第54話 リヒトの出番です
リヒトがどこからか魔法杖を出した。久しぶりに見るリヒトの魔法杖だ。リヒトの杖も長老のお手製で世界樹の枝で作られている。ブルーにゴールドがキラキラと煌めいている球体がついたエンブレムの魔法杖。それを弓代わりに使うらしい。
杖を持ち、グリーン色した魔法の矢を出す。弦がないのに、まるでそこにあるかの様だ。
矢を番える。右肘を少し絞める。右肩と左肩を結んだ線が矢と平行になる。背中を伸ばして構える。目一杯無理には引かず軽く構え、呼吸を整え無駄な力を抜く。そして空中を飛んでいるブラックガネット目掛けて魔法の矢を放った。
リヒトが放った魔法の矢が風を切ってブラックガネット目掛けて一直線に飛んだ。まるで吸い付けられるかの様にブラックガネットの胸を射抜いた。お見事。リヒトもやる時はやる。
ブラックガネットは、クルクルと回りながら落ちて来る。
「よしッ、成功だ」
「りひと、しゅげー!」
「ハハハ。そうだろう!」
「なかなかのもんだな」
「何が起きたのか、分かんねーぞ!」
トーマスさんを置き去りにしていた。ここはルシカの出番だ。
「あれはエルフがみんな持っている魔法の杖なのですよ。杖を使うと魔法の威力が増大するのです。エルフは皆、矢の代わりに魔法の矢を出すのです。グリーン色の矢が見えませんでしたか?」
「お、おう。何か光ってたな」
そうか、魔力量が違って見慣れないと矢に見えないのか。
「やっぱリヒト様、カッコいいなぁ~!」
「あら、カエデも少し出来るようになったじゃない」
「そんなん、自分とは比べもんになれへんわ」
「魔力量が違うのだもの、仕方ないわよ」
「そうやな。魔力量やな」
「カエデ、だから訓練次第でもっと増えるって教わっただろう?」
「イオス兄さん、それでもエルフの兄さん達の足元にも及ばんわ」
それは、種族が違うのだから仕方がない。しかし、カエデだって獣人なのに魔力量は多い方ではないか? なにしろ、魔法の矢が使えるんだから。
「カエデ、獣人でマジックアローが使えるのなんていねーぞ」
「そうなん!?」
「ああ、カエデもスゲーんだぞ」
「イオス兄さん、そんなん言うたら照れるにゃ~ん! 恥ずかしいにゃ〜ん! 嬉しいにゃ〜ん!」
久しぶりに聞いた、にゃ〜んの3連続だ。カエデは可愛い。しっかり者で努力家、それに素直でとっても可愛い。
そして、落ちたブラックガネットを回収しに行った一行。
「リヒト。頭を見てみなさい」
「長老、頭か?」
リヒトがブラックガネットを掴み、長老に言われた通り頭を見る。
「なんだこれ? 小さな角があるじゃねーか」
「ああ、魔物化しておるな」
「何だってぇッ!? 魔物だとぉ!?」
「ブラックガネットには角はない筈だ。どこかで魔物でも食ったか? それとも瘴気の影響か?」
「長老、瘴気ってなんだ?」
そうか、ヒューマンは知らないんだ。
この世界で同種族の争いや殺傷が起きた時、自然破壊が進んだ時、自然災害が起きた時等に瘴気は生まれる。それを浄化しているのが、エルフ達が太古に設置した魔石であったり、各地に生える精霊樹だったりする。
しかし、このアンスティノス大公国には精霊樹は少ない。浄化の魔石も1箇所にしかない。
それで瘴気が浄化されず、侵された獣が魔物化するんだ。又は、魔物を食べたら魔物化する場合がある。
すると、獣の身体に変化が起きる。代表的なのは、ある筈のない物が生えている事だ。今回のブラックガネットだと角だ。小さな角が頭に生えていた。
このまま気付かずに放っておくともっと狂暴になる。最終的にはヒューマンや獣人を襲って食べるようになる。偶々だが、早く見つけて良かった。
「こえーな、おい」
「大森林にはもっと狂暴な魔物がウジャウジャいるからな」
「そうなのか?」
「ああ、大森林からそいつらを出さないためにエルフが守ってんだ」
「俺達はここで生まれてここで一生を終える者がほとんどだ。他の事なんて何も知らねー。無知はいかんな」
「そうやで。『無知蒙昧』って言うしな」
「ネコちゃん、なんだそりゃ?」
「知識がなく、物事の道理を知らん事を言うんや。けど、知らん事を知らんのが1番あかんねんで」
「なんだ、ちびっ子なのに難しい事を知ってるな」
「ちびっ子ちゃうっちゅーねん。けどな、『一日一字を学べば三百六十字』て言うやん」
「なんだそりゃ?」
「たとえ少しずつでも、毎日、怠らずに勉強を続けたら、積もり積もって大きな成果につながるっちゅう事や」
「おう、また難しい事を知ってるな」
「自分も勉強中やからな。みんな自分の師匠みたいなもんや」
「そうか、良くしてもらってんだな」
「命の恩人やからな」
「泣けるじゃねーか、よぉ~」
カエデは良い子だからね。それよりも、そのブラックガネットはどうするんだ?
「念のため、巣も潰しておこう」
「はい、それ位なら私でもできます」
「ルシカ、どこか分かるか?」
「はい、見えていますから」
ルシカもハイリョースエルフではないが、ハイダークエルフだ。能力は高い。
ルシカが弓を取り出す。そこに魔法の弓を番える。リヒトとは違ってシルバーグレーに光る矢だ。
リヒトはマジックアローだから、グリーンだ。
いつもはルシカはウインドアローを使う。それなら、ブルーの矢の筈だ。なのに、今日はシルバーグレーに光っている。
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