第79話 彷徨く

「確かに見ました。ならあの者達が花を!?」

「他にも咲いていたであろう場所を見つけたのです。此処と同じ様に少し高台になっている場所だったのですよ。あまりにも都合の良い場所だったので」

「高台に咲いていたから、風に花粉が運ばれたという事ですな?」

「そうです」

「普通花というものは、平地や高台でも関係なく生息しているものではないかと思うのです」

「確かに……土壌が合う合わないはあるでしょうが……不自然ですな」

「用もないのに他領を彷徨つくなんて、それも不自然じゃないかしら?」

「ですが、入ってはいけないというものでもありませんので」


 確かにそうだろう。ただそこにいるだけでは、注意もできない。


「まだ他にも感染している人達がいそうなの。だから、もう少しこの領地を回ってみるわ」

「アヴィー先生、それは有難い事です」

「その時に花も探してみようと思います」

「長老殿、お手数お掛けしますがお願いできますか」

「勿論です。放ってはおけませんからな」

「そうよ。本当に人為的なものなら質が悪いわ」

「もし、そうなら理由に心当たりはありますか?」

「その……憶測なのですが……」


 領主が言うには、男爵領はこの領地の半分もないそうだ。同じ様に農作物を育てて生計を立てている。だが、領地が狭いという事はそれだけ農地にできる土地も少ない。

 当然、収穫量に差がでる。


「継がれた今の領主は獣人が気に入らない様でしてな」

「成程、獣人がどうして広い領地を持っているのか? と、いったところですかな?」

「恐らくはそうではないかと」


 羨ましいといった気持ちが大きくなったのだろうか?


「単純にどんな育て方をしているのか見ていたとも考えられますが」

「それは花を植えていなかったらの話ね。態々毒のある花を持ってきて、植えているのだとしたら悪意しかないわよ」


 アヴィー先生はまたハッキリと物を言う。


「これ、アヴィー」

「だってそうじゃない」

「まだ推測にすぎんのだ」

「そうかしら? 私は決まりだと思っているけど」


 アヴィー先生はお茶を飲む。その優雅な所作とは反対に直球でズバリと言い難い事を言う。

 穏便にという言葉をアヴィー先生は忘れているのだろうか?


「とにかくもう少し調べてみよう」

「そうね」

「有難うございます。どうか、宜しく頼みます」


 その日は領主邸にお世話になり、翌朝早くに出発した一行。

 転移や瞬間移動をしていたから忘れがちだが、一行は馬で移動している。パッカパッカと進む。

 相変わらず、ハルはリヒトの馬に乗っている。


「こんな平和なのにな」

「なんだ、ハル」

「りひと、花らよ。こんな平和な領地なのに毒の花を植えりゅなんてな」

「そうだな」

 

 やっと昨日訪れた集落にやって来た。

 昨日とは違い、領民達が畑に出て作業をしている。


「あら、もう元気になったのかしら?」

「まだ無理してはイカンな」

「ね、本当だわ」


 作業をしていた領民が気付いてお辞儀をしている。アヴィー先生だと分かっているのだろう。昨日、アヴィー先生の薬湯のお世話になった人かも知れない。

 その内の1人が一行に向かって走ってきた。


「じーちゃん、こっち来りゅじょ」

「そうだな。話があるのか?」


 やはり話しかけてきた。農作業をしていた働き盛りといった年齢の男性だ。


「すんません! アヴィー先生!」

「は〜い、どうしたの?」

「先生、昨日は有難うごさいました! 実はお願いがあって」

「あら、何かしら?」


 その男性のお願いとは。

 少し先にも集落があるらしい。そこにも、同じ症状で寝込んでいる人達がいるそうだ。その人達にも薬を分けてやって欲しいという事だった。


「分かっているわよ。これから順に立ち寄って様子を見るから安心してちょうだい」

「本当ですか! 有難うございます!」


 ペコペコと何度もお辞儀をして戻って行った。そして、他の農作業をしている人達にも話したのだろう。


 ――有難うございます!


 と、声が掛かるようになった。


「まだ無理しちゃ駄目よ!」


 と、アヴィー先生も大声で返している。


「アハハハ。アヴィー、デカイ声で」

「いいじゃない」


 アヴィー先生は、人が良い。しかも、自由奔放だ。

 長老は気苦労が絶えないだろうに。


「アヴィー先生、もうちょっと落ち着こうぜ」

「リヒト、何言ってんの?」

「だってもう何歳なんだよ」

「歳なんて関係ないわよ」

「ばーちゃんは、いいんら」

「ハルちゃん、よく分かってるわね~」

「しゃーねーんら。だりぇも止めりゃんねー」


 誰も止められないのか? ちっとも良くないぞ。


「アハハハ! アヴィー、誰も止められないんだとよ」

「そんな事ないわよ。ハルちゃんの言う事ならなんだって聞いちゃうわ」

「しょっか?」

「もちろんよ」

「そうよね。アヴィー先生を止められるとしたら、ハルちゃんしかいないわ」


 ミーレの馬にちょこんと乗っている、小さなシュシュが口を出す。


「シュシュ、よく分かっているじゃない」

「当たり前じゃない。マブダチだもの」

「自分も、自分もー!」

「カエデはまだ早いわよ。若いもの」

「えぇー! そんにゃぁ〜」


 賑やかに、そしてのんびりと馬は進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る