第73話 リヒトの調査
リヒトとルシカが調べている間、ハルはというと……
「じーちゃん、りゅしかがいねーと困りゅな」
「なんだ、ハル。腹でも減ったか?」
「しょりょしょりょな」
「もうお昼だものね」
「ハル、戻ってくるまで待たないとな」
「ん、しゃーねー」
またハルのお腹がキュルキュルと鳴りそうだ。
リヒトとルシカが戻って来るのにそう時間は掛からなかった。
ハルのお腹が鳴る前には戻ってきたんだ。
「長老、やっぱおかしいぞ」
「どうだった?」
リヒトとルシカが、住民に話を聞いてきた。見慣れない者を見掛けなかったかを聞いていたらしい。
この領地は獣人が殆どだ。それに、領地は広大でも住民が覚えきれない程の人数がいる訳ではない。皆、協力して野菜を育てている。この一角の収穫が終わったら、次は隣の一角と言った具合にだ。
確かに住民の数が少ない訳ではない。だが、皆顔見知りなんだ。
今回の病も、どこの家が大変なのかを把握している位にだ。
そんな領地で見慣れない者が居ると直ぐに分かる。
「丁度、季節が変わる前位に見知らぬ人達がいたんだそうだ。それも獣人じゃなくてヒューマンだ」
「はい、ですから住民の皆さんが覚えていました」
獣人が殆どの領地で、ヒューマンがウロウロしていると目立つのは当然だ。それで覚えられているのだろう。
「りゅしか、りゅしか」
「ハル、どうしました?」
――きゅるるる~……
とうとう、ハルのお腹が鳴ってしまった。
「アハハハ! ハル、腹減ったのか?」
「らってりひと、しゃーねーんら」
「お昼にしましょうか」
「そうね、食べながら聞きましょうか。ハルちゃん、お腹が空いたのね」
「ん、ばーちゃん。ペコペコら」
だろうな。可愛らしいお腹が鳴っていた。
しかし、ハルは食べてお腹が一杯になると寝てしまうぞ。お昼寝だ。
「まあ、ゆっくりするか」
「ハルが寝ている内にもう少し調べてみる」
「おう、リヒト。頼んだ」
そして、ルシカが作った美味しいお昼を食べたハル。畑が広がる中で、少し広場になった場所で食べていた。そんな場所でもハルのお昼寝は待ってくれない。
「ハルちゃん、抱っこしましょう」
「ん、ばーちゃん」
トコトコとアヴィー先生の元に歩いて行く。抱っこされると直ぐにスヤスヤと寝だした。
「しかし、こんな場所でも平気で寝るようになったな」
「本当ですね。最初の頃のハルからは想像もつきませんね」
と、警戒心MAXだった頃のハルを知っているリヒトとルシカが話している。
今や、何処でも誰がいてもお昼寝できるハルだ。
「ワシが初めて会った頃にはもう普通に可愛らしいちびっ子だったぞ」
「リヒト達のお陰だわ」
「そうだな」
それだけではない。確実に長老とアヴィー先生の存在も大きい。ハルが暫く忘れていた肉親の愛情なのだから。前世では祖父母しかいなかった。その祖父母が亡くなってからはハルは独りだったんだ。
「じゃあ、俺達調べてくるわ」
そう言って、リヒトとルシカがまた消えた。頼りになるじゃないか。
「本当にリヒトが保護してくれて良かったわ」
「そうだな。でないとワシとも会えたかどうか分からんぞ」
「そうよね。その上、ヒューマンだったりしたらと思うと……」
「アヴィー」
「分かっているわ。でもそう思っちゃうのよ」
「確かにな」
ヒューマン族と獣人族の国、アンスティノス大公国には奴隷制度がある。そして、質が悪い奴隷商もまだ存在するんだ。この領地の獣人の子供だって攫われていた事がある。
ハルの見た目は、そんな奴隷商に繋がっている人攫いに目が付けられやすい。
エメラルドの様なグリーンが入ったゴールドの髪に、ゴールドの瞳で虹彩にグリーンが入っている。それだけでも目立つのにその上ハルは、綺麗な二重でちょっぴりタレ目気味のバンビアイ、マシュマロの様な白い陶器肌に薄いピンク色のぷっくりした頬、これまたピンク色に色付いたぷるぷるした唇。どこからどう見ても可愛らしいちびっ子だ。
まさかそんな可愛らしいちびっ子が『ちゅどーん!』と叫びながら、ドロップキックを繰り出す等と誰が想像できるだろう。
「しかし、この騒動が人為的なものだとしたら一体何が目的なんだ?」
「本当ね。確かに症状が出ている間は辛いでしょうけど、命に別状はないのだもの」
「あら、命だけが重要な訳じゃないでしょう?」
「シュシュ、どういう事なの?」
「だって、領主が話していたじゃない。長い間畑に出られないと困るって」
「なるほど、野菜か……」
「ね、そう思わない?」
「野菜を出荷できなくするのが目的って事かしら?」
「それでも死活問題でしょう?」
確かにシュシュの言う通りだ。畑を管理できないと野菜はその内腐ってしまう。育ち過ぎてしまう。それだけじゃない。害虫に侵されるかもしれない。
野菜が出荷できなくなると、この領地の領民達の死活問題だけでは済まなくなる。この4層の住民にも影響が出るんだ。
「それを狙っているのか。質が悪いなんてもんじゃないぞ」
「それもヒューマンなのかも知れないのでしょう」
「アヴィー、これは大公に報告する必要があるかも知れんな」
「本当ね、嫌だわ」
アヴィー先生が、嫌だと言ったぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます