第42話 精霊がじぇんじぇんいねー
さて、次の精霊樹へ行かないとね。
なのにまだハルは精霊樹のそばを離れようとしない。小さな手でペタペタと精霊樹の幹に触れたりしながら精霊樹をジッと見ている。元気付けているつもりなのだろうか。
「しぇいれいじょうおーはこなかったんら」
「ハル、どうした?」
「こんなに元気がねーのにしぇいれいじょうおーは来ねーのか?」
「そうだな」
「しょれにじーちゃん、きぢゅいたんら」
「何がだ?」
「この国はしぇいれいがいねー」
「そうなのか?」
「ん、じぇんじぇんいねー」
ハルはこんなに精霊樹が弱っているのに精霊女王が来なかったことに疑問を持っているようだ。それにハルだけが見えるのだが、精霊が全くいないらしい。
精霊樹が1本辛うじて残っていたこの場所は、ハルがそう言う位に荒れていたんだ。
崖という程ではない。しかし急斜面で倒木もあり、足元が悪い。この様な場所にはヒューマンは入れないだろう。
ドラゴシオン王国では、ハルは精霊に囲まれたりしていた。なのに、この国ではいないんだ。全く見かけないと言っている。
「精霊が住み難い国なんだろう。精霊は自然を好む。この国にもあるのだが何かが違うのだろうな」
「しょっか」
「ヒューマンは木があれば切り倒す。山があれば中に入り山菜を採る。それはヒューマンにとっては、生きて行く為に必要な事なのだろう。生活していく為にな。だが、それが精霊にとっては住み難いのだろう」
「もっちょみんな仲良くれきたりゃいいのにな」
「そうだな。その為にアヴィーも頑張っておる」
「ん、ばーちゃんえりゃいな」
「ハハハハ、偉いか」
「ん、ばーちゃんにしかできねー」
「そうだな」
ハルの曾祖父母は何処かの誰かの為に、協力を惜しまない人なんだ。エルヒューレ皇国でも有名な夫婦だ。その曾孫のハル。
この先、どんな大人になるのかな? 楽しみでもあるが、いつまでも可愛いちびっ子でいて欲しい様な気もする。
「ハル、次の精霊樹はどこにあるか分かるか?」
「じーちゃん、わーりゅろまっぷらな」
「そうだ。見られるか?」
「ん、やってみりゅ」
ハルちゃん、お決まりのポーズになってしまった。両手を胸に当てて目を閉じる。そのお手々、何度も言うが可愛いな。
「えっちょ……ちゅぎの層らな」
「そうだ。分かったか?」
「ん、まーなー」
どうやら6層にはもうないらしい。次の層へ向かうようだ。
「しょの前にりゅしか」
「はい、どうしました?」
「腹へったじょ」
「ふふふ。少し早いですがお昼にしますか?」
「ん、しゅりゅ」
「ハルちゃんもう腹ぺこ仮面になったんかぁ?」
「かえれ、しゅぐに腹へりゅんら」
「そうやなぁ。小さいからやんなぁ」
「しょうら。かえれもいっぱい食べて大っきくなんねーとな」
「ハルちゃんにいわれたないで」
「ちびっ子らからな」
「ハルちゃんより大きいって」
「アハハハ」
カエデ、ハルに揶揄われている。
今一行がいるのはアンスティノス大公国の一番外側、6層目だ。そこから移動して5層目に入るらしい。普通、ヒューマンが馬で移動するにしても何日も掛かる。だが、一行には長老がいる。
一番のチートキャラじゃないかという位に、長老は何でもできる。カッコいいポジのリヒトでも足元にも及ばない。その上、誰に対しても与える安心感だ。包容力とでもいうのだろうか。
「唯の年の功だ」
と、長老は言うがそれだけではないだろう。穏やかな物腰、そして流石エルフ。曽祖父なのに、グリーンゴールドの瞳が優しげな眉目秀麗さに歳を重ねた渋さが加わるイケ爺で声までイケボ。ああ、羨ましい。
その長老の奥方であるアヴィー先生がいるのは国の中央にある城だそうだ。まだまだアヴィー先生の参加は先になりそうだ。
さて、一行は昼食をとり次の精霊樹へと向かう。
「じーちゃん、転移できねーのか?」
「なんだ、ハル。馬は飽きたか?」
「しょーじゃねー」
ハルはリヒトの前にチョコンと乗っている。やはり周りをキョロキョロと見ている。ハルにとっては何が珍しいのか?
「しゃっきのしぇいりぇいじゅも、かわいしょーらったかりゃ」
「あんだって?」
またリヒトが理解できていない。
「気になるか?」
「ん。心配ら」
「じゃあ先を急ぐとするか。皆、集まってくれ」
と、此処で長老の出番だ。皆が集まり、長老が杖を出した。その杖で半円を描くと一行の姿は消えていた。6層から5層へと転移したんだ。
転移した場所は5層の静かな湖畔だった。深い緑の湖が静かに横たわり、周りには木立が見える。自然が豊かには見えるのだが。ここに精霊樹があるのだろうか?
「じーちゃん、しゅげー!」
「そうか、じーちゃんは凄いか。ワッハッハ」
ハルがまた絶賛している。それもその筈、長老は次の精霊樹があるすぐそばへとピンポイントで転移したんだ。そんな事が出来るのはエルフでも長老くらいだ。
一言に転移と言っても、1度転移する本人が行った事があるか、しっかりと認識できる場所にしか転移はできない。長老はそれだけの経験があるということだ。
「ここら辺は以前アヴィーと来た事があるんだ」
「アヴィー先生と? なら長老、国の仕事でか?」
「そうだ。まだリヒト達が小さい頃だったかな」
何百年前の事なんだ? 因みにリヒトは今225歳だ。そのリヒトが幼い頃だと言うのだ。よく長老は覚えていたものだ。
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