第84話 ご無沙汰してます

「ハル、見えてきたぞ」

「じーちゃん、ろこら?」


 長老が指した方角。そこに、黒っぽい茶褐色の獣が見えてきた。

 見た目はヒグマだ。大きさもそれ位だろうか。しかも何頭もいる。これはヒューマンにとっては大問題だろう。

 畑を荒らすだけでなく、命に関わる事だってあるかも知れない。襲われたら抵抗しようがないだろう。集落に出ていなければ良いのだが。


「ありゃ、ちょいデケーな」

「魔物ではなく野生の獣にしては大型だろうな」

「いち……にぃ……しゃん……4頭いりゅじょ」

「あれはフォレストベアーでしょうか?」

「いや、それにしては小さいだろう。長老、討伐しとくか?」

「ああ、これはヒューマンにとっては脅威だろうからな」

「そうね、人里に出たりしたら危険だわ」


 討伐許可がおりましたよ、ハルちゃん。


「よしッ! こはりゅ、いくじょ!」

「はいなのれす!」


 いつになく……いや、いつも通り張り切っているハルとコハル。こんな時はいつも張り切っている。


「とぉッ!」

「とぉッなのれす!」


 シュシュの背中から飛び降りたハルとコハル。もうタッタッタッタと走っている。

 いつも大森林を走っているだけの事はある。足場の悪い林の中でも平気で走っている。コハルは浮いているが。


「ルシカ、行くぞ!」

「はい、リヒト様」

「カエデ、やるぞ!」

「はいにゃ!」

「もう、みんなイケイケなんだから」

「ふふふ、ミーレはやらないの?」

「やりませんよ。出番がないですから」

「確かにそうね」


 女性陣は高みの見物だ。そういうミーレは、腰につけている鞭に手がいっている。

 長老も出る気は全くないらしい。馬から降りもしないで微笑みながら見ている。


「ハルちゃん、がんばってぇ~!」


 この白い奴は女性ではない筈だが?


「なによ、シュシュは行かないの?」

「あたしはハルちゃんの応援をするの!」

「あら、そう」


 若干、ミーレが呆れている。ハルちゃんの顔写真を、貼り付けたうちわでも作ってあげようか。ハルのファンクラブ会員だし。

 ハルとコハルは既に1頭の熊さんにロックオンだ。

 ルシカが先ず、魔法の矢を放つ。それも4本同時にだ。其々の矢が4頭いる熊さんの足元に刺さる。


 ――ガアァァァー!!


 お腹に響きそうな声を出し威嚇している熊さん4頭。


「残念ね、当たらなかったわ」

「アヴィー、あれは威嚇で足止めだ」

「あら、長老。そうなの?」

「アヴィー先生、そうですよ。矢を4本同時に、あの位置に射る事自体が凄いのですよ」

「へぇ~、そうなのね~」


 これはシュシュだ。呑気にミーレの解説を聞いて感心している。

 その時、ハルとコハルが飛び出した。


「こはりゅ!」

「はいなのれす!」


 そして高くジャンプし……お待たせしました。久しぶりの必殺技です。ご無沙汰してました。


「ちゅどーーんッ!」

「ちゅどーんなのれす!」


 ハルとコハルのドロップキックで1頭を倒した。

 リヒトとルシカは……


「リヒト様!」


 ルシカがどんどん矢を放っていく。熊さんの足元から順に命中していく。熊さんの動きを止めた。


「おうッ!」


 リヒトが剣を掲げ、ザンッと一気に袈裟懸けに斬り倒した。

 イオスとカエデは……


「カエデ、無理するな! 足を狙え!」

「はいにゃ!」


 カエデが双剣で熊さんの足に斬り付ける。そしてイオスが斬り倒した。


「こはりゅ、もう1頭いくじょ!」

「はいなのれす!」


 またまたハルとコハルだ。今まで大人しくしていた反動だろうか? いつになく張り切っている。


「どぉーーんッ!」

「どぉーんなのれす!」


 ハルとコハルのドロップキックがまたまた決まった。

 ドゴーーーンと地響きがするような音を立てて倒れる熊さん4頭。


「あら、もう終わったわ」

「ですね」

「ハルちゃん、カッコいいぃ~!」

「ふゅ~、大したこちょねーな」

「大したことないなのれす」

「アハハハ!」


 呑気に長老は笑っているぞ。

 そりゃあ、大森林の魔物を相手にしているメンバーだ。野生の獣程度なら手応えもないだろう。


「収納しておきましょうね」

「ルシカ、頼んだ」


 ルシカはせっせと事切れた熊さん4頭を、マジックバッグに収納している。


「リヒト、もういないか?」

「いないだろう」


 しかし、この領地の境目に生息していた熊さん達。


「今まで獣の被害なんて話題に出ませんでしたね」

「ルシカ、そうだよな」

「こっちの領地には出ていなかったか、この林だけにいたのか?」

「長老、次の領地でも話を聞く必要があるな」

「そうだな」

「どっち道、話を聞かなきゃならないわ」

「そうだな」


 獣人の領地の毒花の件だ。その事を解明するつもりで隣領へとやって来た。


「あれ? 長老、あの花って……」


 イオスが林の中で少し開けた場所を指さした。そこは少しだけ木と木の間が空いていて、そこに陽が射し草木が茂っている。

 そして、どこかで見た様な細くて長い茎に細い葉の花が一面に生えていた。もう枯れていて花びらは落ちている。


「ここが生息地か?」

「そうみたいですね」

「ここから持ってきたのね」

「またアヴィー、決めつけてはいかん」

「でも、そうでしょう?」


 そうだろうが。誰がこの場所から態々持って来て植えたのかが問題だ。


「隣領へ行こう」

「そうね、でないと始まらないわ」


 林を出て隣領へと向かう。

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