第53話 ブラックガネット
ブラックガネットという害鳥だ。普通はもっと大きな湖近くの高い木に巣を作る。どこが害鳥かというと……
ついさっきまで空高く飛んでいたブラックガネットがいきなり急降下してきた。風を切る音がしそうな位の速さで落ちてくる。フルスピードはどれくらいなんだろう。とにかく早い。まるで弾丸が放たれたかの様に湖に向かって落ちていく。
「なんら、あれ!?」
「ハルは知らないか。あれはああやって狩りをするんだ」
「コワッ! なんなんあれ!? あんなん鳥なん!?」
「アハハハ、カエデも知らんか」
「あんなん見た事ないわ!」
「なるほどね、ああやって湖の中の魚を捕まえるのよ」
「シュシュ、知ってんの?」
「あたしもあんなの見た事ないわよ。でも、少し考えれば分かるわよ。あたしって知性の塊だからぁ」
はいはい、久しぶりにシュシュの自慢を聞いた。アンスティノス大公国に入ってからは小さくなって大人しくしていたからな。
そのブラックガネットがザバンッと湿地帯の湖に飛び込んだ。潜水したんだ。そして次の瞬間、口に立派なアンスイールを咥えて急上昇した。
「うわ、見事だな」
「リヒト、感心している場合ではないぞ。普通はこの湿地帯にはいない筈の鳥だ。流れてきたのか、あの1羽しかおらんようだが」
「あいつが犯人かぁッ!?」
トーマスさんが拳を握りしめている。手塩にかけたアンスイールを、いとも簡単に狩られてしまった。しかも、目の前でだ。
「そうだろうな。だからいくら探索しても何も見つからなかったんだろう」
「長老、スゲーじゃねーか!」
「アハハハ。それよりもあいつをどうするかだ」
「そりゃあ、ゼッテーに退治するさッ!」
トーマスさんが迷わず簡単に言ったが、どうやって退治するんだ? 奴は早いぞ。しかも空を飛んでいるぞ。飛び道具はあるのか? リヒトが尤もな事を聞いた。
「トーマスさん、どうやって退治するんだ? 早いし飛んでるぞ」
「そりゃあ、あんちゃん。その……なんだ」
これは無計画だな。考えてもいない、いや考えつかないのだろう。
長老が思案する。
「ミーレ、弓でいけそうか?」
「そんな、長老。私の力であの距離は無理ですよ。ルシカならできるんじゃないの?」
「私でもあの早さだと自信がないですね」
「まあ、あの早さはなぁ」
その時だ。
「おりぇがやりゅじょッ!」
イオスに抱っこされながら、ハルがハイッと手をあげた。ハルちゃんがやる気になっている。
「ハル、また変な時に張り切って。どうやるんだよ」
「りひと、決まってりゅ! こはりゅとちゅどーんら!」
はいはい、ハルちゃん。それは無理だ。どうやってあの高さまでジャンプするつもりなんだ? 流石の必殺技でも無理だろう。届かないぞ。
「きあいらッ!」
ブンッと拳を上げている。こっちも何も考えていないぞ。
「ハッハッハッハ。ハル、気合か!? そりゃあ、無理だ」
「じーちゃん、しょっか?」
「そうだな」
「できりゅじょ! ちゅどーんは無敵ら!」
張り切っちゃっている。いつもはテンション低めなのに、爆上がりだ。
「こはりゅ!」
「はいなのれす!」
ああ、内緒なのにコハルまで呼び出してしまった。何もない空間にコハルが張り切ってポポンッと出て来てしまった。
「なんだぁ!? どっから出てきたぁッ!?」
ほら、トーマスさんが驚いているぞ。もう目がビヨーンと飛び出てきそうだ。
「ハル……」
「ハルちゃん、駄目じゃない。コハル先輩は秘密なのよ」
我慢できずに『ハルちゃぁ~ん』と叫んでバレてしまったシュシュに言われたくはない。
既にコハルがシュシュの頭の上に乗って、タシタシと足で踏み付けている。
「あ、やべ」
「あっはっはっは!」
「長老、笑い事か?」
「いや、リヒト。可笑しくてな」
長老は動じない。いや、ハルに甘いだけなのか?
「長老、どうすんだよ」
「出てきたもんは仕方がないだろう。トーマスさん、これも秘密なんだ。ハルの聖獣でコハルというんだ」
「また聖獣様か!? 一体エルフさんはどうなってんだッ!?」
「な、最初の頃の自分と同じ反応やわ。やっぱみんなそう思うんやわ」
「そうかしら? カエデのご両親がいらした村なんてあたしが行ったら歓迎されたわよ」
「なんでやねん。あそこでも聖獣様やーって言われてたやん」
「だって聖獣様だもの」
「うぅわッ、感じわるぅ」
「ぴよぴよなのれす」
「コハル先輩、だからぴよぴよは止めて」
このメンバーはいつでも姦しい。シュシュが小さくなって喋ってはいけない時は静かで平和だったのに。
「ちびっ子はスゲーんだなぁ」
「らから、ちびっ子じゃねー」
「アハハハ、ハルだったな」
それよりも、どうするんだ? あの、大きな鳥さんだよ。そんな事をしている間に、またブラックガネットが飛んできたぞ。空中で獲物を狙って旋回している。
「仕方がないのう」
お、長老が動いたぞ。しかしここは、カッコいい枠のリヒトの出番なのじゃないか?
「長老、俺がやってみるよ」
「そうか?」
「ああ。ま、なんとかなるだろう」
お、リヒト。かっちょいいぞ。頑張れ。
「りひと、おりぇとこはりゅがやっちゅけりゅんら!」
「あんだって?」
ハルも黙っていような。ここはリヒトに任せよう。
「リヒト、魔法杖でアローを出せるか?」
「おう、楽勝だ」
「なら、大丈夫だろう」
「長老、杖いるのか?」
「ああ、距離もあるし奴はデカイからな」
「よし」
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