第63話 ばきゅんッ

「自分、赤いウルフは見た事ないわ」

「カエデは初めてだな」

「イオス兄さん、強いんか?」

「強いというか、まあウルフ種だから速さはあるな。群れで出てくるのがなぁ」

「すばしっこいんか?」

「すばしっこさで言うとモグラの方が上だ」

「ああ、あのモグラなぁ」


 カエデは以前にドワーフ族の国、ツヴェルカーン王国でモグラの魔物を討伐している。まるで、モグラ叩きの様に。


「それとはまた違いますね。モグラより体も大きいですし。逃げ足が速いと言う方が良いかもです」

「え? ルシカ兄さん、逃げるん?」

「ええ、自分達が不利だと思ったら逃げますよ。賢いんです」

「だな。群れでこっちを翻弄してくるしな」

「えぇー、魔物やんな?」

「そうですよ」


 とにかく一行は林に向かっている。念のため、家から出ないように話してあるのでシュシュが大きくなっても大丈夫だ。


「洞窟なんてあったか?」

「リヒト様、林の手前と言ってましたね」

「ふむ……ワシ等が入った方角とは少しズレた場所にあるな」


 長老がワールドマップをうまく活用している。


「じーちゃん、おりぇのわーりゅろまっぷにはないじょ」

「ハルは行った事がないからだろう」

「ほー」


 長老とハルのワールドマップには誤差がある様だ。長老の経験値の差だな。


「あっちだ」


 長老が先導する。林の外れの方へと進んで行く。

 林の外れに小さな丘がある。そこにぽっかりと開いた小さな洞窟があった。人が立って入れるギリギリの高さだろうか。それが少し奥にも続いている様だ。


「ここらしいな」

「長老、奥に何頭もいるな」

「ああ」

「洞窟から出さないようにすれば速さは関係ないですね」

「そうだな。逃げられないしな」

「よしッ! やりゅじょ!」


 ああ、またハルちゃんが張り切っている。片方の手を腰にやり、ブンッと拳を上げている。いつもはテンション低めなのに、こんな時はいつも張り切ってしまう。


「ハル、やるといってもウルフは速いぞ」

「じーちゃん、らいじょぶら!」

「いや、ハル。ちゅどーんはできねーぞ」

「りひと、おりゃのひっしゃちゅわじゃは、ちゅどーんらけじゃねー」

「あぁ? あんだって?」


 リヒトには、ちょっと難解だったらしい。


「ハル、ここは私達に任せてください」

「そうだぞ、ハル。リヒトとルシカに任せよう」

「じーちゃん、試したいのがありゅんら」

「試すのか?」

「しょうら。こはりゅ」

「はいなのれす!」


 コハルがポンッと出てきた。その何もない空間に、ヒポポが顔だけ出している。微妙にホラーだ。いや、ギャグか?


「ぶも……」


 自分は出たら駄目なのかと文句を言っている様だ。


「ひぽ、あぶねーかりゃな」

「そうなのれす。危険なのれす」

「ぶもも」


 ハルとコハルに言われて、そのまま素直に引っ込んだ。ヒポポは戦ったりしないんだな。


「ハル、とにかく前に出るなよ」

「おうッ!」

「分かったなのれす!」


 お返事はとっても良いハルとコハル。


「ハルちゃん、ほんまに大丈夫なんか?」

「そうよ、ハルちゃん」


 カエデとシュシュだ。この2人は参戦しないらしい。


「らいじょぶら!」

「平気なのれす!」

「ルシカ、いくぞ」

「はい、リヒト様」

「ワシが灯りを出そう。ライト」


 長老が『ライト』と詠唱すると、大きな光がポンポンポンと3つも出てきた。


「じーちゃんは、りゃいともしゅげーんらな」

「アハハハ、そうか? ハルでもできるだろう」

「しょっか?」

「ああ、『ライト』だからな」


 出来るらしい。灯りに照らされた洞窟の奥には赤茶色とエンジ色の体毛をしたレッドウルフの群れがいた。此方を獲物と捕らえて目をギラつかせながら唸り声を上げている。


「いっぱいいりゅじょ」

「レッドウルフは群れで行動するからな」

「しょっか」


 リヒトとルシカが弓を構える。グリーン色した魔法の矢を1度に何本も番える。

 そして、一気に矢を放った。


 ――ギャンッ!!


 命中したレッドウルフの叫び声が聞こえてくる。何頭か倒したらしい。

 リヒトとルシカで洞窟の中からウルフを出さないようにと、どんどん矢を放つ。

 その矢を掻い潜り、外へ出ようとレッドウルフが数頭走り出した。


「ハル! 行ったぞ!」

「気をつけてください!」

「こはりゅ、おりぇたちもやりゅじょ!」

「はいなのれす!」


 ハルが肩幅に足を開いてポヨヨンとしたお腹を……いや、胸を張り手を伸ばして短いプクプクとした人差し指を出し構える。まるで銃を撃つ真似の様だ。そのまま、走り出したレッドウルフ目掛けて……


「ばきゅんッ!」


 そのまんまだった。指先から魔法弾とでもいうのだろうか。それを出して撃っていく。


「ばきゅんッ! ばきゅんッ!」

「ばきゅんなのれす!」


 コハルもだ。コハル、指が短い。それはお手々だね。

 後ろ足で立ち短い前足を片方あげて、撃っているつもりらしい。


「アッハハハ! ハル、なんだそれは!?」

「じーちゃん、ばきゅんら! ばきゅんッ!」

「ばきゅんなのれす!」


 どんどんコハルと2人でレッドウルフを撃っていく。だがなかなか上手く狙いは定まらないらしく、致命傷にはならない。前足や肩に命中して動きを止めたところを、リヒトやルシカが仕留めていく。


「ハル、反則じゃねーか!」

「りひともやってみりゅ!? ばきゅんッ! ばきゅんッばきゅんッ!」


 その都度『ばきゅんッ!』と言う必要はないだろうと思うが。

 とにかく、あっという間にレッドウルフの群れを掃討した。

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