第41話 態とです
次の精霊樹を目指して一行は街外れを目指す。パカパカと進む。
ハルはいつも通りリヒトの前にちょこんと座っている。お顔は周りを見るのに忙しいらしい。そこはアンスティノス大公国の1番外側、6層目にある小さな町だ。大きな目抜き通りがある訳でもない。近くに小山がみえる。そんな風景の町を一行は進む。
「ハル、気になるものがあるのか?」
長老が気にして馬を寄せて聞いた。
「ちげー。この辺は何の仕事をしてんらろーって思って」
「ハル、この辺りは山菜が採れるんだ」
「しゃんしゃい」
「ブハハ、言えてねー」
「もう少し行くと小さな山があるんだ。ワールドマップで見てみなさい」
「ん」
ハルはまたお決まりの様に両手を胸に置いて目を閉じる。そうしないとワールドマップは見られないのか? そんな事はないだろう?
「分かんねー」
「アハハハ、そろそろ慣れんといかんな」
「ん」
長老が話していた通り、少し進むと小高い山が見えてきた。疎らだが木が生えている。
山と丘の中間といった感じだ。大森林を見慣れている一行には山というには少し頼りない。
「あれを越えた辺りだな」
「ん、しょれは分かったじょ」
「そうか?」
どうやらハルはまだ広範囲でワールドマップを見ることに慣れないらしい。
「しかし、この程度の山の山菜が収入源なのか?」
「ここだけじゃないらしいぞ。いくつか似たような小山があるらしいな。栽培もしているらしいぞ」
長老はワールドマップを使いこなしている。流石だ。経験値が違う。
「じーちゃん、しゅげーな」
「ハル、何がだ?」
「おりぇ、しょんなこと分かんねー」
「ハルも見方に慣れたら分かるさ」
「覚えりゅじょ」
「そうだな」
この旅の間にマスターできると良いね、ハルちゃん。折角便利なスキルを持っているんだからね。
「そうそう、宝の持ち腐れやもんな」
「かえれ、まら覚えりゅ途中なんら」
「はいはい」
その山を越えるといきなり急な谷になっていた。抉られたような角度で谷ができている。木も残ってはいるが、根っこが見えていて雑草が生えた山肌が痛々しい。
「こりゃぁ土砂崩れでもおきたか。それで精霊樹も一緒に倒されてしまったのかも知れんな」
「この角度だからな」
さあ、どうやって降りるんだ? 崖みたいになっているし、足場も悪いぞ。
「まあ、ボチボチ行くとしよう」
そのまま長老は降りていく。リヒト達もだ。馬も怖がる様子がなくパカパカと普通に降りて行く。
「滑らないように気をつけるんだぞ」
「これしき、大森林の中を走るより楽勝だ」
楽勝らしい。大森林で鍛えられているという事らしい。
「この辺だと思うんだが……ハル、分かるか?」
「えっちょ……じーちゃんもうちょっとらな」
「そうか?」
もう少し奥へと入っていく。そこには倒木があった。長年倒れたままなのだろう、苔が生えている。小さな若木も育ち始めている。どうやら崖崩れがおきたのはかなり前の事らしい。
「あ、じーちゃんあしょこら」
ハルが短い指で前方を指さした。木々に紛れて1本の細い精霊樹がなんとか立っていた。ハルの手の甲にある印も光っている。
だが、見るからに弱々しい。枝が折れてしまったのだろうか、片側の枝が無くなっている。よくまだ持ちこたえていたと思える位に弱っている。枝葉が枯れかけている。
馬を降り、精霊樹に近づくハル達。輝きがないので、リヒト達にはどこに精霊樹があるのかさえ分からない。輝けない位に弱っていたんだ。
「かわいしょうらな」
「これはいかんな」
「こはりゅ」
「はいなのれす……ありゃりゃ」
コハルも弱った精霊樹を見て言葉が出ないらしい。
「やりゅじょ」
「はいなのれす」
「よし。ぴゅりふぃけーしょん、ひーりゅ」
白い光が精霊樹を包み込む。
「沢山植えるなのれす」
コハルが小さな両手に乗せて精霊樹の実を取り出す。どんどん取り出す。その度に精霊樹の実は地面へと吸い込まれていく。一体、どれだけの精霊樹が駄目になったのだろう? アンスティノス大公国に来てからもう何本も植えている。
「長老、お願いなのれす」
「ああ」
長老がまた魔法杖を取り出す。そして静かに詠唱した。
「ピュリフィケーション……ヒール」
辺り一帯に真っ白な光が降りて来る。そして、たった今植えたばかりの精霊樹の実が芽吹き若木へと育っていく。片側の枝が無くなっていた精霊樹の枝がニョキニョキと生えてきた。枯れかけていた枝葉が艶々と生き返っている。
「長老、今のは態とだな」
「アハハハ、ここは多少元気をつけてやらんとな」
確信犯だ。周りの木々にも届くようにと詠唱したのだろう。見るからに元気に生き生きとしてきた。小さな若木が成長している。山菜まで増えていないか?
「ああ、やっと見えたぞ」
「弱っていたんですね」
「こんな場所でよく1本でも持ったもんだ」
「ほんちょら。ひぽ」
「ぶも」
ハルが呼ぶと、ヒポポがハルの亜空間から出てきた。ここなら、ヒューマンに見られる事もないだろう。背中にある小さな翼でフワフワと浮いている。
「しぇいれいじゅうはいりゅか?」
「ぶもぉッ」
ヒポポが一鳴きすると、ヒラヒラと精霊獣が集まってきた。
見た目は今までと同じクリオネ仕様なのだが、ブルーが薄い。1つ前の精霊獣も薄かったがそれよりも薄く向こう側が透けて見えている。
「ありゃ、元気がないなのれす」
「よし、ひーりゅ」
ハルが両手を掲げて詠唱した。精霊獣達を光が包み込む。これで大丈夫だ。みんな元気になった。体のブルーも濃く鮮やかになった。
しかし、アンスティノス大公国の精霊樹は思った以上に弱っているらしい。
「しぇいれいじょうおーは来たのか聞いてくりぇ」
「ぶも」
ヒポポが精霊獣とお話をしている。頭を時々上下に動かし、短い尻尾もフリフリしながら。
「こんな場所にまさか精霊樹があるなんて誰も思わないわね」
「シュシュ、そうよね」
「長老のスキルはとんでもないわね」
「ハルも同じものを持っているんでしょう?」
「ハルちゃんはまだ使いこなせてないもの」
「そうね」
シュシュとミーレだ。シュシュはずっと小さくなってミーレに抱かれている。そのせいか、『あたしが乗せるのに~』とは、言わない。大人しい位が丁度いい。
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