第69話 根っこ
「その解毒にも同じ花が必要なんだ。花の根がな」
「じーちゃん、探しに行くじょ」
「ああ。アヴィー、リヒト、取り敢えずキュアをしておいてくれるか。それで少しは楽になるだろう」
「長老、アンチドーテじゃなくてキュアなのか?」
「毒草だが、人体の中に入るとアンチドーテでは解毒できんのだ」
そんなものがあるのか? 魔法を駆使するエルフには治せない病などないと思っていた。
「幸い、大森林の気候には合わんみたいでな。大森林には生息しておらんのだ」
「そうなのですね。初めて聞きました」
「そうでしょうね。特殊だから」
確かに特殊らしい。リヒトとアヴィー先生は領民達にキュアを。その間にハルと長老は毒草を探す事になった。キュアが出来るのはハイリョースエルフだけなのでリヒトとアヴィー先生がする事になった。
ミーレとカエデはアヴィー先生の補助を、イオスがハルと長老に付いて行く事になった。ルシカは薬湯を作る為の準備だ。
「じーちゃん、しゅしゅにのったりゃダメか?」
「そうだなぁ、獣人の領地だし人もいないし良いだろう」
「やっちゃ。しゅしゅ」
「ハルちゃぁ~ん! やっとあたしの出番が来たわ~」
と、訳の分からない事を言いながら、元の大きさに戻りググッっと伸びをしている。見た目は堂々とした白虎なのだが、どうも喋ると白虎の威厳が木っ端微塵に吹き飛んでしまう。
「しゅしゅ、のしぇて」
「もちろんよぅ~」
シュシュが伏せをすると、ハルがヨイショとシュシュの背中に乗る。久しぶりだ。最近はヒポポに乗る事が多かった。
領主邸の前の道を長老とイオスと一緒にシュシュに乗ったハルが行く。但し、普通ではない。ヒュンヒュンと瞬間移動をする長老とイオスの隣をシュシュが風の様に走って行く。
畑の中の道だ。見渡す限り、畑が広がっている。
「はえーッ!」
「ハルちゃん、しっかり捕まってね!」
「おうッ!」
ハルは喜んでいるぞ。何かに乗るのが好きだね。その上、早いととても楽しいらしい。
「ハル、分かるか?」
「じーちゃん、じぇんじぇん分かんねー」
「これこれ、ワールドマップと精霊眼があるだろう」
「両方ちゅかうのか?」
「ワールドマップに重ねて精霊眼で見てみるといい」
「ん」
この旅ではハルが持つスキルの使い方を、長老が実践で教えている様な事になっている。
同じスキルを持っていても、長老とハルの違いは使いこなしているかどうかだ。
ハルはまだまだだ。なんせまだ3歳のちびっ子だから。
「おー、ありゅな」
「だろう?」
「しゅしゅ、あっちら」
「分かったわ~」
広大な畑を突っ切り、少し高台になっている場所へと向かう。
低木が所々にあり、野草が小さな花を咲かせている。
その奥に、もう既に花は散っているが同じ種類だろうと分かる野草が一塊に生息していた。
葉に特徴があるんだ。花の形も細長い花びらで特徴があるが、葉も細長く茎が長い。そして地面近くにしか葉がない。
「こりぇらな」
「そうだな」
「採って帰りましょう」
「イオス、触ってはいかん」
伸ばしていた手を慌てて引っ込めるイオス。そのままの姿勢で固まっている。
「毒がありゅんら」
「え? 花がないのに?」
「しょう、茎にも毒がありゅんら。しゃわったりゃ、手がカユカユになりゅ」
「かゆかゆ……」
「アハハハ、とんでもなく痒くなるぞ」
「え、それは嫌だ」
「鼻がムズムズするわ」
シュシュが反応している様だ。もう花はないのに。
「まら先っぽに花粉がちょっち残ってんら」
「そうなのね。嫌な感じだわ」
と、クシュンッとシュシュがくしゃみをした。前足でお鼻を擦ろうとしている。
「早く採ってしまおう」
「しょうらな」
長老が手を翳す。すると、その花があったであろう野草が根っこからズボッと抜けて宙に浮いている。また長老が手を動かすと、そのままスパンッと根っこの部分だけ残して切り取られた。
あとはそのままマジックバッグに収納だ。
「じーちゃん、しゅげーな」
「ハルもその内できるさ」
「しょうか?」
「ああ、慣れだ」
「ほー」
呑気な話をしているが、今長老はとても不思議な事をサラッとやってのけたぞ。マジックの様だ。
野草を根っこから引き抜くのはまだいい。それを宙に浮かせたままで根っこだけのこしてカットする。そんな緻密な事を呆気なくやってのける。
ハルにはまだ真似の出来ない事らしい。
「ハル、あの茎を燃やしてしまおう」
「よし、まかしぇろ」
ハルがシュシュに乗ったまま片手を前に出す。
「ふぁいあー」
ハルがそう詠唱し、長老が切り落とした茎や葉を全て焼き尽くしていく。
花粉が残っているのだろうと言っていた、めしべやおしべもだ。
「これでもう花粉は飛ばないだろう」
「よし、みっちょんこんぴゅりーちょ」
「アハハハ、久しぶりにハルのそれ聞いたな」
そのまま長老とハル、イオスは領主邸に戻ってきた。『そのまま』だ。
「……!!」
門庭に立っている門番が、顎が外れそうな位に大きな口を開けて驚いている。声も出ないらしい。
何故なら、ハルはシュシュに乗ったまま戻ってきてしまったからだ。
「ああ、忘れておったな。アハハハ」
「長老、笑い事ですか?」
「まあ、獣人なんだし大丈夫だろうよ」
「なんら?」
ハルはまだ分かっていない。シュシュに乗ったまま、頭の上に『?』をポンポンと飛ばしている。
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