第78話 人為的
領主がそこにやって来た。いそいそと、尻尾も何故か嬉し気に揺れている。
「おや、皆様。オヤツですかな」
「領主殿も如何ですか?」
「いえいえ、長老殿。オヤツまで頂いてしまっては……」
「美味いですぞ」
「そうですか? 実は良い匂いがすると思いましてな。ハハハ」
「カエデ、良いか?」
「はいにゃ。直ぐに作ってくるにゃ」
領主はオヤツの匂いに誘われてきたらしい。カエデが嬉しそうだ。
「猫獣人ですか」
「はい。縁がありまして、曾孫のハルに付いております」
「曾孫さんですか、それはそれは。いや、今回は本当に助かりました。もし、アヴィー先生が居られなかったらどうなっていた事か」
「領主殿、少し調べたのですがな」
と、そこに薬湯を作り終えたアヴィー先生とルシカがやってきた。
「あ、ルシカ兄さん! 食べる?」
「カエデが作ってくれたのですね。頂きますよ」
「あら、美味しそうだわ」
「ばーちゃん、超うめーじょ」
手におもちゃの様なハル専用のナイフとフォークを持ち、お口をモグモグさせながらハルが言った。もうほっぺにアイスが付いている。
「おやおや、ハル。ほっぺを拭きましょうね」
「ん、またちゅくけろな」
相変わらずだ。
「パンケーキなの? ハルちゃん、その添えてあるものはなぁに?」
「ばーちゃん、あいしゅくりーむら」
「アイスクリームなの?」
「ん、今日はバニラらな。はちみちゅがたっぷり掛かってて超うめー」
あ〜ん、と大きなお口を開けて食べる。なのにほっぺには付くんだな。不思議だ。
「アヴィー先生、アイスを知りませんか?」
「そんな事ないわよ。でも、パンケーキにのせるのは初めてだわ」
「うめーじょ」
「ハルが好きなので、よく使いますよ」
「ん、超しゅき」
器用にアイスをパンケーキの上にのせ、またまた大きなお口を開けて食べるハル。
またほっぺにアイスがついている。エンドレスだ。
「アヴィー、花の話をしておったんだ」
「そうだったわ。領主様、あれは人為的なものかも知れないわ」
ド直球だ。ストレートにアヴィー先生は言った。
「なんですとぉッ!? 誰かが故意に毒のある花を植えたという事ですか!?」
パンケーキをブッ刺したフォークを片手に持っている領主。緊張感がない。
「カエデ、美味いぞ。カエデも座って食えよ」
「うん。リヒト様、ありがとう。アヴィー先生、できたで」
「あら、有難う。美味しそうだわ」
花の話はどこにいった? 皆、食べる事に夢中だな。
領主まで、大きなお口を開けて食べている。一切れが大きいぞ。
「いや、本当に美味い!」
「アハハハ。それは良かった」
「カエデ、とっても美味しいわ」
「ねえ、カエデ。あたし、おかわり欲しいわ」
「ちょっと待っててな」
シュシュは何枚食べるんだ。
「んめッ!」
ハルちゃん、満足かな?
「で、花なんだが」
「ああ、長老殿。そうでした。その人為的と思われた理由は何ですかな?」
長老が説明した。だってアヴィー先生はパンケーキに夢中だから。
「ヒューマンですか。そういえば数ヶ月前でしょうか。彷徨いておりましたな」
「領主殿も見たのですか?」
「はい。あれはよく彷徨いておる者達で。何をするでもなく。きっと偵察に来ているのだと思っておったのです」
偵察とは? どうやら領主は何処の者なのか予想がついているらしい。
「実はですな……」
アヴィー先生が店を出していた伯爵領とは反対側にある小さな領地。そこは男爵家が治めているそうだ。
男爵とはいえ、古くから続く家系で由緒正しい家柄なのだそうだ。代々その領地を守り堅実に暮らしてきた家系だそうだ。
その領主が数年前に代替わりをした。
「前領主とは交流もあったのですよ。小さい領地ですが、長閑で領主と領民の距離も近く領民思いの方だったのです。獣人だからと差別をされる事もなく、私も色々教わったものです」
前領主は歳には勝てず、寝込まれる様になり引退されたのだそうだ。
その息子が後を継いだ。それから、交流も少なくなり前領主が亡くなる頃には接点が無くなった。
「葬儀には出たのですが、そんなにお悪いとも教えてもらえなかったのですよ。できる事なら、お話ができるうちにお会いしておきたかったと思ったものです」
それからなのだそうだ。時折、隣領の者が彷徨くようになった。
何をするでもなく、領地の中を偵察しているかの様に見えたそうだ。
「何が目的なのか分かりません。しかし、悪さをする訳でもないのです。農作業をしている民達を、ただジッと見ているのです」
「ほう、見ているのですか」
「そうなのです。悪さをするのでしたら、こちらもそれに対処できます。しかし、ただ見ているだけの者に何もできず……」
「意味が分からないわね」
アヴィー先生が食べ終わったらしい。
「んまかった」
「ハル、お顔を拭きましょう」
「ん。もうちゅかねーじょ」
ハルも食べ終わったらしい。コハルとヒポポは流石に出ては来られない。
「ハル、亜空間に入れてあげた?」
ミーレが聞いている。
「ん、入れたじょ」
「そう」
「んまいって言ってた」
「ふふふ、良かったわ」
「あたしはまだ食べられるわよ」
「シュシュは食べすぎよ」
「あら、そんな事ないわ。あたしは体が大きいもの」
「しょっか?」
「そうよ」
脱線している。この賑やかしチームはいつもこうだ。
「で、数か月前にも彷徨いているのを見られたのですな?」
長老がやっと話を戻した。
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