第96話 ぶーぶー

「ここなら伐採される事もないだろう」

「そうね、長老。墓地だもの、滅多な事で手を加えないわ」

「どんどん植えるなのれす」


 幾つもの精霊樹の実が地面に吸い込まれて行った。墓地の柵に沿って、まるで墓石を囲むかの様に吸い込まれて行った。

 精霊樹に囲まれた墓地、それも神秘的だ。精霊樹があると精霊も寄ってくる。もちろん精霊獣もいる。精霊や精霊獣に守られるかの様だ。


「長老、頼むなのれす」

「よし、任せなさい」

「長老、程々にね」

「アヴィーに言われたくはないぞ」

「あら、やだわ」


 長老が、魔法杖を出した。そして、杖を掲げて静かに詠唱する。長老が魔法を使う時はいつも静かだ。

 威厳があるとでも言うのだろうか。

 軽く詠唱している様に見えるのだが、効果は絶大だ。


「ピュリフィケーション……ヒール」


 精霊樹だけでなく、辺り一面にキラキラと光りながら白い光が降りていく。

 アヴィー先生に、程々にと言われたが……


「あら、やだわ。やっぱりやり過ぎよ」

「そうでもなかろうて」


 長老はそう言うが、精霊樹だけじゃないんだ。周りにある木まで見るからに元気に青々としている。花壇の花なんて、いきなり咲き出した花まである。

 それだけ、長老の目から見るとこの国の緑は元気が無いのだろう。

 地面に吸い込まれていった精霊樹の実。そこからポコンポコンと芽が出てグングンと伸びていき若木になり、見る見るうちに成木となった。元気にキラキラと光っている。

 そして、またヒポポが一鳴きする。


「ぶもぉ」


 すると、たった今成木となったばかりの精霊樹から、ワラワラと精霊獣が出てきた。


「ぶひ」

「ぶ」


 ちいさなブタさんがいっぱいだ。ベージュピンクだけでなく、グリーンやブルー、黄色の体色をしているブタさんまでいる。とってもカラフルだ。


「ぶーぶー、ブタしゃん!」


 ハルが両手を広げている。そこに目掛けて精霊獣達は移動する。フワリフワリと浮いている。


「アハハハ、かぁわいぃなぁ~!」


 ハルの周りに精霊獣達が集まっている。小さなブタさんに囲まれているんだ。


「ぶふふ、前が見えねー」

「アハハハ。ハル、呼ぶからだぞ」

「らってかわいぃじょ。ぶー、ぶ、ぶー」


 何故かハルが、お尻をフリフリしながら『ぶー』と言っている。ブタさんはお尻を振っている訳ではないぞ。

 確かに可愛いのだろうが。動けなくなるほど集まってくるとは。ハルはやはり好かれている。


「ハル、ヒポポに聞いてもらってくれ」

「おう、ひぽ。しぇいれいじょうおーが来たか聞いてくりぇ」

「ぶもぶも」


 ヒポポが頷く様に頭を動かしている。精霊獣に聞いているのだろう。ぶも、ぶーと声が聞こえる。


「なあなあ、イオス兄さんはどれだけ見えてんの?」

「ん? ハルの周りが光って見えるくらいだな」

「そうなんや」

「カエデは光も見えないの?」

「そういうシュシュは見えてんの?」

「当たり前じゃない。あたしは聖獣よ」

「あ、そうやったわ」


 こらこら、忘れていたのか? シュシュは愉快な虎さんではない。勿論、オネエさんでもない。これでも歴とした聖獣だ。

 ヒューマン族の間では、一目見るだけでも幸せが訪れるとまで言われる白虎の聖獣だ。

 普段の言動からは、そんな威厳は欠片も感じられない。


「ぶもぉ」

「しょっかぁ」

「ハル、何と言っている?」

「しゅっごく前に来たんらって。しょんときはもう1本あったしぇいれいじゅをたしゅけたんらって」

「そうか、なのに枯れてしまって残念だったな」

「枯れてしまう前に来たのか。なら、かなり前じゃないか?」

「りひと、しょうらしいじょ」

「精霊女王は一体どこにいるんだ?」


 見つけ出すどころか、なかなか手掛かりさえも掴めない。

 どこかで、動けなくなっている事も考える必要があるかも知れないぞ。


「また何百年も経っているのかも知れないわね」

「ばーちゃん、しょっか?」

「ええ。だって精霊樹が枯れる位ですもの」


 確かに。精霊女王1人ではこの国の精霊樹の状況に対応できないのかも知れない。

 なにしろ、今までこの国には瘴気を浄化する魔石がなかったんだ。

 他の国には幾つも設置されていたのにだ。


「とにかく、コハルが沢山植えたからここはもう大丈夫じゃないか?」

「そうね、早く戻りましょう」


 アヴィー先生が、ずっと認識阻害のシールドを張っている。ゆっくりしている時間はない。

 そして、一行は宿に戻って来た。


「りゅしか、おやちゅが食べたいじょ」

「ハル、もう夜ですからね」

「しょっか」


 少し動いて小腹が空いたらしいハル。寝る前に食べると太ってしまうぞ。


「ハル、お腹が出ちゃうわよ」

「みーりぇ、らからこりぇはちびっ子らから」

「はいはい」

「りゅしか、クッキーちょっとらけ」

「少しだけですよ」


 ルシカもハルには甘かった。

 そして、ルシカにクッキーを貰ってご満悦なハルちゃん。


「やっぱりゅしかのクッキーはうめーな」

「ハルちゃん、あたしもちょうだい」

「ん、しゅしゅ。太りゅじょ」

「ハルちゃんもよぅ」

「はいはい、2人共よ」

「やだ、ミーレ。酷いわね」


 なんだかんだと姦しいシュシュ。


「あたちも食べるなのれす」


 おっと、コハルも出てきた。


「ぶもッ」


 ヒポポもだ。こうなったら少しだけという訳にはいかない。

 結局、皆で夜にクッキーを食べている。もう直ぐ寝るというのに。


「うめーな、とまんねー」


 駄目じゃないか、ハルちゃん。

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