第62話 レッドウルフ

 やって来たのはこの放牧地の持ち主だった。カペルを放牧して育て、絞ったミルクでチーズなどの乳製品を作って生計をたてている。

 お願いがあるといって家まで案内された。


「実は最近林の奥からウルフが出没するようになりまして、カペルがもう何頭もやられているのです」

「ほう。しかし、カペルドックはウルフ種が混じっているのではなかったか?」

「はい。確かにそうなのですが。今回問題になっているウルフは凶暴なのです。銃で仕留めようとしても動きが早くて」


 要はそのウルフを討伐して欲しいという事だった。しかし、林の奥とはついさっきハル達が精霊樹を確認する為に行ってきたところだ。


「ウルフは見かけなかったな」

「全身が赤茶色をしていて鼻筋から背中にかけてエンジ色の毛があります」

「赤かぁ……」

「リヒト様、レッドウルフでしょうか?」

「だろうな。なら凶暴で動きも早い」

「大森林でも時々見かけますね」

「ああ」

「で、それを退治して欲しいと言う事ですかな?」

「はい。不躾なお願いだと分かっております。しかし、もう私共には手立てがなく」

「ま、仕方ねーな。な、長老」

「ああ。放ってはおけまい」

「俺達が来てラッキーだったな」

「リヒトがいてだろう?」


 確かに。リヒトはエルフ族の中でも最強の5戦士の1人だ。


「なんとッ! 長老様にベースの管理者殿ですか!?」


 長老が皆を紹介した時の反応だ。ちょっぴり偉い人だと理解しているらしい。


「じーちゃん、やりゅか」

「そうだな。だが、ハルのお昼寝が先だ」

「ん」


 お昼を食べた後だからハルは既に目がトロンとしている。


「ワシの曽孫なんだが、まだ小さくてな。お昼寝が必要なんだ。小1時間程、寝かせてやってくれんか?」

「どうぞ、お部屋をご用意致しますので」


 良かったね、ハル。ベッドで眠れるぞ。

 長老に抱かれて部屋へ行く。その後を、トコトコと白い奴がしっかり着いて行っていた。

 ハルが起きるまで、ルシカは作業場を見学させてもらっていた。


「チーズはこうして作るのですか」

「ええ。初めて見られますか?」

「はい。チーズはよく使うので、国でも買いますよ」

「最近ではエルヒューレでも作られているとか」

「そうですね。でも、カペルのチーズではないのですよ。こちらを少し購入する事は可能でしょうか?」

「購入など、とんでもないです! お好きなだけお持ち下さい!」

「いえ、それは駄目です。ちゃんと見合った金額をお支払いしますよ」


 チーズだけでなく、色んな乳製品を手に入れたルシカは、キッチンを借りて早速オヤツ作りだ。


「ルシカ兄さん、手伝うわ」

「ありがとうございます。じゃあカエデは粉を篩にかけてください」

「まかしてや」


 ハルが目覚める頃には良い匂いが漂っていた。今日のオヤツは何かな?


「ふわぁ〜……」

「ハル、起きた?」

「ん、よきゅ寝たじょ。ちゅぎはりゅしかのおやちゅら」


 寝起きだからか、いつもよりカミカミだ。


「フフフ、もう出来ているみたいよ。良い匂いがするわ」

「ん、なんりゃりょなぁ」


 シュシュも小さくした体をググッと伸ばしている。


「みーりぇ、しゅしゅ、いくじょ」


 いつもなら大きなシュシュに乗って移動しただろうが、今日はミーレに手を引かれてトコトコと歩く。その側を小さなシュシュが付いて行く。


「しゅしゅ、めんろーらな」

「ね、大きくなりたいわ。ハルちゃんを乗せてあげたいもの」

「ん、しゃーねー」

「ふふふ、運動になっていいわよ。ハルのお腹も凹むかもよ」

「みーりぇ、こりぇはしゃーねーんら」

「はいはい」


 相変わらずだ。ハルの幼児体形は健在だ。


「ハル、起きましたか」

「りゅしか、おやちゅら」

「はい、できていますよ。出来立ての乳製品で作ったチーズケーキです」

「おぉー」


 ハル達だけでなく、この家の人達にも振舞われたルシカのチーズケーキ。表面はこんがりと焼けているが、フォークを入れるとフワッフワでしっとりとしている。


「これは美味いですな! 作り方を教えて頂かないと!」

「フフフ、簡単ですよ」

「りゅしかのおやちゅはんめーんら」


 まだ、カミカミだ。ハルちゃん、この後ウルフ討伐が待っている。しっかり目を覚まそう。


「それで、どの辺りに出るんだ?」

「カペルを放しているずっと奥なのですが、何しろ足が速いのです」

「奥の林のところで昼飯食ってたけど、何も出なかったな」

「林まで行かれたのですか!? 危険です!」

「そうか?」

「はい! 林の手前に洞穴があるのです。どうやらそこをネグラにしているらしいのです。何度か火で脅そうかとも思ったのですが……」

「いあ、それは危険だ」

「そうなのですか?」

「刺激はしない方がよいぞ」

「だな」


 今回問題になっている、レッドウルフ。先にも話していた様に、全身が赤茶色をしていて鼻筋から背中にかけてエンジ色の毛がある。

 数種類いるウルフ種の中でも狂暴な種類に入る。

 そう体は大きくはないが、他のウルフ種に比べると動きが速い。その上、群れで行動する。個体なら、ヒューマンの高位の冒険者なら討伐は可能だろう。だが、群れになると難易度は高くなる。

 高位の冒険者が何人もかかって討伐できるかどうかといったところか。

 大森林にも、レッドウルフは生息している。

 リヒトやルシカも討伐経験がある。

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