第60話 ちょうちょう2

「ハル、どこか分かるか?」

「えっちょ……じーちゃん、もっと向こうら」


 ハルが草原の先を指さす。相変わらず短いプクプクとした指だ。


「そうだな、移動しようか」


 一行は馬を進める。風が吹き抜ける草原を通り、木立のある方へと進んで行く。景色も変わっていく。山羊が食べるので地面を這う様な草しかなかった大地に葉を茂らせた草木が増え始める。

 丘の様になっている草原を越え、その先に林があった。その中へとどんどん進んで行く。

 疎らな木の中、背丈の高い草木も増えてきた。

 一行はまだ先に進んで行く。

 皆がいつもいる大森林とは比べ物にはならない程度の木々だ。一行は平然とパカパカと進んで行く。


「そろそろではないか?」

「じーちゃん、あっちら」


 ハルが少し右手を指す。まだハルの手の甲にある印は反応していない。

 まだもう少し先らしい。どんどん林は深くなる。それにしては木々の成長が遅い。まだそう大して幹が育っていない。


「長老、どれも幹が細くないか」

「ああ、そうだな。陽が足りないのか、それとも大地の養分の所為なのか分からんがな」

「木の枝も少ないぞ」

「ああ……」


 リヒトが言うようにどの木も幹が細い。そして、枝も高い位置にしかない。

 元気がないのだろうか? それとも長老の言うように何かが不足しているのか?


「そうだ、確か数百年程前にこの辺りで大雨が降ったんだ。その時に流された木々も多かったと聞いている」

「数百年か……」

「大森林では数千年の樹々が多いですからね」

「ああ。同じ木でもこんなに違うんだな」

「それに、エルフとは考え方も違っておる」

「長老、この地域の領民達のか?」

「この地域だけではない。アンスティノス全域だな」


 エルフは大森林の守護者だ。世界樹を守り、ヘーネの大森林を守る種族だ。それ故に大森林を大切にする。樹々を草木をヘーネの大森林全てをだ。そして、世界樹と大森林の恩恵も大事にして暮らしてきた種族だ。考え方が違うのも頷ける。


「じーちゃん、あしょこら!」


 ハルが指差した方にキラキラと光る精霊樹があった。ひっそりと隠れる様に生えている1本の精霊樹。今までの精霊樹と比べるとまだ力強く光っている。

 ハルの手の甲の印も反応して光っている。


「おう、ここはまだマシか?」

「らな」

「俺にもちゃんと見えるぞ」

「少し光ってますね」

「そうね、光って見えるわ」

「おう、そうだな」

「ぜんっぜん見えへんわ」


 と、まあ魔力量の違いは仕方ない。


「じーちゃん、もう呼びらしていいか?」

「この辺りならいいだろう」

「よし、こはりゅ、ひぽ!」

「はいなのれす!」

「ぶもッ」


 ハルの亜空間からポンッと出てきたコハルとヒポポ。出られるのが嬉しいようだ。


「たいくつなのれす」

「ぶも」


 ヒポポがハルに擦り寄る。


「しゃーねーんら」

「分かっているなのれす」

「ぶもぉ」


 それでもハルと一緒に行動できないのはつまらないとでも言いたそうなヒポポ。ハルの手に頭をスリスリと擦り付けている。


「ひぽ、しゃーねー」

「ぶも」

「あたしも元に戻ってもいいかしら?」

「おう、いいぞ」


 ブワンッと光が大きくなり、シュシュが元の大きさに戻る。グググッと伸びをしている。


「ハルちゃぁ~ん! あたしもつまんないの~!」


 ゴロゴロと頭をハルに擦り付けるシュシュ。その頭を小さな手でナデナデと撫でるハル。大きなネコに見えてしまう。


「しゅしゅはみーりぇに抱っこしてもりゃってりゅらろ」

「やだ、それでもハルちゃんとお喋りできないのはつまんないわ」

「しゃーねーんら」


 はいはい、さっさと話を進めよう。

 

「ヒポ、呼びらしてくりぇ」

「ぶもッ」


 ヒポポが精霊樹に向かって一鳴きする。


「ぶもぉ」


 すると、ひよこさんかと思いきや、蝶々の精霊獣が出てきた。


「ありぇ、ちょうちょら」

「ひよこじゃねーんだな」

「な、しょの前のはひよこしゃんらったのにな」


 1つ前の湿地帯を抜けた場所に植えた精霊樹の精霊獣は色とりどりのひよこさんだった。

 だから同じひよこさんだと、皆は思っていたらしい。ところが、その前の精霊獣と同じ蝶々だった。エメラルドグリーンの翅をヒラヒラさせながら小さな葉っぱの付いた触覚をフリフリと動かしている。


「ハル、お願いなのれす」

「よし! ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」


 と、ハルが詠唱すると、白い光が精霊樹と精霊獣を包み込む。よりピカピカと光り出した精霊樹。精霊獣も、ありがとうと言っている様にハルの周りをヒラヒラと飛んでいる。


「植えるなのれす」


 コハルが自分の亜空間から精霊樹の実を取り出す。どんどん取り出し、地面へと吸い込まれていく。


「長老、頼むなのれす」

「おう」


 長老が何処からともなく魔法杖を取り出した。そして詠唱する。


「ピュリフィケーション……ヒール」


 辺り一帯に光が舞い降りる。すると、植えたばかりの精霊樹の実から芽が出て若木へと育っていく。元から生えていた精霊樹も心なしか元気になった様な気がする。

 そして、またヒポポが一鳴きする。


「ぶもぉ」


 すると、ワラワラと蝶々の精霊獣が出てきた。エメラルドグリーンだけでなく、スカイブルーやピンク色。色んな色の精霊獣がいる。皆、触覚の先に小さな葉っぱがついている。

 

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