第71話 まだあった
今回精霊樹探しに初参加のアヴィー先生がハルに聞いている。
「精霊樹ってどんなのなのかしら?」
「きりゃきりゃしてんら」
「まあ、樹なのに光っているの?」
「しょうら。けろ、この国のしぇいれいじゅは弱ってんら。らからきりゃきりゃも弱いんら」
「あら、元気がないと光らないの?」
「みたいら」
もう気にしていないのだろう。ハルがシュシュに乗っている。堂々と。
「やっぱあたしがハルちゃんを乗せないとね」
「あら、シュシュ。どういう事かしら?」
「最近ハルちゃんは、ヒポポにばかり乗っていたのよ」
「なあに、シュシュったらヤキモチなの?」
「そんな訳ないじゃない! ハルちゃんはあたしが乗せるの!」
充分、ヤキモチだと思うが。
とにかく、ハルを乗せてご機嫌なシュシュだ。
「ハル、場所は分かるか?」
「じーちゃん、わーりゅろまっぷらな」
「そうだ、見てみなさい」
「ん」
ハルがお決まりのポーズになった、両手を胸に当てて目を閉じる。
「まあ、ハルちゃん可愛いわ」
「でしょう! ハルちゃんったらとっても可愛いの!」
アヴィー先生とシュシュだ。ハルのファンクラブでも立ち上げそうな勢いだ。
ハルが何をしても可愛いらしい。溺愛だ。目に入れても痛くないほど可愛いとは、この事を言うのだな。
「じーちゃん、まらまら遠いか?」
「そうだな、まだ大分距離がある。そこでだ。また瞬間移動しながら進むか」
「長老、瞬間移動か?」
「このメンバーなら平気だろう?」
「そうだな」
「しゅしゅ、らいじょぶか?」
「ハルちゃん、あたしを誰だと思ってるのよ。楽勝よ、楽勝!」
「ほんちょか?」
「態々瞬間移動しなくても、普通について行けるわよ」
「なんら、できねーのか?」
「ハルちゃん! だからできるわよ!」
「しょっか」
シュシュが話せると途端に姦しくなる。小さくなって、喋ってはいけなかった時は静かだったのに。聖獣らしさがまるでない。
「よし、ワシに付いて来てくれ」
「了解」
「分かったわ」
そう言うと長老達の姿が消えた。その後には小さな竜巻の様な風が残った。
疾風の様に、いやそれよりも速くだ。姿が目で捉えられない。飽くまでも転移ではなく、瞬間移動だ。なので、少し先にまた風が起こる。次の瞬間、またその先に風が起こる。そうして進んでいるのだろう。
それでも、リヒトやアヴィー先生、ルシカにシュシュは長老の後を追えている。エルフの能力はヒューマンの想像の域を軽く超えている。
シュシュもさすがに聖獣だ。ハルを乗せているのに、何の支障もないらしい。
「しゅげー! はえー!」
ハルは1人上機嫌だ。テンションが爆上がりだ。ハルちゃん速いの好きだよな。
と、暫く瞬間移動で進んでいた長老が止まった。
「長老、どうした?」
「リヒト、分からんか?」
「あら、嫌だわ」
「なになあに? どうしたの?」
どうやらアヴィー先生は分かっているらしい。が、リヒトとシュシュは分かっていない。
「じーちゃん、放っておけねーな」
「そうだな」
「ハルちゃん、何なの?」
「しゅしゅ、あの花がまらありゅんら」
「そう? あたしの鼻はなんともないわよ……クシュン!」
なんともあるじゃないか。しっかりくしゃみをしている。花粉が飛んでいるのだろうか?
「長老、そうなのか?」
「ああ、これは領地全体に生えてしてしまっているのかも知れんな」
「そうね、という事は患者さんもいるかも知れないわね」
「念のため、根を採っておくか」
「ええ」
まだ例の花粉に毒を持つ花があると言う。まだ視界には入らないが、長老とアヴィー先生には分かるらしい。忘れてはいけない、ハルも気付いていた。リヒト、頑張ろう。
「この高台の方だな」
長老が道を逸れ、少し先にある高台を目指す。木々はなく、草木が茂るほんの少しの高台。
「花粉を飛ばす為なのかも知れんな」
「ええ、風が通る場所ですものね」
どうやら、風がよく通る場所に生えているらしい。他の草木に混じり、確かにあの花が咲いていただろう形跡がある。
花は散り、おばなとめしべだけになってはいるが、あの長い茎と細長い葉の形はそうだ。
群生とまではいかないが、纏まって生えていた。
「クシュン!」
大きな体をしているのに、くしゃみは可愛らしいシュシュ。
「しゅしゅ、らいじょぶか?」
「ハルちゃん優しい!」
大丈夫らしい。
長老が手を翳し、また根っこからズボッと花を抜いた。そして、根っこだけを残してカットした。根っこはそのままマジックバッグへ。
「じーちゃん、焼くじょ」
「ああ、いいぞ」
「ふぁいあー」
ハルが長老が切ったあとの葉や茎を焼く。他の草木に燃え移らない様に、慎重に。だが、確実にその毒草を焼いていく。
「ハルちゃん、魔力操作が上手になったわね」
「しょっか、ばーちゃん」
「ハルちゃんは天才だもの!」
ハルちゃんのファンクラブ会員ナンバー、1番がアヴィー先生で2番がシュシュでいいかな? ハルのファンクラブ会員の募集をするか?
「ねえ、長老。少しあの集落に寄ってみない?」
「そうだな、念の為にな」
「しゅしゅ、小っしゃくなんねーと」
「えぇ~、あたしハルちゃんを乗せていたいわ~」
「しゅしゅ、小っしゃくなってらっこら」
「ハルちゃんが?」
「しょうらよ」
「なら小さくなるわ~」
現金な奴だ。ペカッと光るとシュシュは子猫サイズになっていた。
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