第50話 バレちゃった

 そして、ハル達が出発しようとした時だ。何処からか男性が走って来た。どうやら怒っているみたいだ。


「ゴォラァッ! あんた達! そこで何してんだぁ! 盗人かぁッ!」


 盗人? どうしてそうなるんだ?


「ああ、すまん。ちょっと飯を食っていただけなんだ」


 長老が穏やかに対応する。それでも男性は納得できないらしい。頭から湯気が出そうだ。


「最近アンスイールを盗んでいたのはあんた達かぁッ!?」

「いや、待ってくれ。ワシ等は今日来たばかりだ。本当に飯を食っていただけなんだ」

「信じらんねーなぁッ! 他所もんは信じらんねーからなッ!」


 今にもかかってきそうな勢いだ。仕方なく長老がフードを取る。


「はぁぁッ!? あんた達、エルフかぁッ!?」

「ああ、旅をしておるんだ。アンスイールの有名な地域だから買っていこうと話していたところなんだ」

「そうなのか? こりゃすまん。最近、盗人が出るから過敏になっとった」


 一行はその男性の家に来ている。怒っていたおじさんは、名をトーマスさんというそうだ。代々、この湿地帯で生計を立てている一家らしい。

 あの助けたクロエだが、ルシカに食料を分けてもらい、ミーレにも着替えを少しもらい元気に旅立って行った。逞しいもんだ。

 そして、ハルとリヒトは一緒に盛り上がっていた。テンション爆上げだ。


「アハハハ! りひと、すぴーろあっぷら!」

「おう! しっかり掴まれよ!」

「おー!」


 何をして盛り上がっているのか説明しよう。

 例の怒り心頭だった男性の誤解も解け「ならうちで買ってくれ」と、言うことになりトーマスさんの家にやってきた。

 そこにいた、レイクバードというクリックりのつぶらな瞳が可愛らしい黄色い大きな鳥さんに2人は乗って走っているんだ。ダチョウよりもまだ大きい。成人男性のリヒトと3歳児のハルが一緒に乗っても余裕だ。何かのゲームに出てきそうな黄色い鳥さんだ。

 このレイクバード。足に水掻きがあり、走っていれば湖の上でも沈まないという優れものだ。止まったらブクブクと普通に沈むらしい。なのに、走ってさえいれば、湖の上でもガンガン進む。一体どうなっているのか? で、鳴き声が『ひゅぅ~』という頼りない声だ。

 その大きな鳥さんレイクバードの背中に鞍をつけ、手綱を握りながらリヒトはハルを前に乗せて走って、いや、爆走している。テンション爆上げなのも仕方ない。

 ルシカはアンスイールを選り分けている。


「これは立派なアンスイールですね」

「そうだろうよ。大事に育てているからな。なのに、盗人の奴等掻っ攫っていきやがってぇ」

「それは、いつの事なのですか?」

「ひと月前位から何度もなんだ。罠を仕掛けたりしてみたんだが、全然効果がなくてよ」

「トーマスさんは、盗人を見たのか?」


 おや、長老が話に入ってきた。


「いや、誰も見てねーんだ。けどよぉ、この湿地帯一帯がやられてんだよ」

「ふむ……」


 何やら考えている長老。


「このアンスイールを何匹か頂けますか? それと、燻製じゃないものはありますか?」


 と、アンスイールを選ぶルシカ。


「燻製じゃないのか? 生のを食うのか?」

「ハルがフワフワで美味しいと言うもので、どんなものかと思ったのですが」

「あんちゃん、アンスイールは血に毒があんだぜ。火を通したら大丈夫なんだけどな。だから、燻製でしか売ってねーんだぁ。知らねー奴が、もしも血が付いた手で目でも触ったらえれー事になんだよ」

「そうなのですか?」

「ハルとリヒトはまだ遊んでいるのか?」

「あんちゃんとちびっ子は、レイクバードが気に入ったみたいだな。珍しいんだろうよ」

「ああ、初めて見たな」

「そうかい? 鞍をつけてあっから大丈夫だぜ。あれは便利なんだ。なんせ、ここいら一帯が全部湿地帯だからなぁ。ワッハッハ」


 なるほど、確かに便利そうだ。走ってさえいれば湖には落ちないのだから。だが、逆を言うと走っていないと落ちる。普通にドボンだ。


「ハルちゃ~ん! あたしが乗せて走るのにぃ~!」


 白い奴が何か言ってるぞ。


「リヒトさま~! ハルちゃ~ん! 自分も乗せてにゃ~!」


 カエデも叫んでいる。カエデもまだ子供だ。楽しそうなら参加したくなる。


「いいじょ~!」


 と、ハルが返事しリヒトはカエデの方へとレイクバードを向ける。

 リヒトが乗り、その前にカエデ、そのまた前にハルが乗り出発だ。


「しっかり捕まれよ!」

「おー!」

「はいなー!」


 またレイクバードは爆走する。レイクバードだって疲れないか? 良い迷惑じゃないか?


「長老さんよ」

「ん? どうした?」

「今、そこの白い小っせーのが喋らなかったか?」

「ん? そうか?」


 おいおい、シュシュ。聞かれていたぞ。


「俺らは獣人なんだ。あのちびっ子の1人も猫獣人なんだろう? エルフってのは閉鎖的な人種だと思っていたんだが、差別をしている風でもない。それどころか、仲良くレイクバードに乗ってる」

「エルフはあまり他の国にはおらんから、そう思われがちだが差別なんてせんよ。ちびっ子は皆の財産なんだ。可愛がらんでどうする」

「そうなのか?」

「ああ。ヒューマンの様に獣人だからといって差別はせんよ」

「そうか! エルフさん達は良い人達なんだなッ! で、その白いのは何だ?」


 ああ、誤魔化せないらしい。

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