第40話 できる男
「イオスって頼りになるわよね」
「そうですね。ロムスさんに幼い頃から仕込まれていますからね」
皆様は覚えておられるだろうか? ロムス・ドレーキス。イオスの父でリヒトの実家シュテラリール家の執事だ。イオスは本当は執事見習いなのだが、今はハルに従者としてついている。カエデの師匠でもある。
ハルがもう少し大きくなるまでは、イオスがハルに従者として付く事になったんだ。カエデを鍛えてもいるから、それも考慮しての事だ。
一行が隣領に入る直前で、イオスとカエデが待ち受けていた。
「宿取れましたよ」
「そうか、イオスすまんな」
「いえ」
「イオス兄さん、何でも知ってるんやなぁ。尊敬するわ」
「本当は、執事見習いだからな」
「そうッスね。オヤジに叩き込まれてますからね」
やはりロムスさん、出来る執事だ。ミーレやカエデにお茶の淹れ方を指導したのも、ロムスさんだ。
宿は領地で1番の宿屋だった。
以前、旅をした時にリヒトが話していた。アンスティノスではあまり安い宿だと鍵を開けて入ってこられるし、金品を盗まれると話していた。だからだろう。防犯も、しっかりしている宿となると、こうなるのだろう。
「おー、ひりょいな」
「けどハルちゃん、お風呂があれへんで」
「まじ!? しゃーねーな、クリーンらな」
「クリーンで充分よぉ」
風呂嫌いの白い奴がいた。風呂が嫌いというよりは、洗われ方によるのだと思うぞ。ルシカとイオスが顔面から湯をかけるからシュシュは嫌がるんだ。
「晩飯はろーしゅんら?」
ハルちゃんは食事の事が気になるらしい。
「小さなキッチンがありますから私が作りますよ」
「やっちゃ。りゅしかの飯なりゃなんれもいいじょ」
「そうよね、ルシカの料理が1番だわ」
「ルシカのご飯は美味しいなのれす」
みんなルシカの料理が大好きだからね。
「ありがとう、嬉しいですよ」
「ルシカ兄さん、手伝うわ」
「大丈夫ですか? カエデも疲れたでしょう。ゆっくりしていても構いませんよ」
「大丈夫や。何ともないで」
「そうですか? では、お願いしますね」
「はいにゃ」
ルシカの料理を、美味い美味いと鱈腹食べて、ベッドでグッスリと眠っているハル。同じベッドにはシュシュが、横にはヒポポが。隣のベッドにはカエデが眠っている。
お惚けチームが眠ると静かなものだ。
「長老、ここからまだかなりあるのか?」
「いや、そうでもないが……そうだな。半日位か」
「そうか」
「領地の外れに小さな谷があるんだ。そこに精霊樹がある筈だ」
「ほう。しかし、ドラゴシオンとは全然違うな」
確かに。ドラゴシオンの精霊樹は皆元気だった。瘴気を浄化する魔石が何箇所もあるせいか、数もすくなかった。
それに比べて、アンスティノスは各地にあるらしい。今のところ、元気だった精霊樹はない。数が減り元気を無くしていた精霊樹ばかりだ。
「公都を再建する時に魔石を設置しておいて良かったな」
「長老、だがそれでも1箇所だけだろう? 各国には何箇所も設置されている」
「まあ、そうなんだが。全く無いよりはマシだ」
もう国として沢山の人達が生活をしているんだ。そこに後から魔石を設置するとなると難しいのだろうか?
「問題は協定だ」
「ああ、アヴィー先生が苦労している」
「協定さえ締結できれば魔石の設置などどうとでもなるんだ」
そうなのか? あのような大がかりな設備をどうとでもなると言ってのけるエルフ族の長老。
魔石とは、世界の瘴気を吸収し浄化する為に太古から各地に設置されたものだ。現在はエルフ族がメンテナンスを一手に担っている。
遙か昔はその魔石の設置にエルフだけでなく、ドラゴン族やドワーフ族、今はもう絶滅したハイヒューマンも協力していた。それだけではない。精霊も協力していたんだ。
その魔石が唯一設置されていなかったのが、アンスティノス大公国だ。
街が魔物によって壊滅状態になり各国が協力して復興した。その際に魔石を設置したんだ。
ハイヒューマンの慰霊碑も建てた。100年足らずで一生を終えるヒューマンにとっては忘れ去られた過去なのかもしれない。しかし、他の種族にとっては違う。その時の事を覚えている者も沢山いるんだ。実際に長老はその時にハイヒューマンを助けようと尽力した人だ。ハルの祖父であるマイオル・ラートスもハイヒューマンだった。
ハルの髪色、エメラルドの様なグリーンが入ったゴールドの髪はハイヒューマン特有の色だ。
今回、精霊樹もこの国では少ない、元気がない。魔石があれば多少は精霊樹の助けになるのだろうに。
精霊樹が枯れていった数と同じだけ、精霊獣も消えていったんだ。
そして、1番の目的は精霊女王を探し出し助ける事だ。
ハルちゃん、覚えているかな?
明日からまた精霊樹を探さないとね。
「ふわぁ~……」
「ハルちゃん、おはよう」
「かえれ……おはよー」
「うん、お着換えしよなー」
「あら、ハル。起きたのね」
「みーりぇ、おはよー」
ミーレが着替えを手に部屋に入ってきた。
「カエデ、ここはいいわよ」
「ほな、自分はルシカ兄さん手伝ってくるわ」
カエデは朝から元気だ。ハルはテンション低めなのに。
「ハル、起きてる?」
「ん」
「本当、ハルって朝はテンション低いわね」
「ん、ねみーんら」
「ふふふ、よく寝たでしょう?」
「ん、よく寝たじょ。ちゅぎはりゅしかの飯ら」
「はいはい」
ハルちゃんのいつもの朝が始まった。テンションは低いけど。
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