第47話 ちょうちょう2
「あ、じーちゃんあしょこら」
「ああ、見えてきたな」
「本当だ、ここも弱いな」
リヒトも分かるようになったらしい。確かにリヒトが言うように、弱々しい。葉の少ない木立の中に、ひょろっとした精霊樹が1本たっている。キラキラもしていない。これだけ自然が残っている湿地帯でもこの状態なのか? 精霊樹ではない普通の木も心なしか元気がない様に見える。
「この国はヒューマンの人口が多い。なのに今まで浄化するものが何もなかったんだ。仕方のない事だろうよ」
と、長老が言う。公都には最近瘴気を浄化する魔石を設置した。しかし1個だ。他の国は幾つもある。ドラゴシオン王国には幾つもの大型の魔石がある。ツヴェルカーン王国には火山活動を抑制する魔石のプールまである。エルヒューレでも大森林と城の真下にある。
それがこの国では今まで1つもなかったんだ。精霊樹にとっては負担になっていたのだろう。
今、アヴィー先生が協力している協定への参加。それが叶ったら先ずは魔石の設置だろう。アンスティノス大公国の瘴気を浄化する為の魔石をだ。
「アヴィーに頑張ってもらわんと」
「しょうらな」
ハルちゃん、分かっているのか?
「ばーちゃんにしかできねー」
どうやら分かっているらしい。
「もうこはりゅとひぽを出してもいいか?」
「おう、いいだろう」
早速、呼び出すハル。皆も馬から降りている。精霊樹はすぐそこにある。ハルの手の甲にある印も光っている。
大湿地帯の外れ、湖の脇にその精霊樹は1本ポツンと立っていた。こんな場所にはヒューマンも立ち入らないだろう。だからこそ、1本でも残っていたのだろう。
アンスティノスで1番の大湿地帯。そんな大自然の中でもたった1本しか生えていなかった。
「こはりゅ、ひぽ」
「はいなのれす」
「ぶも」
「あ、びっくりなのれす。湖なのれす」
「ぶもッ」
危ないぞ。湿地帯だからね。湖に落ちない様に足下に気をつけないと。
コハルとヒポポは浮かんでいる。ヒポポの背中に2対ある翼が忙しなく動いている。何故か尻尾にある葉っぱもプルプルと動いているぞ。
「よし、やりゅじょ」
お、ハルちゃんやる気が出たかな? いつもテンション低めだからな。
「ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」
ハルが詠唱すると、弱々しく立っているのが精一杯といった様子だった精霊樹がキラキラと光り出した。幹も枝葉もしっかりと元気になったんだ。疎らだった葉が増えているように見える。
「植えるなのれす」
コハルが手に精霊樹の実を取り出す。
「どんどん植えるなのれす」
次から次へと取り出す。精霊樹の実はフワリフワリと地面に吸い込まれていく。
「コハル、良いか?」
「はいなのれす」
「よし」
長老が何処からともなく魔法杖を取り出した。そして……
「ピュリフィケーション……ヒール」
辺り一面に白い光が降り注ぐ。キラキラと光りのヴェールの様に湿地帯全体に降り注いだ。
「まただよ。やり過ぎだ」
「アハハ、リヒト。良いじゃねーか」
「本当にこの曽祖父と曾孫のコンビは手加減ってもんを知らないな」
「ふふふ、リヒト様、良いじゃないですか」
「まあな」
精霊樹がある湿地帯の脇。その周りには湿地帯にしか生息しない薬草もあった。湖面には何の花なのか、大きな花が咲いている。その薬草や湖岸に生えていた花の蕾まで咲き出した。
精霊樹の実が芽吹き、若木になるだけでなく周辺の植物まで元気になったんだ。精霊樹の周りに生えていた木まで、見るからに葉が増えている
「ヒポ、しぇいりぇいじゅうを呼んでくりぇ」
やっと自分の出番だとヒポポが一鳴きする。
「ぶもッ」
すると、フワリフワリと出てきた。ここも先の精霊獣と同じ蝶の精霊獣だった。どうやら層ごとに違うらしい。
「俺がヒールしてもいいか?」
「いいなのれす。思いっきりやるなのれす」
「おう、任せろ。ヒール」
リヒトが詠唱すると、精霊獣も喜んでいる。
ワラワラとリヒトの周りに集まって来た。エメラルドグリーンの翅をヒラヒラさせながら小さな葉っぱの付いた触覚をフリフリと動かしている。
「ぶもぶも」
「しょっか」
「なんていってるんだ?」
「りひとにありがちょっていってりゅ」
「アハハハ、どうってことねーよ」
「綺麗ですね」
「本当ね」
「エメラルドグリーンの蝶なんて見た事ないわね」
「シュシュ、蝶でも精霊獣やからな」
シュシュはしっかりと見えている。ルシカ、イオス、ミーレの3人はキラキラと光っているものがフワフワと飛んでいる様にしか見えていない。カエデは全く見えていない。魔力量の違いでそれだけの違いがあるんだ。
「アンスイールでも買って行きますか?」
「りゅしか、しょうらな!」
食べる事になると、テンションが上がるハル。今日は蝶々のお歌はいいのかな?
「かえれ、ちょうちょうのお歌ら」
「えぇ~、またかぁ~」
「お手々はこうッ!」
「はいぃッ」
嫌そうにしていたが、カエデも楽しそうだ。
2人は良いコンビだ。
「ちょうちょ~、ちょうちょ~、なのはにちょまりぇ~♪」
「ハルちゃんその先は?」
「なぁのはぁにあぁいたぁら、しゃくらぁにちょまれ~♪」
「アハハハ、ハルちゃん可愛いなぁ~」
「かえれも可愛いじょ~」
2人してお手々をヒラヒラさせている。まだまだちびっ子だ。平和で良いね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます