第17話 2つの月

 ドラゴシオン王国にずっとずっと昔から伝えられるお話なのだそうだ。

 世界樹は精霊樹を大切にしている。精霊樹は世界の瘴気を浄化する役目がある。大切な役目だ。だから、精霊樹よりも力の大きい世界樹からの贈り物だと言われているそうだ。

 世界樹から精霊樹への贈り物。ほんの少しだけれども、世界樹の力を分け与えているんだ。頑張れと、励ますかの様に時折贈られる贈り物だ。

 だから、世界樹を現すと言われる、オレンジの大きな月から地表にある精霊樹に向かって光の道筋ができるのだと言われている。地上から見ると、まるで光の柱が立つ様に見えるのだそうだ。


「どうだい? 良い話しだろう?」

「ん、良い話しら。けろ、しぇいれいおーはしょんなことなんも教えてくりぇなかったじょ」


 ハル、ここはもう少し感動しよう。良い話だと浸ろう。ハルちゃん、意外とドライだな。


「アハハハ。ハル、そうだな」

「しぇいれいおー、じゅりーな」

「ハルがおばば様に会うのが分かっていらしたのかも知れんぞ」

「え、しょう?」

「ああ、精霊王様は何でもお見通しだ」

「しゅげー」


 長老とハルがワールドマップにリンクさせ登録をした。ワールドマップとは。

 その名の通り世界地図だ。この世界の大まかな世界地図だ。但し、そのスキルを持つ者が実際に行った場所しか詳細には表示されない。長老は世界中、飛び回っていた経験がある。ハルもこの世界に来てからまだ1年は経っていないが各国を旅した。

 例えば、ハルならアンスティノスには入国したことがある。が、一部しか実際には行っていない。なので、その行った場所は詳細に表示されるが、あとは大まかな国としての表示のみになってしまう。

 それでも、何も手掛かりがないよりは、大まかにでも場所が分かるだけ随分とマシだ。


「後はそのワールドマップが教えてくれるだろうよ」

「しょっか」

「元気な精霊樹は光も強く大きいが、枯れかかっている精霊樹は光も小さく弱々しいんだよ」

「たいへんら。早くたしゅけてあげなきゃ」

「そうだね。でもハル、無茶をしたら駄目だよ。ちゃんとみんなの意見を聞くんだ」

「ん、わかっちゃじょ」


 本当だろうか? 寸前まで、シュシュと2人で行くと言っていたのは一体誰だったか?


「ハルが言う通りおばば様のところに来て良かったな」

「りひと、しょうらろ。へへん」

「やっぱ流石ハルちゃんよねッ」

「しゅしゅ、のしぇちぇ」


 と、カミカミで言いながらシュシュにもたれ掛かるハル。もう限界の様だ。


「あら、ハルちゃんお眠だわ」

「おやおや、遅くしてしまったね」

「ハル、じーちゃんが抱っこしてやろう」

「ん、じーちゃん」


 大人しく長老に抱っこされるハル。そのまま身体を預け眠そうだ。


「長老、寝かせてきますよ」

「ミーレ、ワシが抱っこしていこう」


 長老もハルが可愛くて仕方がない。亡くした者の話しが出たからまた余計に思う事もあるのだろう。


「おばば様、ありがとう」

「良いってことさ」

「リヒト達もハルを頼んだよ」

「ああ、任せてくれ」

「リヒトはエルフ族最強の5戦士の1人なんだから大丈夫だろうけどね」

「おばば様、そんな事関係なくちゃんとハルを守るさ」

「そうだね……」

「ぶも」


 と、ヒポポがハルを追いかけていく。

 ノッシノッシと歩いているのだが精霊獣だからだろうか。何故か重量感があまりない。大きい体なのに。


「ああ、ヒポポもハルが好きみだいだね」

「ハルは好かれるからな」

「加護を持っているんだったかい? でもそんなものが無くてもハルは好かれるだろうね」

「本当だ」


 そう、今のハルは可愛い。文句なしに幼児の可愛さがある。だが、この世界に来た頃のハルはそうではなかった。

 前世で両親に迫害され雁字搦めだった事でハルは頑なに大人を信じようとしなかった。そのハルの気持ちが癒えたのも、長老だけでないリヒト達のお陰でもあるんだ。

 そして、エルフ族だけでなく各国の人達からも可愛がられるハルの出来上がりだ。

 少しテンションは低いし何を仕出かすか分からないが、素直で可愛いハルが顔を出した。エルフに癒され可愛がられ、長老やアヴィー先生に会い無条件で愛してもらえる事を素直に受け入れ喜んだ。

 このまま幸せでいて欲しい。そう、皆が願っていた。

 当のハルはベッドに入った途端に寝息を立てていた。横にいるシュシュにくっつくように寝ている。ベッドの横にはヒポポが寝そべっている。聖獣だけでなく、精霊獣にも愛されるハル。

 そのハルの冒険はまだ始まったばかりだ。

 明日はどんな冒険が待っているだろう。


「おばばしゃま、ありがちょ!」

「また、ゆっくりおいでよ!」

「うんッ!」

「ホンロン、頼んだよ!」


 来た時と同じ様に、紅龍王ホンロンの背中に乗っておばば様の家を後にしたハル達一行。


「長老、次はどこに行くんだ?」

「昨日聞いたろう、城にも精霊獣がいると。それを確認しよう」

「そうだな」


 本当にリヒトは分かっているか? 覚えていたか? 少し頼りない。カッコいいポジのリヒトなのだから頑張って欲しいものだ。

 

「ぶも」


 ヒポポが不満そうな声を上げる。


「なんだよ、ヒポポ。俺、ちゃんと分かってるぞ」

「ぶもぉ」

「あ、疑ってるな」


 表情筋がお休み中のカバさんだ。リヒトはどうやって分かるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る