宿取りましたよ」


 イオスが、馬で戻ってきた。


「ハルちゃん、めちゃ綺麗な宿屋やでー」

「おおー。風呂があったりゃいいなぁ」

「ねえ、市場に寄って行きましょうよ」

 

 いつも街に来ると、お買い物に張り切るミーレだ。


「そうよね、ミーレ。行きましょう」


 アヴィー先生も乗り気だ。女性2人はお買い物好きらしい。アヴィー先生を先頭に、いそいそと移動して行く。


「アヴィー、この領地の特産品は何だ?」

「だから長老、紡績よ。生地よ」

「いや、食べ物だ」

「特にないわね」


 無いのかよ! じゃあ、市場に行っても変わり映えしないのではないか?


「ばーちゃん、うまいもんはねーのか?」

「そうねぇ……特にこれと言ってないわね」


 無いそうだ。ハル、残念だな。

 そうは言っても、色々と食べ物を買って宿へ入った一行。


「ああ、良かった。ミニキッチンが付いているんですね」

「付いてる宿にしたんだ」

「イオス、流石です」


 よく気の付く男、イオスだ。何気になんでも、そつなくこなす。


「ハルちゃん、風呂はないなぁ」

「しょっか、じゃんねんらな」

「けど、部屋はめちゃ綺麗やんな」

「らな」


 ハルとカエデはいつもの様に部屋を見て回っている。ちびっ子コンビは気になるらしい。

 寝室が3部屋あって大きなリビングに繋がっている。以前、利用したこの国の宿と同じ様な間取りだ。

 市場で買ってきたものを広げるミーレ。


「ねえ、ハル。食べない?」

「食べゆじょ」

「もうお昼にするのですか?」

「え? 駄目?」

「まだ少し早いでしょう?」

「いいじゃない、もう食べましょう」


 今日は、夜に動かないといけない。なので、早めに食べようという事らしい。ハルもゆっくり昼寝させたい。


「おりぇはいちゅれも食べゆじょ」


 はいはい、食いしん坊のハルだ。結局、皆揃って食べている。

 コハルとヒポポも久しぶりに出てきた。そして、白い奴も元の大きさに戻って食べている。


「やっぱありぇりゃな、りゅしかの飯のほうがうまいな」

「本当よね。全然違うわよね」


 これは、ハルとシュシュの会話だ。

 最近、アヴィー先生とシュシュの違いが分からなくなってきている。シュシュは雄なのに。


「4層ならこんなものよ。まだ美味しい方じゃないかしら」

「アヴィー先生、層によって違うのか?」

「違うわよ。3層からは公都と呼ばれているでしょう? 貴族街だってあるもの。3層から食べ物も違ってくるわね」

「そうなのか」

「そういえば、大公と食事をした時は豪華で美味かったな」

「長老、そりゃそうよ。エルヒューレでもそうじゃない」

「まあ、そうだが」


 流石にエルヒューレ皇国でも、皇帝が食べる物と庶民が食べる物には差があるらしい。


「でも材料は一緒だぞ」

「そうだったかしら?」


 アヴィー先生、適当だ。

 このアンスティノス大公国では、貧富の差が激しい。4層までは普通にスラムがあるし、行き倒れている人もいたりする。街並みも、3層からは全く違ってくる。

 以前、魔物に壊滅状態にされた3層と2層。それを復興してからは、余計に街並みに差が出てしまった。それは、仕方がない事なのだ。

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