第51話 かば焼き
長老が前置きをする。バレてしまったから仕方ない。
「あまり騒ぎになりたくはないんだ」
「おう」
「シュシュ、戻るか」
「いいのかしら?」
「ああ、今だけだぞ」
シュシュが一瞬白く光りその光がグググッと大きくなって消えた。そこには元の大きさに戻った白い虎の聖獣、白虎のシュシュだ。身体をググッと伸ばしている。ネコ科だね。
「びっくりしたぁッ! 白い虎かよぉ!?」
「やあねぇ~、ただの虎じゃないわよ。あたしは、白虎の聖獣なのよ」
「うわぁッ! 本当に喋ったぞぉ!」
「聖獣なんだから、喋るくらいするわよ」
「なんだとぉッ!? 聖獣様って伝説じゃないのかよぉ! 長老、皆に知らせたら駄目かぁ!?」
「だから、騒ぎになりたくないんだ」
「そ、そうだったな。しかし獣人にとって聖獣とは神様みたいなもんなんだよ」
「ふふふ。神様ですって」
「雌の聖獣様なのか?」
「いや、雄だ」
「やあねぇ~、そんな小さな事には拘らないのよ!」
「流石、聖獣様だッ!」
いやいや、流石ではないだろう。と、話している間にシュシュはレイクバードに乗っているハルを追いかけて行った。しかし、レイクバードは湖の上であろうと平気で走る。ガンガン走る。気持ち良さげにビュンビュン爆走している。
いくらシュシュが聖獣だとしても、湖の上は走れない。なかなか追いつけないでいる。
「ハルちゃぁ~ん!」
「あぁ~! しゅしゅ、元の大きさになってりゅじょ!?」
「いいの~! 今だけなの~!」
「アハハハ。シュシュ、バレたのか!?」
「リヒト、もっとスピードを落としてよ! 近付けないじゃない!」
「アハハハ! シュシュの方が遅いにゃ~ん!」
「カエデ! 煩いわよ!」
ああ、賑やかすぎるくらいに賑やかだ。やはり奴が喋ると姦しい。
散々、レイクバードで爆走して戻ってきたリヒトとハルとカエデ。ハルがお眠だ。お昼寝の時間だね。
「ハハハ、ちびっ子は可愛いなぁ。さっき大声で笑ってたかと思ったら、もうコテンと寝ている」
「まだお昼寝が必要だからな」
「長老の孫か?」
「いや、曾孫だ」
「ほぉ~、曾孫かい。そうか、エルフさん達は長命種だったな」
「そうだな。それより、この領地は何の獣人が多いんだ?」
「領主様が、狼の獣人なんだ。だからという訳じゃないだろうが狼と犬の獣人が多いぞ。俺も犬の獣人だ。この辺りはゴールデンレトリバーって種類の犬獣人が殆どだ。水が平気なんだ。泳ぎもするぞ」
「ほう、それは凄い」
このトーマスさんという犬獣人のおじさん。歳の頃なら見た目はリヒトの父親くらいだろうか。もちろん本当の歳は全くちがう。だってリヒトの父は855歳なんだから。
よく見るゴールデンレトリバーの毛色と同じ様な明るい茶色からクリーム色の髪に垂れた大きめの耳がある。尻尾もフッサフサだ。人が良さそうなアーモンド型の目をしている。
ちょっと熱いおじさんだ。
「俺達が大切に育てたアンスイールを盗まれたら堪らねーぜ。それで領主様に言って討伐隊をだしてもらったんだが何も痕跡がなかったんだ」
「ふむ……」
さっきから長老の目がゴールドに光っている。そんな事も神眼で分かるものなのだろうか?
「盗賊じゃないかも知れんな」
「長老、どうしてだ?」
「人が入った形跡がないんだ。それよりも……ふむ、まだはっきりとは分からんな」
「エルフさんって何でも分かるんだな」
「違いますよ。長老は特別なスキルを持っているのです。私達には全然分かりませんからね」
「ほう、スゲーな!」
「アハハハ、だがハッキリとは分からん。リヒト、今日はこの辺に泊まろうか」
「おう、長老がいいなら構わんぞ」
今日はお泊りするらしい。だが、宿を取っていない。トーマスさんが「うちに泊まればいいぜ」と、言ってくれた事に甘えるらしい。
「りゅしか、ちげー」
「違いますか?」
「ん、ここりゃへんを刺して止めるんら。で、裂くんら」
「ああ、目打ちの事だろう。ほら、これで顔に刺して固定すんだよ」
「しょうしょう、おっしゃん知ってりゅのか?」
「腹を割ればいいのか?」
「はりゃれも背れもいいじょ」
「そうかよ、ここをこうだ」
と、ハル監修、トーマスさんの指導でルシカが鰻、いやアンスイールを開く事にチャレンジしている。
「兄さん気をつけな。血には毒があるからな」
「はい、分かりました」
「上手いもんだな」
「ん、りゅしかはじょうじゅ」
ルシカが初めてなのに、手際よく鰻を捌いていく。もう中骨を切り出しにかかっている。お見事。
「ちびっ子も何でこんな事知ってんだ?」
「ちびっ子じゃねー。はりゅら」
「ん? 何だって?」
「はりゅ」
「ハルというのですよ」
「おう、ハルか」
「しょうら」
このやり取りも何度か聞いた事があるな。
「ハル、できましたよ」
「しゅげー! うなぎら」
「あんだって?」
「これにタレをつけるのですか?」
「しょうしょう。あまじょっぱいの。ちゅけながりゃ焼くんら」
「ああ、先にちょっと蒸したら身がふっくらするぞ」
「しょっか?」
「おう、ハルはそこまで知らねーか」
「らって食べたらけら」
「アハハハ、そうなのか」
相変わらず、ハル監修、トーマスさん指導でできたアンスイールのかば焼き擬き。
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